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14歳の中学生が直撃 豪華布陣のアートスクール「東京芸術中学って将来何の役に立ちますか?」

 編集者の菅付雅信は、「リトゥンアフターワーズ」デザイナーの山縣良和がディレクターを務める渋谷パルコの9階の教育スペース「GAKU」で、中学生に向けたアートスクール「東京芸術中学」を9月から開校する。ゲスト講師にはアーティストの会田誠、ダンサーの菅原小春、スタイリストの北村道子、音楽家の渋谷慶一郎、建築家の田根剛、「アンリアレイジ」デザイナーの森永邦彦などの豪華な顔ぶれが並び、授業料は30万円。対象は中学生ではあるものの、その分野のトップクリエイターたちを招聘した野心的なアートスクールだ。この「東京芸術中学」の1番目に申し込んだ中学生、瀧澤照英くん(インタビュー当時は13歳)が、菅付雅信&山縣良和に直撃した。「東京芸術中学って、なんの役に立つの?」。

瀧澤照英くん(以下、照英くん):本日はよろしくお願いいたします。僕は初音ミクが好きで、将来は音楽関係の仕事もしたいと思っています。いきなりですが、「東京芸術中学」って将来役に立ちますか?

菅付雅信(以下、菅付):僕自身は多摩美術大学で教えたり、下北沢の書店「B&B」で編集スパルタ塾というのを7年間やっていたりと、いろいろ教えるということをやってきました。そんなときにパルコ側から10代を教育する場をつくってほしいというオファーがあったんです。大学生や社会人は教えた。でも、もっと若い人を教えるとなると、それだったら中学生の頭をクリエイティブにすることを思いついたんです。大学生以上になると、アートやデザインの知識がそれなりにある人もいるけど、そうじゃない人もいる。でもクリエイティブの教育は早ければ早いほどいいんじゃないかとは感じていました。大学生からでは、アートやデザインに触れるのは遅すぎる。中学生くらいのスポンジのように柔らかい頭にクリエイティブなものをガンガン入れてしまった方がいいと思ったんです。

照英くん:もしアーティストやデザイナーを目指すなら、スタートが早い方がいいってことですか?

菅付:確率論的には、ということです。もしその人に才能やセンスがあったとしたら、できるだけ早い方がいい。

照英くん:なるほど。では夢をかなえるために必要なことはなんですか?

菅付:その前に僕のことを話させてください。僕は宮崎県出身で、宮崎県内では一番の進学校に入ったんだけど、落ちこぼれだったんです。どのくらい落ちこぼれかというと、450人中440番台。440番台の人たちとは落ちこぼれ同士でみんな友だちでしたが(笑)。不良ではなかったんですが、授業受けたくない、学校行きたくない。そんな高校生でした。その後法政大学に進学したものの大学も中退しちゃったんだけど、いま思えば学校にもいいところはたくさんあった。社会に出ると1人でなんでもできるわけではなくて、多くは共同作業なんです。その意味では、刺激を与えあって競争することを体験できる環境はいいんです。ただ、本来は一人ひとり個性を持った人間なのに、学校は同じカリキュラムと画一的な判断基準で、システマチックに判断されてしまう。本来は文化的な感性は個人差が大きいはずなのに。「東京芸術中学」は、少人数でもいいから、同じような感性や気持ちを持った人が集まって文化や芸術を学べる場であればいいと思っています。

山縣良和(以下、山縣):「東京芸術中学」には、文化やアートのいろんな分野のプロが来ます。文化やアートっていっても、ファッションや音楽、写真、演劇、ダンスなどいろいろな分野がある。そういった多分野のプロたちから熱中する種をもらえるというのがいい。中学生向けの学校ということに限らなくても、これだけのプロたちを見れる場は、そうそうないのではないか。

菅付:クリエイティブ教育で重要なのは、カリキュラムよりも人だと思うんです。つまり、教える人。なんだかわからなくても、非常に優れたアーティストが一生懸命、自分の分野の歴史やクリエイティブについて話している、その同じ場でやり取りできるってことは、どんなに優れた教科書よりも効果があると思っています。なぜなら人は人に感動したいから。リアルに、自分の目で耳で、目の前のすごい人の話に共感して、感動してほしい。15人の先生が、新しいものを生み出すために過去にこんなに苦しんだ、こんなことにすごく感動した、そういう話を聞くと、同じ人間なんだなあと思うじゃない。年の差があってもそれはわかる。同じ場にいることが大事なんだよね。

照英くん:サポート体制を教えてください。

菅付:かなりのスパルタ式です(ニヤリ)。毎回レクチャーがあって、レクチャーの最後に課題を出します。課題は1〜2カ月後に提出して、講師が講評します。講師はそれぞれの分野のトップクリエイターですが、例えば音楽家の人は曲を作らせよう、ダンサーの人はダンスを創作させようと考えています。そしてそれを彼ら/彼女らが講評するんです。すごい刺激にはなります。

照英くん:面白そうですね。視野が広くなる気がします。

山縣:モノ作りは独立した気持ちが大事です。どんどん講師に質問をしてほしい。ある意味で、講師や時間、場所を自由に使ってほしいけど、その方法はあえていいません。時間をどう使うか、先生からどう引っ張り出すか、それを自ら考えてくれたらいいなあと。

照英くん:生徒たちに期待することは?

