婦人靴の卑弥呼が、新たな改革を進めている。5月1日付で婦人靴ブランド「オリエンタルトラフィック(ORIENTAL TRAFFIC)」を運営するダブルエーの子会社となり、新社長にはダブルエーの新井康代取締役(38)が就任した。
2020-21年秋冬はこれまで展開してきた6ブランドを、「卑弥呼」「HIMIKO」「ウォーターマッサージ 卑弥呼(WATER MASSAGE HIMIKO)」の3ブランドに統合し、ロゴも一新。商品供給では型数を絞って売れ筋商品の在庫を確保し、店頭とECの在庫を連動させて欠品による買い逃しを減らす。また「オリエンタルトラフィック」でのノウハウを生かし、トレンド感を取り入れたデザインを増やすほか、ノベルティーフェアや、下取りサービスなどの顧客サービスも充実させる。
新井新社長は「オリエンタルトラフィック」での顧客目線のモノ作りをはじめ、サービスの向上、ブランドイメージの確立に寄与してきた人物。下北沢1号店でのアルバイトを経て、新卒入社。店長やマネジャー、商品企画、取締役などを経験してきた。ファッション企業ではまれな30代の女性社長である同氏にこれまでのキャリアや今後の卑弥呼の戦略について聞いた。
WWD:簡単にこれまでの経歴を教えてほしい。
新井康代・卑弥呼社長(以下、新井):文化服装学院でシューズデザインを学んでいた2002年に、靴の勉強をしたいとアルバイトを始めたのが下北沢の「オリエンタルトラフィック」1号店でした。卒業後にはそのままダブルエーに新卒で入社し、販売員を経て、マネジャー、店舗統括、商品部部長、13年には商品部部長と兼任で取締役になりました。振り返れば、売り場から社長に意見を出すなど、とても生意気な社員だったと思うんですけど、「会社がよくなるために」と行動してきました。現状の下取りやサイズ調整、修理などの店頭サービスの導入に携わってきたほか、出店を加速したタイミングで、モデルを起用したカタログ制作などを始めるなどブランディングにも関わってきました。今もダブルエー取締役を兼任しているので、ダブルエーの恵比寿本社と卑弥呼の渋谷オフィスを半日ずつで行き来しています。
WWD:ダブルエーには女性リーダーが多い?
新井:たくさんいます。役員も社長以外は全員女性です。社長自身がやる気のある人の意見を尊重してくれるタイプなので、どんどん任せてもらってきました。社長はいつも「女性にはかなわない」と言っています(笑)。
WWD:卑弥呼社長に就いて、率直な感想は?
新井:「オリエンタルトラフィック」では合皮皮革を中心に使った海外生産のシューズを扱ってきたので、国産の革靴という新しいジャンルを勉強できるのも魅力に感じました。異なる百貨店の売り場の知識も広がると思って引き受けました(「オリエンタルトラフィック」はショッピングセンターなどが中心)。
課題は「定番頼りで、新しいデザインが少ない」
WWD:卑弥呼の印象は?
新井:強みはこだわりを持ってしっかりと商品を作っているところですね。長い歴史があるので、履き心地のいいラスト(木型)や、特許を取得している“水様液(水のような液体)”入りのインソールを使った「ウォーターマッサージ」など、戦っていけるブランドがあります。履き心地のいい定番が多く、顧客さまに人気の商品っていうのはたくさんある一方で、常に売り上げの上位が定番で、新しいデザインが少ないのが課題に感じました。
WWD:どのように改革を進める?
