H&Mヘネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ)はESG(環境、社会、ガバナンスの重視)経営で高い評価を得ている。「ダウ・ジョーンズ・サステナビリティ・インデックス(Dow Jones Sustainability index)」(スコア97)や「世界で最も持続可能な100社(Global 100 Most Sustainable Corporations in the World)」(27位)などESG格付けランキングでも上位に常連の企業だ。英国のNPO団体ファッションレボリューション(Fashion Revolution)の「ファッション トランスペアレンシー インデックス(Fashion Transparency Index)」では、2020年度版で初めて1位となった。
同社は、“ファッションとクオリティを最良の価格でサステナブルに提供する”というビジネスコンセプトのもとに事業を展開する。「技術とイノベーションを活用しながら、私たちの規模と影響力によって、公正・平等でありながら循環型、かつクライメット・ポジティブなファッションに向けて変化を導くというビジョンをもって取り組んでいる」と言う山浦誉史H&Mジャパン・サステナビリティ・コーディネーターに、どのようにして現在に至ったのか、そのきっかけを聞く。
WWD:サステナビリティの分野の先進企業に話を聞くと、そうなる契機は自社とサプライチェーンの環境負荷を知ったときと言われることが多くあります。きっかけは何でしたか?
山浦誉史サステナビリティ・コーディネーター(以下、山浦):1990年代に私たちは初めて行動規範を定め、そして化学物質に関する規制を始めました。変化を導くにあたってまず理解しなければならないのは、全ての段階でどの程度環境への負荷があるのか、そしてどの程度影響があるのかということです。デザインからお客さまによる消費に至るまで私たちのバリューチェーンの各段階において、私たちが行うすべての決断がポジティブな影響をもたらすポテンシャルがあるのです。特にファッション産業が直面する複雑かつ困難な問題において、ポジティブな変化をもたらすには、外部の専門機関との協業がとても重要であると私たちは考えます。例えば、水の使用に対する責任はWWF(世界自然保護基金)と協業したり、テキスタイルのリサイクル技術の開発に取り組む企業への投資や、循環型経済を推進するエレン・マッカーサー財団(Ellen MacArthur Foundation )とも密に連携しています。さらに繊維産業が抱える大きな問題や賃金についても、国連や衣料品従事者の国際労働組合と取り組んでいます。
WWD:H&Mは透明性が高い企業としての評価も高いですね。
山浦:私たちは長年、繊維産業による環境への負荷について認識しており、その中での自分たちの役割についても理解をしています。そしてその一環として、毎年発表するサステナビリティ・リポートを通して取り組みや実態を開示しています。その中で、バリューチェーンの各段階別に、社会、気候、そして水という分野において私たちが与える負荷、ならびに影響をマッピングしています。
WWD:マッピングするにあたり、環境負荷はどのように計測していますか。
山浦:H&Mでは外部専門機関による基準を主に用いています。例えば温室効果ガスおよびその他環境に害を及ぼす大気への排出に関する影響については、GHGプロトコルに沿って排出量を算定し、水資源への影響に関しては、AWS国際水管理標準に沿って行っています。
また、H&Mではすべてのサプライヤーを含むビジネスパートナーに対して、「サステナビリティ・コミットメント」への署名を義務付けており、私たちのサプライヤーも同様に、これらの基準に従って環境への負荷を計測し、その情報を私たちに提供するよう定めています。
私たちは自社が与える環境への負荷や影響をもとに、それぞれの分野においてKPI(重要業績評価指標)を設定して実行しており、取り組みや実態において毎年透明性をもってサステナビリティ・リポートとして開示しています。このリポートは、H&Mグループ内の各部門やサプライヤーなどの外部機関から収集したデータをもとに、GRI(サステナビリティに関する国際基準の策定を使命とする非営利団体)水準に沿って作成されています。毎年データやリポートを開示することによって、私たちの取り組みの進捗や、さらに注力が必要な分野を見極めることにつながります。
そしてこれらの取り組みがさまざまな外部機関によって認められ、CDP(Carbon Disclosure Project)の気候変動Aリストへの選定や、ファッションレボリューションによるファッション透明性インデックスでの1位認定など、多くの評価をいただけたことをとても光栄に思います。これまで同様、私たちは引き続き循環型ファッション業界へと変化を導くことを目指して、取り組みを進めていきます。