菅付:先生の話に触発はされてほしいけど、うのみにはしないでほしいなあ。自分だったらこうするかなあとか、自分だったらそうはしないなあ、とか。自分の考えを押し殺さないほしい。「東京芸術中学」の授業数は、学校の授業に比べたら格段に少ない。その分、「東京芸術中学」は普通の中学校では与えられない大きな気づきを中学生に与えたい。ある種の感覚や才能への気づきを得てもらって、眠ってるものを引き出してほしい。これ好きかも、これいいかも、これ面白いかも。そんな気づきを触発できればと思っています。クリエイティブに限らず、プロになりたいかかどうかは早い段階で気付ければ、迷わず努力して、それを積み重ねて夢に近づけていける。それはすごく重要なことです。例えば20歳になってから、プロのサッカー選手になりたいと思っても難しいですよね。だからクリエイティブでも好きなジャンルがわかっていれば、勉強のスタートが早ければ成功する可能性が高くなるはずです。アートでも同じだと思うんです。気付きは早いほうがいい。そして好きだ、勉強したいと思ったら、その時点から一生懸命インプットしたほうがいい。照英くんはテニスをやっているそうだけど、スポーツでも大事なのは基礎体力。芸術も同じで、10代からやっていくべきなんです。音楽をたくさん聴いてみよう、聴いているだけじゃなくて曲を弾いてみようとなったら、関わり方が違ってくる。そうなると聴き方や見方が変わる。それが大事なんです。

照英くん:山縣さんはどう思います?

山縣:自分のことも他人のことも、あまり決めつけないほうがいいと思っています。自分はこれが苦手でできないんだって思い込みすぎちゃって、自分にレッテルをはるのはよくない。僕は何にでもなれる、何でもできると考え、そしてそこで出会った友だちにも影響を受けて、その変化を受け入れていくこと。僕も小学校、中学校で、ほんとびっくりするくらい勉強ができなかった。よくテストで「0点」も取ってました。でもそんな自分に「0点」のレッテルを貼ったりすると、それで終わり。僕はそれでも何かできるかもしれない、と思えたことが助けてくれた。リラックスして、自分は何でもできるかもしれない――そんな風になってくれればいいなあと。

山縣:照英くんは親御さんから「うちの子は変わってて」って言われてたけど自分でどう思ってる?

照英くん:うーん。そうは思ってないですね。

菅付:まあ、クリエイターなんてみんな変わっていて、品行方正な人なんて皆無だよ。自分が違うってことをエネルギーに変えていけばいい。むしろ違うってことが価値になる。学校の勉強できなくてもめちゃくちゃ映画に詳しいとか、なんでもいい。でもそれらの強いこだわりがその人の個性であり、教養になっていれば、クリエイティブの分野だと成功しやすい。「東京芸術中学」はこんな小さな空間だけど、それでもその少ない人数の中で人と違うってことを、良いエネルギーに変えてほしい。「東京芸術中学」で学んだ後には、ほかの人と違うってことが素晴らしい――そういった感覚を持ってほしいな。

照英くん:ところで菅付さんの編集者ってどんなお仕事なんですか?

菅付さん:辞書的な説明をすると、雑誌や本を作るってことなんだよね。でも半分は合ってるけど、半分は外れている。編集の本質は、企画を立て、人を集め、モノをつくること。昔はマスなメディア、つまりは大量に伝えるコミュニケーション手段が紙だったけど、今はメディアがすごく広がった。僕はいろんなメディアに編集が必要だろうと思っています。例えるならスマホのアプリを作ってる人も編集だと思っています。

照英くん:うーん。わかるようなわからないような。

菅付:アプリを作るのも、企画を立てて、人を集めて、モノをつくっているから編集だと思う。そして世の中には自分よりずっと才能がある人がいっぱいいます。だから何かを作りたかったら、自分にない才能を持つ人たちに頼めばいい。世の中にはまだない、全く新しいモノやコトを企画して、人を呼びかけて作る、それが編集者の仕事です。例えば、この篠山紀信さんの写真集「TOKYO ADDICT」(小学館)のときは、僕が誰をどこでいつ撮影するのかを決めて、被写体と篠山紀信さんのスケジュールを調整しました。

照英くん:編集者が、撮影する日時を決めたりするんですね。

菅付:うん。どういった撮影にするのか、例えば大型カメラで撮影するのか、どうしたらいい写真になるのか、なども相談しています。このパラパラダンスの写真は、当時パラパラダンスが流行っていたので、パラパラダンサー1000人に集まってもらって、このクラブの営業開始の6時間前に行って、セッティングして撮影しました。撮影するときには音を出せなかったけど、盛り上がっているようにするためにいろいろ準備しました。篠山紀信さんのような写真家のスーパースターと被写体の間にはいって、大変なことも本当に多い。それでもいい写真が撮れた、生み出せた、それができたら、苦労は報われたから、全部OK(笑)。写真を撮影するのは写真家だけど、編集者が企画して初めて世の中に生み出せる。それが編集者の醍醐味です。

照英くん:ファッションデザイナーはどんな仕事なんですか?