新井:新しいお客さまを取り込んでいくためにブランドを編成し直すことにしました。これまで6ブランド展開していたところを、分かりやすく「卑弥呼」「HIMIKO」「ウォーターマッサージ卑弥呼」の3ブランドに集約。漢字表記の「卑弥呼」は3年ぶりに復活させ、ロゴも少し女性らしさが出るように、線を細くしてデザインをリニューアルしました。「卑弥呼」は社を代表する定番商品を扱い、サイズ展開もしっかりそろえていき、ローマ字の「HIMIKO」では、トレンド感のある素材感、少し遊びを取り入れて新規のお客さまにもアプローチできるブランドにしていきます。「ウォーターマッサージ」はこれまでも独立したブランドでしたが、「ウォーターマッサージ卑弥呼」として、“卑弥呼”の名前を入れて打ち出していきます。
WWD:ブランドを絞ることで、在庫の持ち方も効率化する?
新井:在庫はしっかりと積んでいきたいと思っています。特に「卑弥呼」は通年で売っていく定番商品なので、型数を狭めることで1型当たりの発注数を増やすことができますし、より一点一点をヒット作につながるようにしていきたいと思っています。今後、型数は増やす可能性もありますが、吟味しながら対応していきたいです。
WWD:サービス面ではどのようなことを強化していくのか?
新井:販促面では、春夏からシューズボックスを一新しました。これまではすぐつぶれてしまうような箱だったのですが、厚みのある高級感を持たせた素材に変更し、保存袋も一緒にお付けしています。すでに好評をいただいており、秋冬も継続することに決めました。また、新たにノベルティーフェアを開催し、ティペットをプレゼントして他社と差別化を図ります。さらに、お客さまの不要になった靴を引き取って、金券に引き換える下取りサービスも取り入れたいと考えています。「オリエンタルトラフィック」でも行ってきたサービスですが、来店頻度も上がり、リピーターを増やすことができました。「卑弥呼」はすでに顧客、リピーターが多いので、買い替えの施策として取り入れたいと考えています。
他社も厳しい状況は逆にチャンス
「私たちやる気あります!」とアピール
WWD:現在50店を出店しているが、店舗は増やしていくのか?減らしていくのか?
新井:経営状況を見て検討していく部分ですが、他社も厳しい状況にあるので逆にチャンスでもあると思っています。例えば、もっと売り場面積が広ければ売り上げを見込める店舗については、拡大を考えるなどアプローチをしたいですし、店舗開発も考えていきたいと思っています。百貨店関係者の方にも「在庫ありますよ!私たちやる気あります!」ということをお伝えして攻めているところなので、結果を出していきたいと思っています。
WWD:店頭とECとの連動を強化するオムニチャネルを進めている。
新井:店頭スタッフへのヒアリングを進めていると、「在庫がない」ということが一番の不満になっていました。サイズ欠けで売り逃すことも多く、取り寄せをしても1〜2週間先になってしまうため、せっかく接客をしてもお客さまにご提供できず、売り場のモチベーションも下がってしまう。その解決策として、ECに多く在庫を持ち、店頭で販売したい商品をECから発送できるようにしました。できるだけお客さまが“欲しい”と思ったものを購入できるような体制を作りたいと考えています。
WWD:ECの戦略については?
新井:現在のEC化率は約15%ですが、今後直近で20%くらいにしていきたいと思っています。「ゾゾタウン(ZOZOTOWN)」、マルイ、ロコンドなどのECモールにも出店していますが、自社ECが圧倒的に強いです。ECは成長の一つのエンジンだと思っているので、しっかりと在庫をそろえて店との連携も強化していきます。
WWD:職場のカジュアル化でのパンプス離れ、コロナ禍でリモートワークが進み通勤靴の売れ行きに変化がありそうだ。今後の提案は変わると考えている?
新井:通勤とプライベートとの併用が増えていくと思うので、「卑弥呼」では強みである履き心地が今後もアピールしていける部分だと思っています。きれいな形のパンプスやヒールシューズが定番でそろっているので、今後も履き心地には注力していきたいですね。また、ローマ字表記の「HIKIMO」では、トレンド感のあるデザインも取り入れていきます。シューズを履くときの高揚感というも大事ですので、お客さまにぴったり合う一足を提供していきたいです。