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連載 小島健輔リポート

「ららぽーと愛知東郷」に見るアウトドア集中とオフプライスの違和感【小島健輔リポート】

 ファッション業界の御意見番であるコンサルタントの小島健輔氏が、日々のニュースの裏側を解説する。コロナ禍によって商業施設も曲がり角を迎えている。名古屋郊外に新しくオープンした大型商業施設をつぶさに一周したリアルな印象を伝える。

 9月14日に開業した「ららぽーと愛知東郷」は今秋最大の新設郊外大型ショッピングセンター(SC)であると同時に、コロナ後のライフスタイルとSCのあり方を占う意味でも注目される。

ららぽーと愛知東郷はこんなところ

 場所は名古屋駅から東南東に約15km、電車だと地下鉄鶴舞線〜名鉄豊田線で豊田市に向かって45分ほどかかる郊外の新興住宅エリアだが、半径5km圏には22万人、10km圏には115万人が住む。北から東方向は未だ未線引きの丘陵地や農地、工場地が散在し、人口の4分の3は名古屋側の半円に集中している。40代以下の各世代が多い新興住宅地型の世代構成で所得水準も全国平均を2割前後上回るが、西半円と東半円で性格が大きく異なる。西側は名古屋の山の手系新興住宅地で女性軸の文化圏だが、東側は工場勤めの男性が多くローカル色も強まる。東京近郊でいえば、田園都市線と座間・厚木あたりの対比を想像してもらいたい。

 名古屋市東区から豊田市方面に延びる国道153号線から南東に分岐した片側一車線の県道218号線と東側の県道57号線に挟まれた8万9000平方メートルの敷地に店舗棟10万4900平方メートル、立体駐車場4棟計8万600平方メートルと容積率(200%)いっぱいにぎっしり建てて、店舗面積6万3900平方メートルと3750台(立体駐車場と屋上駐車場)を確保している。郊外のロードサイド立地とはいえ窓のほとんどない閉鎖的な巨大建築で、オープンエアな開放感は期待すべくもない。平面駐車スペースは2カ所に計90台しかなく、カーブサイド・ピックアップ用のバイパスレーンもない。店舗棟は近年のららぽーとの定石通り、両端に大型店を配した長方形の「日」型サーキットモールの3層鉄骨造建築で、ワンフロアで1万坪(3.3万平方メートル)を超える巨大な箱だ。

 一番近い名鉄豊田線日進駅でも2.2km、市営地下鉄鶴舞線赤池駅からは3.4kmもあり、車がないとアクセスできず、現段階ではバスターミナルもない(最寄りのバス停から徒歩5分)。商圏の世代構成が若いうちはよいが、成熟してリタイア世代が多くなると車を手放して不便になる。北関東の大型SCでは、それが現実になった例もある。

 北約8kmには16年12月開業のイオンモール長久手(賃貸面積5万9000平方メートル)があるが、両SC間は未線引き区域が多くて住宅地が途切れており、交通の便も悪く競合は薄い。東南東約3kmのアイモール三好(同4万800平方メートル)はイオン核の生活圏型SCでテナントのバラエティー(70店)が限られ、距離は近くても直接的には競合しない。真っ向から競合するのが北西約3kmの高密度住宅エリアに17年11月に開業したイトーヨーカドーのスーパーマーケットが核になったプライムツリー赤池」(同4万3600平方メートル)で、テナントも172店とバラエティーがある。高密度な足元に支えられて売り上げは好調だが、ららぽーと愛知東郷が開業すると売り上げが3割も落ちるという試算もある。

 ららぽーと愛知東郷は西側を向いて女性軸でテナント構成を組めば「プライムツリー赤池」からごっそり顧客を奪えるが、東側を向いて男性軸が強まると高密度な西側の商圏を取りきれず、売り上げが伸びない恐れがある。ではららぽーと愛知東郷はどっちを向いていただろうか。

アウトドア集中と大型店比率の高さ

 実際にSC内を一周してみて驚いたのがアウトドア関連の店舗の多さで、「アルペン・アウトドアーズ・フラッグシップ」(2層約4500平方メートル)、「コンプ・アス」(ムラサキスポーツのアウトドア新業態)、「コロンビア」「エルエルビーン」「マーモット」「アウトドアプロダクト」「ワークマン」と総店舗面積6万3900平方メートルの1割近くをアウトドア関連に割いているのは過熱気味で、そのあおりで欠落した業種も少なくない。

 「アルペン・アウトドア」以外にも「ニトリエキスプレス」「ロフト」「ツタヤ」「コロニー2139」「ABCマート・グランステージ」「H&M」「スポーツデポ(アルペン)」「アカチャンホンポ」「エディオン」「ナムコ」と1000平方メートル超のサブ核、それにスーパーマーケットの「平和堂」(約3200平方メートル)に店舗面積の43%以上を割いており、6万3900平方メートルに201店(単純平均で318平方メートル)では必要な業種・業態のバラエティーを欠く。イオンスタイルが過大な面積を占めて専門店テナントのバラエティーが制約されるイオンモールに比べれば、スーパーマーケット核のららぽーとは専門店のバラエテイーがアドバンテージだったのに、これでは強みを放棄するようなものだ。

