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目指すは廃棄ゼロ アディダスの循環型デザイン戦略の全てをキーマンが語った

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 いま企業には“作って売ったらおしまい”の直線的なビジネスから、回収やリサイクル、土に還る生分解性素材の利用など使用済み商品を循環させる仕組みへの転換が求められている。サステナブルなデザインの理想形は、廃棄ゼロで循環する“ループ(切れ目のない輪)”をつくること。そのための技術開発が世界中で行われており、その先進企業の一つがアディダス(ADIDAS)だ。同社は全商品においてこの“ループ”を完成させるために3つのコンセプトを掲げる。①リサイクル素材の利用、②再利用できるデザイン・製造、③生物資源の利用――だ。これが本格稼働すれば、アパレルやスポーツの産業構造自体を変える可能性がある。それほどインパクトの大きい新しい考え方であり、ビジネスの仕組みだ。ループ戦略を推し進めるジェームズ・カーンズ(James Carnes)=グローバル ブランド戦略バイスプレジデントにオンラインインタビューを行った。8月31日号に収めきれなかったインタビュー全文を紹介する。

WWDジャパン(以下、WWD):“ループ”戦略は、現代の工業技術とシューズ・アパレル産業のビジネスモデルの観点の2つを考えると非常に完成度の高いコンセプトだ。サステナビリティ戦略の軸を“ループ“に定めた理由を教えてほしい。

ジェームズ・カーンズ=グローバル ブランド戦略バイスプレジデント(以下、カーンズ):きっかけは、素材をリサイクル素材に替えようと考えたことだった。しかし、100%リサイクル素材を使ったとしても商品自体がリサイクできるわけではないし、ゴミの量は減らないと気づいた。そうして思いついたのが “サーキュラーループ” (再利用できるデザイン・製造)だった。でも、“サーキュラーループ”の商品を何度かリサイクルしたとしても最終的にごみになってしまうことにも気づいた。だから自然に還るもの、生分解性というアイデアに行き着いた。3つのコンセプトは個別のものではなく全て関連していて、プラスチックごみをなくすために、3つで1つのゴールを目指している。われわれは、アディダスで1年間に生産する6~7億点の商品を全てリサイクル可能か、あるいは土に還るものに替えていくことを目指している。そのためにファーストステップとして可能な限りリサイクル素材に替えていく。24年末までにバージンポリエステル使用をゼロにすると発表し、20年末時点ではポリエステルの50%がリサイクルポリエステルになる予定だ。そして次のステップは、「リサイクル素材の商品」から「リサイクルの“ループ”を何度も描くことができる再利用できるデザイン・製造された商品」へ移行することだ。

WWD:15年には、環境保護団体パーレイ フォー ジ オーション(PARLEY FOR THE OCEANS以下、パーレイ)とパートナーシップを組み、16年からビーチや湾岸から回収したプラスチックごみを再生した素材“パーレイオーシャンプラスチック”を用いたアイテムを生産している。こうした新しい環境配慮型素材をマスマーケットにもたらしたことは大きな功績だ。

カーンズ:18~19年はパーレイの商品を通じて5911tの海洋プラスチックごみを回収した。これは約5億本のペットボトルが海洋を汚染してしまうのを防いだことと同等だ。全商品量の約15~20%未満程度に“パーレイオーシャンプラスチック”用いている。パーレイにはつい先日、世界銀行から資金が提供されることが決定し、世界に新しい施設を建設していく。彼らの回収能力や素材のクオリテティーも上がり、安定供給もできるようになるので、商品を拡充することができる。流出したごみは、水温上昇、サンゴや海洋生物の破壊の原因になっているし、気化して山などに入り込んでいることも確認されている。

WWD:第2ステップの“サーキュラーループ”は、技術的にも仕組み的にも非常に難易度が高い。

カーンズ:3つの課題がある。1つ目はリサイクルできる素材を作るための化学やテクノロジーと、今までとは全く異なるプロセスや商品の組み立て方の開発だ。そのためにスタートアップやパートナーと組んで新しいテクノロジーを開発している。例えば100%リサイクル可能な“フューチャークラフト.ループ”で用いているTPU(熱可塑性ポリウレタン)は、そのリサイクルを可能にする(独石油化学大手の)BASFと、そして“アディダス バイ ステラ マッカートニー(ADIDAS BY STELLA McCARTNEY)”の100%リサイクル可能なコットンを用いた“循環フーディー”はコットンのケミカルリサイクルを可能にした米スタートアップのエヴァニュー(EVRNU)と組んでいる。2つ目の課題は、消費者に新しい行動を促す取り組みだ。21年4月に発売予定の“フューチャークラフト.ループ”では使用後に返却するという新しいビジネスモデルに挑戦する。いずれもそのためにいくつかのパートナーと組んでいる。英国はスタートアップのスタッフスター(STAUFF STAR)で、ほかにアジアや米国でのパートナーも特定している。そして3つ目の課題は、これらパートナーとサプライヤーをつなげて新しいサプライチェーンを築くこと。つまり返却されたものを再販売、再利用、リサイクルのどれにするかを決めてサプライチェーンに戻すループをつくるということ。素材や新しいプロセスの開発はもちろん、回収した商品をサプライチェーンに戻す取り組みはどこにも存在しないので、一から構築しなければいけない。

