来日5年目、20歳のブライアン・リー(Bryan Lee)は8月、大手事務所イマージュでメンズモデルとしてのキャリアをスタートさせた。オーディションで忙しなく過ぎる毎日でも「ペンを握らない日はないよ」と言う彼は、実は漫画家でもある。カナダ国籍、台湾出身。日本には縁もゆかりもなかったが、コマ割りの物語に魅了され、日本語の猛勉強とともに創作に打ち込んでいる。9月5日まで、自身初となる作品展が東京・下北沢のカフェ&ギャラリースペース「キャンドルカフェ」で開催中だ。
今回の展示作品「穴」は、将来を嘱望される自閉症の天才画家少年が、美術館に展示された自分の作品を盗み出すところからストーリーが始まる。16ページの短編は、ポップなタッチでありながら人間の汚さや純粋さとともに、自身の「周囲の期待に応えること」への反発を投影した。「僕はいつも思ってるんだ。大人はみんなが人生の大事なことを知っているわけじゃない。なのに僕にはこうするべきだ、こうなるべきだと勝手なことを言う」。ブライアンには、ロシア、カナダ、インド、中国と4カ国の血が流れている。彼は作品制作を通じて、自分のナショナリティや人生と向き合い、そしてモデルと漫画家という2つの夢のはざまで「自分は何者になりたいのか?」と自問し続けている。
漫画漬けの日々も 先に決まったのはモデルデビュー
だが高校3年間では、手塚賞(集英社が主催する新人漫画家の登竜門)入選には届かず、その後漫画の専門学校へ進学するも「ペンを持つのが嫌になった時期があった」。そのときたまたま見つけたのが「メンズノンノ(MEN‘S NONNO)」のモデル募集。「結局(選考は)落ちたんだけど、それで自分の中に火がついたんだ」。それから1カ月で10キロ体重を落とし、専門学校の友人をたどってファッション関係のイベントに参加したことをきっかけに、モデル事務所への所属が決まる。
「不思議だけど、モデルをやるようになって漫画を描く時間は減ったのに、自分でもはっきりと上手くなったのが分かる。単純に絵が上手になったんじゃない。『ドラゴンボール』なら鳥山明、『ワンピース』なら尾田栄一郎さんみたいな……。それは大げさだけど、でも『僕にしか描けない』っていう個性が線ににじむようになった」。撮影の現場ではプロのカメラマンやスタイリストなど一流のクリエイターと触れ合う中で、創作につながる様々な気づきが落ちている。「カメラマンに要求されるたたずまいだったり、スタイリストが着せてくれる自分自身でも気づかないような個性を表現してくれる洋服だったり。いつもメモを持ち歩いて、漫画に生かせるヒントがあれば常に書き留めるようにしているよ」。
2つの仕事が刺激を与え合う 「どちらも本気で極めたい」
この夏、通っていた専門学校を辞めた。「モデルをやって、環境や周りの人間が一番自分を変えてくれるんだと気づいた。だから漫画家を目指すのも、プロのアシスタントになるのが近道だと思った。両親とか周りの大人には『学校は出た方がいい』って言われたけど、思い切ったよ。自分の人生に一番大事な選択は自分の意思でしたいし、今がそのタイミングだと直感したんだ」。
しばらくはモデルで稼ぎながら、そのかたわら漫画を描く生活を続けるつもりだ。自分の将来については「モデルは26、7歳くらいまでが賞味期限って言われているけど、漫画は一生書けるから安心だね(笑)」と冗談交じりに話す。「結局僕は何になりたいのかって?うーん、『漫画が書けるモデル』はちょっと違う」。ブライアンにとって2つの仕事は互いにいい影響を与え合うもの。「だからこそどちらも本気で続けるし、極めたい。(『スラムダンク』の)井上雄彦みたいに美術館で展示されるくらいの作品を作りたいし、パリコレにも出たい。きっとその先に、自分だけにしかなれない表現者の姿があるはずだと思っているから」。
■BRYAN LEE EXHIBITION 「穴」
日程:8月22日(土)〜9月5日(土)
時間:11:00〜29:00(日月祝は18:00〜)
場所:CANDLE CAFE & Laboratory △Ⅱ
住所:東京都世田谷区北沢2-37-3-2A