ファッション
連載 コレクション日記

デジタルコレでドタバタ対談 NYは過去に思いをはせる“ノスタルジア”が急浮上

 2021年春夏メンズ・コレクションに続き、ウィメンズのコレクションサーキットがスタートしました。メンズでは、主にメンズを担当する記者がリアルタイムにこだわって取材してきましたが、あまりのドタバタぶりから取材体制を再編。ウィメンズでは担当記者を増員し、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。

 今回は、9月13〜16日(現地時間)に開催されたニューヨーク・ファッション・ウイークから、編集部が面白かったと思うブランドをピックアップして紹介。海外コレクション取材歴4年の北坂映梨「WWD Japan.com」編集部 ビューティデスクと、NYコレクション初取材の「WWDジャパン」編集部記者の美濃島匡が日常業務と並行しながらリポートします。

マスクやZoom映えを意識した「アナ スイ」にほっこり

美濃島:怒涛のメンズを終え、今度はウィメンズのコレクションサーキットが開幕。好評だった(?)ドタバタ対談は記者を増員して継続していきます!最初に紹介するのは、個人的に最も印象に残った「アナ スイ(ANNA SUI)」。子どものころの記憶を思い起こさせるノスタルジックなコレクションでした。

北坂:ドールハウスのような家を背景にモデルたちが1人ずつ登場したり、楽しそうにフルーツパイを食べたり、見ているだけでほっこりする映像だったね。手作り感満載のクロシェ編みのバッグやアイレットレース、小花柄などがノスタルジーを加速させたのかも。

美濃島:おうち時間が長くなっている中、デザイナーのアナ・スイ(Anna Sui)は「家とは何か」を改めて考えることからデザインを始めたそうです。1960年代の映画などが着想源の一つでもあるみたいだけれど、当時のフラワーチャイルドを連想させるデイジーのモチーフやタイダイも出てきました。

北坂:バッグやハットはTシャツのニット生地を再利用したり、サングラスは過去の「アナ スイ」のサングラスフレームをリサイクルして作ったりと、環境にも優しいコレクションだったみたい。ちなみにスウェットはデザインがZoomでも写るように意識したとか(笑)!今のニーズも取り入れているところも素敵だったよね。

美濃島:そうなんですね!洋服と同じ柄のマスクも出てきたり、時代を映したアイテムも見られましたね。日本ではファミマ限定のマスクを売っていたけれど、すぐに完売したそうですよ。今回登場したマスクも日本でも発売して欲しいです。

北坂:私もそれには期待!コンセプチュアルで難解なムービーはいつも以上に近寄りがたい状況だから、今回の「アナ スイ」くらいアットホームな感じがうれしいかも。

「トム フォード」が提案する“思わず笑顔になる洋服”

北坂:「トム フォード(TOM FORD)」はビビッドなパープルやブルー、ホットピンクなど色鮮やかなカラーにアニマルプリント祭り!見ているだけでも気分が上がるコレクションでした。トム本人のインタビュー映像も公開されて、コレクションを理解するのによかった。どのブランドもそうだけれど、今季はイタリアのアトリエやLAのオフィスがクローズした中で作ったみたいだから、大変だったみたい。自宅の(?)駐車場にテントを張ってコレクションを完成させたとか、そういう裏話も聞けて面白かった…!

美濃島:ロックダウン中は同じジーンズとTシャツを洗わずにずっと着ていたけど、久しぶりに友人とディナーに行った際にドレスアップしたらとても気分が上がったそうです。このエピソードから、今季はドレスアップすることの楽しみを表現しているんだとか。

北坂:トムは「今みんなが求めているのは、着るだけで思わず笑顔になる洋服」と言っていて、それには共感できました。セクシーでグラマラスなスタイルは健在だけれど、今の状況を踏まえて少しリラックスしたシルエットだったり、スウェットやカフタンなど着やすいアイテムが多かった印象です。

ジェンダーとスポーツの関係を探った「クロマット」

北坂:個人的にいつも楽しみにしている「クロマット(CHROMAT)」は、スイムウエアから始まったブランドだから今回もスポーツウエアがメインだった。デザイン性を求める感じではないんだけど、ダイバーシティーを強くうたうブランドでショーが毎回楽しいんだよね。

美濃島:さまざまなジェンダー、人種、年齢、体型のモデルがランウエイを歩くショーはいつもエネルギッシュですよね。今季はZoomでトランスジェンダーの人々にインタビューする内容で、いまだに「メンズ」「ウィメンズ」で括られる世界における悩みや苦労、強い思いを知りました。いろいろ考えさせられる映像でしたね。

北坂:「ニューヨーク・コレクションは縮小している」とか悲観的に言われることも少なくないけれど、こういう多様性を受け入れる姿勢はほかのどの都市よりも進んでいると思うし、NYならではの魅力もたくさんあるよね。

