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新体制のスノーピーク アパレルを率いる29歳 “街で着るアウトドア”から次のステージへ

 スノーピークは3月に山井梨沙社長がトップに就く新体制となり、さまざまな事業の強化を推進している。山井社長はデザインをライフワークにしてきたため物作りへの思いはひときわ強く、商品開発の面でもあらゆる改革に取り組んでいる。2014年に自ら立ち上げたスノーピーク アパレルの事業は現在29歳の坂田智大を含めた5人のチームに託し、商品開発に加えて、物を通じたライフスタイルの提案を目指す。チームが新体制になることで、スノーピーク アパレルはどう変わるのか。また19年12月期には事業部単体で17億2000万円の売り上げ規模にまで成長した部門をどう拡大していくのか。坂田エグゼクティブクリエイターに話を聞いた。

新体制でボーダーレスな組織に

WWDジャパン(以下、WWD):スノーピーク入社は2019年と社歴はまだ浅い。大きな事業をいきなり引き継ぐのに重圧があったのでは?

坂田智大エグゼクティブクリエイター(以下、坂田):もちろんプレッシャーはある。ただそれ以上に、自分が好きなキャンプという共通の趣味を持ったチームと仕事ができるので、重圧以上の楽しさややりがいを感じている。何より仕事として自然に触れることができるのがこの仕事の魅力だ。

WWD:ではファッション業界からスノーピークに転職したのはキャンプがきっかけ?

坂田:ただ漠然と「キャンプがしたい」と思い立って求人に応募した。服が大好きでファッション業界で働いてきたが、自分の中で物作りにこだわればこだわるほど、それが世の中にどう貢献しているのだろうと考えるようにもなり行き詰まっていた。そんなときに子どもが生まれて、家族でキャンプがしたいと強く思って自ら門をたたいた。それがたまたま山井社長がスノーピーク アパレルのデザイナーを退任する時期だった。

WWD:ファッション業界でのキャリアはどう生かしていきたい?

坂田:天然素材の知識や産地とのつながりを生かし、素材を通して自然を感じてもらえる商品を開発していく。手紡ぎや手織りの風合い、昔ながらの織機で織られたふっくらした素材感などから生活シーンを想像してもらえる服を提供したい。スノーピークのアパレルといえば機能素材のアウトドアウエアというイメージがまだまだ強く、海外ではほとんどそのイメージがしか持たれていない。都会から自然までをシームレスにつなぐ服という点はこれまでと同じだが、今後は商品を通じてライフスタイルの提案をしていきたい。

WWD:具体的に変わった点は?

坂田:アパレルを立ち上げた山井が社長になり、社内でもボーダーレス化を推進している。今までは尖った物作りの新潟のギア開発チームと、見せ方にたけた東京のアパレルチームは個別に商品開発していたが、今後はそれぞれの長所を融合させていきたい。事業の多角化が進む中で部署間の連係を強化し、製品開発につなげたい。売り方も、アパレルとギアを絡めた提案を増やしていく予定だ。アパレルとしては、“街で着るアウトドア”という第1フェーズは終わったと感じている。今後はスノーピークという企業を通じて、人々の生活を豊かにする段階に進まないといけない。そのために他部署との連係は必須で、横のつながりが企業としての強みになる。

“街で着るアウトドア”から生活になじむブランドへ

WWD:初めて手掛けた2020-21年秋冬のビジュアルが印象的だったが、どういう意図?

坂田:一番のぜいたくは自然で、当たり前のようにある日常こそが特別なんだというメッセージを伝えたかった。撮影したのは新型コロナウイルスの感染が拡大する前だったが、時代の流れとも偶然合致した。三重県の伊賀で自給自足している一家にモデルをお願いし、自然と暮らすリアルな姿をドキュメンタリータッチにすることで、スノーピークのアパレルは人と自然をつなげるという道具や手段だという意味も込めている。中には狩猟や肉の加工など強烈なカットもあるが、受け取り手が何かを感じてもらえたら、それは人と自然が一歩近づいたということだ。

WWD:新型コロナの影響は?

坂田:売り上げへの打撃は当然あるものの、世の中の自然に対する欲求は着実に高まっており、キャンプギアは好調だ。アパレルも、これまで以上に消費者の日常を意識した物作りを推進していく必要がある。今これが売れているから作るという商品開発ではなく、アイテムが作られた背景や思いに価値を感じてもらえる流れになっていて、作り手としてはやりがいがある。無駄な物は作りたくないから、21年春夏は20-21年秋冬よりも型数を6割程度に絞ってより厳選したラインアップにしている。

WWD:サステナビリティはアパレルでも取り入れていく?

坂田:昨年発表した、リサイクル事業を手掛ける日本環境設計との取り組みは引き続き推進していく。店舗で回収したテントやアパレルを日本環境設計の工場で糸に戻し、新潟の自社工場に導入したホールガーメントの編み機でニット製品を製造しており、今後はさらに製品クオリティーの向上を意識していきたい。アパレルのMDでも、将来的には定番品を増やして積み上げていき、トレンド品は3〜4素材で提案する流れをつくりたい。そのためには人々の生活にスノーピークがより深くなじんでいくことが必要不可欠だ。

WWD:国内外への出店攻勢が続いているが、アパレルの今後の事業計画は?

坂田:もちろん会社の急激な成長に合わせてアパレルも拡大していきたい気持ちはある。でも単体でというより、ほかの事業とともに成長していくのが理想だ。ギアとアパレルが相乗効果で売れる状態がスノーピークをより強くしていく。今は新体制になり、20代の若いメンバーも増えて感覚も共有しやすい。山井社長のリーダーシップのもと、新しいことにどんどんチャレンジしていきたい。

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