山縣:わかりやすく言うと、“人の装いを作る”ことです。服をデザインするだけじゃなくて、人の内面と向き合い、メイクや髪型、どんなスタイルにするのか、それをどうやって見せて伝えるか。僕の場合はファッションショーを重視することが多いのだけど、そのときには伝えたいメッセージやコンセプトを考えて、会場を選定して、服を作って、メイクや髪型、モデルを歩かせる順番などを考えて決めていきます。ショーを見てどう感じるかは人それぞれだけど、ショーを見たことで、人の意識や行動を変えるきっかけを与えたいと思っています。照英くんはどんなファッションが好きなの?

照英くん:好きなファッションというか、身だしなみはいつも整えたいとは思ってます。テニスをやっているので、ウエアも同じメーカーでそろえたい。やっぱりメーカーって一つのテーマで沿って服を作っているので、同じメーカーじゃないとちぐはぐになっちゃうので。

山縣:そうだよね。でも逆に、わざとちぐはぐにするからかっこいいという考え方もある。どっちもあるんだよね。あえて崩すことで見えることもある。いろいろな考え方があることを知ってほしいです。ファッションショーでは、これまで見たこともない服が出てきて、それが時代を変えることがある。ファッションは人間に一番近いメディアだから、それが可能。ファッションが新しい人間像を作って、世界が変わる――それが醍醐味です。

照英くん:いつも心がけていることはありますか?

菅付:誰もやってないことをやりたい、と思っています。嫌いなことは他の人がすでにやっていることをなぞること。誰かの後ろを歩くようなことはやりたくない。そのためにも他の人がやっていること、すでに他の人が歩いている道を知ることが重要です。オリジナルだと思っても、他の人がやっていることも多い。

山縣:わかります。「これ、誰かのまねだよね」って思われるほど嫌なことはない。もちろん似てしまうことはあるけど、ここだけはやってないんじゃないか、っていう小さくても何かを探して、ファッションをデザインしています。

菅付:どんなジャンルでも一生懸命、熱中してやっていれば、必ずその人らしさは出る。でもそれは個性であっても、オリジナルではないんだよね。だから探さないと見つからない。でも探せばきっとある。それを一生懸命続けることで、完成度が高くなって、自分だけの道を歩ける。本当の個性が出るんじゃないかな。

照英くん:個性を出すためには、やりたいことを一生懸命やればいいってことでしょうか?

山縣:大事なのは、自分が当たり前だと思っていること、普通だと思っていることを、もう一度見直してみることだと思います。自分が当たり前だと思っていることの裏側に個性のヒントがある。当たり前だけど、自分と他人が全く同じということはない。それこそ、置かれていた環境って十人十色なわけで。それをよく考えていくことで、自分らしさや個性のヒントがあると思っています。

照英くん:これまで手がけてきた自分の作品とは、どんな存在ですか?

菅付:自分がつくったものはなかなか客観的に見れない。だから、いろんなことを言われるのは大事なこと。練習試合も大事だけど、本番試合をたくさんやったほうがいい。それが糧になる。編集者の場合は、それを記事にするなり、出版なり、世の中に出すこと。そうして社会からの評価を受ける。自分が編集した本のアマゾンのレビューなんかを読んでいると、めちゃくちゃ頭に来ることも多いよ。ろくに読んでないのに、低評価を付ける人だっている。でも、それを恐れていたら次のところに行けない。

山縣:同感です。作るってことは、覚悟を持つってことだと思います。覚悟を持って世の中に出す行為が作品なんだと思います。バリアしすぎちゃうと、大事なことが見えなくなる。一つ一つその繰り返しです。

照英くん:勇気が必要なんですね。

菅付:何かを出したら、いろんな人がいろんなことを言ってくる。でも何かを出したら、評価や代金などに加えて、知恵をくれることも、人を紹介してくれることだってある。世の中とのキャッチボールをどうするのかは、プロとして大切なことだと思います。万人から喜ばれることもあれば、少しだけ好きになってくれる人もいる。なんにせよ強い願いを込めて出すと、反応してくれる。そういった仲間をどれだけ増やせるかが大切なんだと思います。

照英くん:最後にメッセージをお願いします。

菅付:YOU ARE NOT ALONE。僕たちは一人ぼっちじゃない。共感する人たちがいるってことを感じ合うことは大切です。クリエイティブな人たちの数はけっして多くない。時代の空気や価値観、新しいコトを作れる人は少ないけれども、そうした人が次の時代を作る。だから「東京芸術中学」は、そのいい空気を作っていきたい。空気を読めるヤツ、じゃなくて空気を作れるヤツのたまり場にしたいなあ。

山縣:世の中には変わった人たちがたくさんいます。さまざまな個性で出会えるカオス的な場になったらいいかな。

WWD:最後に照英くん、今日聞いて印象的だったフレーズは?

照英くん:「自分だけの道を探して歩く」です。これからの授業が楽しみです!

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