美濃島:映像の途中には広告風のバナーも登場し、男性ホルモンの値が先天的に高い女子選手が不当な扱いを受けていることを訴えていました。南アフリカのキャスター・セメンヤ選手がこの規定の撤回を求めていたんですが、つい先日スイスの連邦最高裁判所が「規定に問題はない」と発表して、彼女の主張は否決したことを受けて挿入したんでしょうか。

北坂:へー、そうなんだ。感慨深いね。服は前回のNYコレで発表したものと同じみたいだったけど、演出が違ったので新鮮に映りました。ちなみに前回はモデルたちが本気でサーキットトレーニングするという演出でした(笑)。

美濃島:明るさと暗さの振り幅がありますよね。でもその懐の深さがこのブランドの魅力なのでしょう。

「コウザブロウ」の考えるニューノーマルは宇宙?

美濃島:日本人の赤坂公三郎デザイナーが手掛ける「コウザブロウ(KOZABURO)」は実験的な映像でしたね。

北坂:360度カメラで撮影したアトリエに入り、部屋の中のオブジェクトをクリックしていくと、コレクションの着想源が見つかったり、音楽のプレイリストが再生されたりと面白い仕掛けがあって、すごくユニークだった。なんだかGoogleのストリートビューを見ているような気分になっちゃった。アトリエを離れて近未来的なドームの中に入ると、21年春夏の洋服を着用したバーチャルモデルが登場して、ベッドに寝ているモデルもいれば、園芸?にいそしむモデルもいたりして面白かったね。

美濃島:僕は「宇宙旅行に着て行く服」をイメージしたコレクションだと解釈しました。光線をモチーフにしたトラックジャケットなど直球のアイテムもあれば、タイベック素材を使ってフューチャリスティックさを押し出したセットアップもあったり、いろんなアプローチがあって引き出しの多さを感じました。

北坂:なるほど。ニューノーマルのキーワードとして快適さを挙げられることが多いけど、赤坂デザイナーのアンサーがこのコレクションだったのかもね。

美濃島:彼は17年のLVMHプライズで日本人初の特別賞を受賞しているので、メンズですが今後もぜひチェックしてください!

ミリタリーウエアの歴史を辿った「N.ハリウッド」

北坂:尾花大輔デザイナーの「N.ハリウッド(N.HOOLYWOOD)」は、スーツスタイルを軸とする“コンパイル”と、ミリタリーテイストを中心とする“エクスチェンジ サービス”の2ラインのコレクションを発表。ミリタリーウエアの歴史を辿る写真や資料と一緒に、今季のアイテムを見せていたね(ちなみに資料は本人の私物らしい)。

美濃島:爆弾や病院、兵隊などの資料をルックの合間にはさんだ意味深な映像でしたね。なぜ戦争に着想したのか気になりました。BGMがピアノの演奏に転換するところでは、坂本龍一の「戦場のメリークリスマス」を連想しました。

北坂:いつもは旅に着想してコレクションラインも制作しているけど、このご時世で旅ができなかったからコレクションラインはスキップしたみたい。

美濃島:トム・フォードみたいにどんな状況でもコレクション制作を続けるデザイナーがいたり、アーカイブを利用するデザイナーがいたり、そもそもコレクション制作に着手しない人がいたりとクリエイターの姿勢にも違いがありますね。

都会の喧騒を忘れさせる「ウラ ジョンソン」にうっとり

北坂:美濃島くんと2人で「かわいい!」と意見が一致したブランドが「ウラ ジョンソン(ULLA JOHNSON)」。NYの街並みから始まり、マンハッタンの対岸にあるルーズヴェルト島に作ったランウエイをモデルが歩く映像は、たしかにNYなんだけど、都会の喧騒した感じは一切なく、時間がゆっくり過ぎている感じだった。新しい見せ方ではないけれど、洋服をいろいろなアングルから撮っていて、一着一着のディテールもしっかり見られるように工夫していたのがよかったよね。

美濃島:アコースティックギターに綺麗な歌声を乗せたBGMも、どこかゆったりしたムードの演出に一役買っていました。カメラのカットでアクセサリーやメイクまでしっかり見られたのもよかったですね。得意とするボヘミアンテイストは健在ですが、今季はフリルやパフスリーブも多く用いられていて、いつもに増してガーリーな雰囲気を感じました。

北坂:色もパステル調の柔らかなカラーばかりで、見るだけで癒されたなあ。色あせたポラロイドみたいな、ちょっとノスタルジックな雰囲気は「アナ スイ」にも通ずるものがあるね。不安が多い時代だからこそ、過去の良い記憶をさかのぼるような“ノスタルジア”が一つトレンドになるかもしれないね。

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