WWD:アディダスの究極の循環戦略を象徴するのが、“フューチャークラフト.ループ”だ。今後について詳しく教えてほしい。

カーンズ:販売期間を1年間としてトライアルを実施する。初めの1年はサブスクリプション制にはしない予定だ。製品を購入した消費者には、製品をどのように使用してどのように返品するのがいいかを探るためのプログラムの一員になってもらう。22年以降は1年ごとに10倍ずつのスケールアップを目指し、最終的には通常の商品と同じくらいの量で展開していく予定だ。通常の商品であれば、生産量を増やすためにはその需要をつくり出すことが課題だが、今回のようなリサイクルは製品そのものでは需要と供給は釣り合っているが、リサイクル能力を確保することが課題であり、挑戦になる。また、TPUの素材の品質向上のための開発も課題だ。これまでTPUは一つの目的を達成するために開発されていたが、これからは複数の用途を満たすTPU素材を開発しなければいけない。そのためには基準の再検討も必要だ。例えば、100%のパフォーマンスを1回発揮することを優先するのではなく、97%のパフォーマンスを複数回発揮できるものがよいと考えている。そのために優秀な人材をそろえて開発している。

WWD:“フューチャークラフト.ループ”のTPU素材は、現在どの程度第2世代のシューズに用いられているのか。

カーンズ:新しいシューズには古いシューズから作られた10%程度のTPUが用いられている。全てのTPUをリサイクルしているが、全てを新たなシューズ素材に用いることはできていない。目標は25年までにできるだけ多くのTPUをリサイクルできる状態にすること。トライアルを繰り返す中でリサイクル可能な量は増えてきている。課題は3つあり、1つ目は素材の安定供給だ。数百足を回収したとしても数千足作れるほどの素材が今はない。素材不足だ。そして、2つ目の課題は製造工程のイノベーション。現在、アッパーのヤーン、ソールのフォーム、アウトソールのラバー素材は、リサイクル素材を用いることを前提に開発されていないので、この製造にリサイクル素材を用いることができるような技術開発が必要だ。3つ目はTPUのケミカルリサイクル*1技術の開発だ。現在TPUはケミカルリサイクルの技術がない。今は回収した靴を粉砕して溶かし新たな素材を作っている。将来的には環境に配慮したケミカルリサイクルのプロセスで、埃などのゴミや色(ピグメント)などを除去して、高機能製品に再利用できるようにしたい。今その開発に取り組んでいるところだ。そもそもTPUは高機能素材なので、リサイクルをしなくても耐久性があり、ある程度の期間の利用が可能なため今まで開発していなかった。
*1製品を分解して原料まで戻して再利用する方法

WWD:回収にあたっては消費者の協力も不可欠になる。

カーンズ:会員制プログラム「クリエイターズクラブ*2」を活用している。これまで消費者にとっては、使い終わった製品は廃棄か寄付しか選択になかったが、“返却”いう新たな選択肢があることを理解してもらって行動の変化を促したい。2つ目はキャンペーンに投資していくこと。現在もプラスチックごみ撲滅のキャンペーンを実施しているが、21年以降も継続する。オンラインストアでも、商品情報にリサイクル素材やサステナブルなコットンを利用しているなどの表示を始めた。これにより消費者も賢い選択ができるようになる。
*2日本や中国では「アディクラブ」と呼ばれるプログラム。消費者は商品を返却することでディスカウントなどの特典を受けられたり、ポイントをためたりできる。日本ではサステナビリティレターも配信され、店舗に設置された衣類・シューズ回収ボックス実績なども公開している

WWD:3つ目の“ループ”生分解性の素材への切り替えはアパレル商品を中心に注力していくのか?

カーンズ:両方だ。アパレルは布地を生分解性の単一素材にしていきたい。それに対してフットウエアは複数の素材を用いており、接着剤も使っているので難しい。クッション性のフォーム、グリップ力を発揮するためのゴムのような素材を全て生分解性素材で作るために、いくつかのパートナー企業とプロジェクトを始動している。まずは50%生分解性を目指そうと考えているが、最終的には100%を目指したい。その場合、フィット、クッションなどユニークな機能を持たせるために複数の素材を用いる可能性が高い。例えば、藻、菌糸体、人工たんぱく質などだ。

WWD:生分解性素材へのアプローチを教えてほしい。

カーンズ:生分解性素材の開発は2つの軸を進めている。1つ目は既存素材の処理の仕方でどのように自然に還るものを作っていくのか。2つ目は、これまで用いたことがないもので全く新しい素材を開発すること。例えば、マッシュルームから人工皮革が作れたり、“スパイバーシルク”のようにバクテリアから人工タンパク質を作り、それが糸になったりというようなことだ。また、1つの用途ではなく、さまざまな用途に対応できる素材であることも重要になってくる。主にスタートアップ企業がこうした新しい分野を担っている。商品の素材の組み合わせをシンプル化していくことはもちろん、ケミカルリサイクルにおいて3~5種の素材に対応できる技術も開発している。こうした機能はいくつかのスタートアップは開発に成功している。

WWD:3つの“ループ”のバランスはどう考えている?

カーンズ:まずはできるだけリサイクル素材を用いることで、地球をきれいにすることにフォーカスする。次にサーキュラーループ、そして、再考や調査、研究が一番必要なのは生分解性の素材であり、現在取り組んでいるところだ。

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