ファッション

OMOアプリ「フェイシー」のスタイラーが中国のテンセントと協業 「クラウド技術を生かしコロナで苦戦する日本の小売市場に新たな可能性を」

 ファッションのオンライン接客・購買サービスのアプリ「フェイシー(FACY)」をプロデュースするスタイラー(STYLER)はこのほど、中国のIT大手、テンセント(TENCENT)と協業することを発表した。スタイラーは「フェイシー」以外にも、オンラインとオフラインを融合させて豊かな購買体験を設計するOMO事業を手掛けており、今回はテンセントのクラウド事業部門であるテンセントクラウドと業務提携を行った。

 実店舗への集客が困難になりつつあるニューノーマルの時代において、スタイラーはテンセントクラウドの技術を活用し、日本の小売業者や商業施設のデジタルトランスフォメーション(DX)を目指す。ブランドや販売員によるライブ配信・ライブコマースのほか、店舗が閉店時でも営業を継続できる仕組みを提供する。また、商業施設に入ったときにスマホで館内マップなどを見られるロケーションサービスや、消費者が買い周りを避けて効率的に買い物できるようなサービスなども届ける。すでにOMOなど“ニューリテール”が発達している中国の技術を用いることで、日本の小売業界のDXを加速させる狙いだ。

 そんなスタイラーの小関翼代表取締役CEOに、今回の協業についてや、新型コロナウイルスの影響でさまざまな壁に直面している日本の小売業界について聞いた。

WWD: テンセントとタッグを組んだ理由は?

小関翼スタイラー代表取締役CEO(以下、小関): 弊社はユーザーと店舗をデジタルでマッチングするアプリ「フェイシー」を提供している。日本だとリアルな店舗を集約するようなものは珍しく、そのためアプリも年々成長してきた。そこで国内だけでなく海外事業にも挑戦すべく、台湾にも進出していたり、今は中国や東南アジアに新たに進出することにトライしている。その中で中国現地の巨大プレイヤーであるテンセントとつながったことがはじまり。テンセントは店頭のコミュニケーションや店頭の在庫のデジタル化に長けた技術を持っている一方で、われわれは小売り業や不動産開発業の接点が非常に多いので、その2つがコラボレートしたら日本の小売業界にも大きく変化できると感じた。

WWD:今回日本で提供する主なサービスとして発表したのは、ライブ配信やオンライン接客、ロケーションサービスなど。それ以外にはどのようなことを提供するのか?

小関:主に小売業や商業施設の開発に焦点を当てたことを発表したが、実はほかにも沢山ある。ECサイトのメッセージ機能、AIを使った画像の予測サービスの導入から、在庫管理などのバックエンドのサポートまでも可能だ。

WWD:提携の理由の一つに、新型コロナウイルスの影響でメーカーや商業施設から多くの問い合わせが寄せられたことを挙げていたが、具体的にどういった相談があったのか?

小関:よくある悩みは、消費者は商業施設に入れないのに、家賃は払わなければならないということ。店舗が閉店中も販売員を生かしたいという思いもあるだろうし、ライブ配信などをはじめたものの質が良くなかったりノウハウがなくて、思ったよりうまくいっていない。そんな相談を受けることが多い。

WWD:こういった新たなサービスを日本の小売業界に提供することで、一番期待することは?

小関:前提としてユーザーにとってベストなショッピング体験を提供すること。買い物体験が向上することで、苦戦する小売業が新型コロナから復活することをサポートしたい。ECは非常に重要なチャネルのひとつだが、小売り(実店舗)全体を賄えるようなチャネルでもない。今後も店舗には人は戻るとなると、店舗のコミュニケーション、接客のデジタル化、在庫のデジタル化など、店舗とデジタルを両立させたOMO戦略はますます必須になるだろう。今回の提携によって、売り上げの大半を占める実店舗でのショッピング体験を向上させることで、小売り業のコロナ対策と、小売り業の今後の活性化を考えている。

WWD:今回は中国のテンセントと協業したが、中国と日本はだいぶ状況が違うのでは?そのうち日本も中国のようになるのか?

小関:スマホ社会の中国では、パソコンを使わずに全てスマホで完結している。そもそもパソコンは職場で使うくらいで、家に持っていない人も多い。大学生はレポートを音声入力で、スマホで行うくらいだから。そうしてみると、オフラインの場でもスマートフォンが出てくるのは当たり前で、店に行く前も、店舗の中でも商品情報を調べたり、店頭で試して、その場でスマホを使ってECで買うというのも珍しくない。例えば百貨店の化粧品フロアに行ってほしいものがなければ、高確率で店員は「ウィーチャット交換しませんか?」という。つまり店頭の人がスマートフォンを使ったコミュニケーションをするのが標準になっている。日本の若い子も今はあらかじめスマホで調べてから物を買いに行ったりするので、いずれはそうなると思う。

WWD:今は当たり前になっているが、そもそもファッションやビューティなどのライフスタイルカテゴリーが、これまでECやデジタルの発達が進まなかった、その理由は?

小関:洋服やコスメは気分やムード、センスの世界。要は答えがない市場で、選択肢が多い。選択肢が多い中で、自分で選ぶのは面倒くさいし、難しいと感じる人も。だからやっぱり店頭の販売員による接客を求める傾向にある。また日本特有の問題があるとすれば、人材の流通。日本はあまり転職しないことが普通になっていて、業界を変える人も(海外に比べて)少ない。そうすると業界をクロスさせた知見をもっていない。ひとつの業界からすれば当たり前のことを、ほかの業界では気づいていない。新しい技術とか新しいトレンドにキャッチアップするのが遅れがちになる。そもそも硬直的な労働市場で、そもそも店舗のデジタル化、ECにチャンスを見出してもおかしくないけど、そこの人材が供給されない。

WWD:最後に今の日本のファッション、ビューティ、ライフスタイルの小売りの課題は?今後どのように変化していくと思うか?

小関:おそらく、ビジネスモデルの刷新が遅れている企業が多いのではないか。優秀な人材が流れ込みにくくなっていたり、さらに言うとオーナー企業が非常に多い。それらの会社の全盛期が40年前、50年前だとすると、ビジネスモデルの刷新やユーザー向けのサービスの向上が止まっているところも少なくないだろう。コロナは悪い話だが、考える機会を与えたとも思う。今までの考えだと、在庫の8〜9割を店舗で消化しないといけない。ただ店舗が閉まっているし、ECに在庫をあててみたけど思ったほど動かない。これがコロナでみんなが抱える問題。こんな状況下で改めて、ユーザーにどのような価値を提供できるのか、考えるきっかけになったと思う。

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