 プライムツリー赤池が172店をそろえるのに、店舗面積が1.5倍近いららぽーと愛知東郷が201店では1.17倍でしかなく、専門店のバラエティーで圧倒できていない。単位面積当たり家賃が一般専門店テナントに比べて格段に安い(半分から5分の1)大型店が大きな面積を占めては、一般専門店テナントの家賃がそのしわ寄せで割高になるのも問題だ。アウトドア系やインテリア系の大型店は販売効率が一般テナントの3分の1程度だから、売り上げでも家賃収入でも相当に苦しくなるのではないか。

 アウトドアに偏って男性軸の性格が強くなれば、つくばエクスプレスの男性軸ニューファミリーに偏って東武野田線の女性客を取り込めなかったららぽーと柏の葉(千葉県)のように、女性軸の西側商圏を取りこぼすリスクが出てくる。大型店に偏っては業種・業態の欠落が生じて足元占拠率が不安定になり、地元のサントムーン柿田川(静岡県)に押されるららぽーと沼津(静岡県)の二の舞も危ぶまれるから、年間売り上げ目標の300億円は厳しいかもしれない。

オフプライス店と高級ブランド店が同衾

 もう一つサプライズだったのが、ワールドが自社ブランド処分アウトレットの「ネクストドア」を500平方メートル級で2階のメイン区画(「トミーヒルフィガー」隣)に出店していたことで、「アンタイトル」や「インディヴィ」など自社百貨店ブランドの前シーズン品を6〜7割引で叩き売っていたのには正直驚いた。「コーチ」や「ラルフローレン」も1階の同じ並びに出店しているアップスケールなSCなのだから、違和感がすごかった。予定していたテナントのキャンセルで急きょ区画を埋めたのだろうが、三井不動産もよく許したものだ。ワールドも在庫を抱えて背に腹は変えられないのかも知れないが、名古屋の都心百貨店は激怒しているに違いない。

 「ネクストドア」と名付けても内装も陳列もオフプライスストアの「アンドブリッジ」で、ワールドにとっては一体の戦略なのだろう。ワールドは8月29日に浅草ロックス(東京都)に、9月5日にはイオンモール京都にも同様の都心型「アンドブリッジ」(百貨店・駅ビルブランド主体)を出店しており、オフプライスストア戦略というより自社在庫の処分を急いでいるように見える。こんなに都心SCや近郊SCで自社ブランドを処分してはプロパー展開への影響は避けられず、百貨店ブランドから撤退するつもりなのかとさえいぶかられる。

 「ネクストドア」のみならず、持ち越し在庫を大幅値引きで叩き売るアパレルテナントもいくつか目に付いたのは新規開業SCとしては異例で、コロナ禍を契機に郊外大型SCの価格感覚もホームセンターに近づいているかと思われた。

異分野大型店のアパレル拡大

 アパレル業界は需要に倍する過剰供給とオーバーストアにコロナ危機が加わって阿鼻叫喚の地獄絵図となっているのに、スポーツやインテリアの大型店はアパレルの取り扱いを急ピッチで拡大している。1200平方メートルを超える「ABCマート・グランステージ」はスニーカーに加えてスポーツブランドのアクティブウエアをそろえ、2000平方メートルを超える「スポーツデポ」はアクティブウエアのみならずタウンウエアまで大量にそろえ、4500平方メートルの巨艦店「アルペン・アウトドアーズ・フラッグシップ」はアウトドアスポーツウエアに加えてキッズウエアも充実していた。

 ららぽーと愛知東郷には出店していないが、アクタスはコンフォートナチュラルな自社開発ブランド「オーク」を各店で展開しているし、インテリア雑貨店の多くもワンマイルウエア的ロープライスアパレルを拡充している。ニトリの「N+(エヌプラス)」もららぽーとの富士見(埼玉県)と立川(東京都)、イオンレイクタウン(埼玉県)、テラスモール松戸(千葉県)と4店になり、年内に10店舗まで拡大するとアナウンスしているが、「ベルーナ」と似ていても商品力も価格も劣り、売り上げも今ひとつ勢いを欠くようだ。

 アパレル業界はそれなりに積み上げたノウハウがあっても苦戦しているのだからずいぶんとなめられたものだが、コロナを契機にお出かけ着の気負ったおしゃれから普段着の気負わないおしゃれに転ずる中、価格帯さえマッチすればインテリア店のアパレルは一つの勢力を確立する可能性がある。
 
 アパレル業界が考える「価格と品質」のバランスは長年のコスト積み上げで消費者感覚を逸脱しており、部屋着やワンマイルウエアの生産背景をベースに格段にこなれた価格で普段着のおしゃれを提案するなら、インテリア店のアパレルはコロナ後の新たなマーケットを確立できるかも知れない。百貨店から駅ビルへ、駅ビルからSCへとデフレが加速したアパレルの価格感覚は、いよいよホームセンター感覚になる。そこに異分野からの参入チャンスがあるのだろう。

 ららぽーと愛知東郷はさまざまな意味でコロナ後のSCのあり方を考えさせられる施設だから、ぜひとも自分の目で見て実感してもらいたい。

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