「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」は9月2日、間もなくオープンする東京の海の玄関、東京国際クルーズターミナルで2021年春夏コレクションのチャプター2を発表した。8月に中国・上海で発表したチャプター1の半分強を入れ替えた。メンズのアーティスティック・ディレクターを務めるヴァージル・アブロー(Virgil Abloh)は、新型コロナウイルスのパンデミックを1つの契機として、シーズンに関係なくコレクションを発表することを表明。世界の各都市を巡回しながら、新作と、既に発表済みのコレクション、さらには過去のアーカイブのアップサイクルを一緒に見せるスタンスを表明している。
上海で発表したコレクションは、メゾンが“ダミエ”と呼ぶ市松模様や原色などでインパクト絶大な構築的なフォーマルだ。ストリートの旗手ながら最近はエレガンスを舵を切るヴァージルらしい正統派のスタイルに、キャッチーな色柄が映える。そこに今期は、パリのメンズ・デジタル・ファッション・ウイークで発表したアニメキャラのZooomと、その仲間たちの“ぬいぐるみ”をプラスした。
「ふざけている」と思う人もいるだろうか?だが、こうした遊び心は、今のファッションの世界に必要なものだ。特に男性、それも若い世代にはファッションとアニメの間に上下関係なんて存在しないし、「ベアブリック(BE@RBRICK)」などのオモチャは既にファッション界のスタンダード。それに今は、LINEのスタンプやオンラインMTGの背景など、ファッションを洋服以外に拡張すべき時だ。そんな姿勢を、「ルイ・ヴィトン」のような世界規模のメガメゾンがハッキリ示すことに意味がある。“ぬいぐるみ”がいっぱいのチェスターコートを着たモデル、“ぬいぐるみ”が顔を出している小さなボストンバッグを手に持つ男性は、こんなご時世だからか非常に愛らしいし、ファッションの新しい可能性を見せてくれる。アニメーションのようなキャラと色柄、そして誇張したシルエットで、ファッションがカルチャーと融合した。
東京で新たに加えた新作で際立ったのは、アフリカに着想を得たカラフルなコレクションだ。上海で発表したフューシャピンクやオーシャンブルーは、他の色と混じり合い、アフリカ大陸の黒人のスタイルを思わせるカラフルなコレクションに進化する。「ルイ・ヴィトン」のロゴは、デビューシーズンとは異なる配色のレインボーカラーに彩られ、厚手のニットなどに描かれた。ブラウンをベージュとした落ち着いた色合いのフォーマルも、東京で加えた新作だろう。
これから積極的に取り組むアップサイクルな洋服作りにおいては、特に19-20年秋冬のフランネル調のカシミヤを用いたプリーツスカートを含むフォーマルと、20-21年秋冬の青空にインスピレーションを得たコレクションに手を加えて付加価値をプラスした。例えば19-20年秋冬のプリーツスカートは、異素材とパッチワークしたり、そこに無数のクリスタルを縫い付けてロゴを描いたり。上述のアフリカンな七色のニットや、アップサイクルしたカシミヤのスカートは、春夏の商品とは呼び難いが、これもシーズンレス体制に移行した意思表明なのだろう。
上海のコレクションは1500人を招いたのに対して、東京のショーのゲストはわずか180人。ゲストにはアップサイクルしたマスクカバーが招待状がわりに配られ、座席も左右が2m・前後が1mの感覚を開けたソーシャル・ディスタンシングな配置だ。パリで開かれていた、これまでの「LV」メンズのショーのような大熱狂は存在しない。しかし会場には、デジタル・ファッション・ウイークで発表したムービーに登場するコンテナが何段も積まれ、Zoooomなどのキャラクターのバルーンが踊り、ヴァージルの「アリガト」のメッセージの後には花火が上がるなど終始エモーショナル。ファッションショーの新しいあり方を提起する。