昨今、各社のサステナビリティの取り組みはますます活発になっている。最新テクノロジーを用いて商品や素材を開発するスポーツ企業や、新ブランドを立ち上げて意思を表明するアパレル企業など、各社のアプローチはさまざまだ。一方で、資本力が潤沢でない中小のデザイナーズブランドにとってハードルが高いという印象は否めなかった。リメイクや残布を用いたクリエイションを展示会で紹介される機会は増えたものの、ビジネスになる可能性を感じたのは正直ごくごくわずかである。環境保護には賛成だけれど、自分が取り組むには壮大すぎる――。そんな風に身構えていた人は、自分自身も含めてきっと少なくはないはずだ。しかし最近は、共感できる取り組みも増え始めている。(この記事はWWDジャパン2020年9月14日号からの抜粋です)
本号P.10-11で紹介したデザイナーズブランドは、ただ「人の生活を豊かにしたい」という思いを届けるための手段の一つとして環境保護の要素がある“だけ”なのである。「サステナビリティについては日本で一番詳しい自信がある」という石川俊介「テクスト」デザイナーの取材では、再生繊維やアップサイクルなどの専門的な話題になったのは1時間のうちのほんの数分。残りは国内外でオーガニックな原料の生産に取り組む産地の人たちの仕事を守りたいという思いを語る時間がほとんどで、その強い気持ちに胸を打たれた。環境保護について個人で何ができるかを考えるときに、「その先に人の顔を思い描けるかどうか」が自分ごと化するための一歩であり、サステナビリティをもの作りで伝え、それを継続するためには、ビジネスとして成立するかが前提とした上で「みんなが楽しくポジティブであることが大切だ」とも述べた。元「イッセイ ミヤケ メン」の高橋悠介が立ち上げた「CFCL」や、繊維商社のヤギと協業して残布を作り変えるプロジェクトに挑む「ココ」も、作り手のポジティブな気持ちがクリエイションからにじむからこそ共感できる。
「ルイ・ヴィトン」の取り組みも印象的だった。9月2日に東京で行われた2021年春夏メンズのショーでは、アップサイクルを取り入れたアイテムが多数登場した。リサイクル素材を用いたタイムレスなスーツや定番スニーカー“LVトレイナー”の余剰在庫をローカットに作り変えるなど、メゾンらしい技術が随所に生かされていた。しかしそれらをただ高尚に発信するだけでは伝わらないことを、メンズを率いるヴァージル・アブローは訴えかけているようだった。彼はメンズウエアのチームが自宅待機している期間中に、余剰在庫を利用して自由にクリエイションを行う「ホームワーク」プロジェクトを課題として投げかけ、まずは作り手の意識を以前のものとは変えようと試みた。提出された個々のアイデアは、ヴァージルが同ブランドで表現し続けている“少年性”というファンタジーな世界観を通して発信され、シリアスなテーマに誰もが共感できるハッピーなムードを添えた。
大企業が掲げる壮大なメッセージももちろん大切ではあるが、ときとしてそれらは近寄りがたい“聖域”となる可能性も隣り合わせている。ファッション業界はこれまで多くの夢を与えてきた一方で、強い選民意識があるがゆえに“聖域”化しやすい体質があるのも事実だ。多様性や包括性が浸透しつつあるように、ファッション界でのサステナビリティも人が人を思う優しさや楽しさから広がっていくと信じたいし、メディアとしてもそういった部分に目を向けていきたい。