「H&M」と「バルマン(BALMAIN)」とのデザイナーズコラボアイテムの発売が11月5日に迫っている。そこで、「バルマン」のオリヴィエ・ルスタン=クリエイティブ・ディレクターと、「H&M」のアン・ソフィー・ヨハンソン=クリエイティブ・アドバイザーの発言を、ニューヨークで行われたメディアカンファレンスと、「WWDジャパン」の独占メールインタビューからまとめてみた。
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ニコル・フェルプス=「ヴォーグ・ランウェイ(VOUGE RUNWAY)」ディレクター(以下、フェルプス):「H&M」からコラボのオファーがあった時の率直な感想は?
オリヴィエ・ルスタン(以下、ルスタン):電話がかかってきたときに、一言、「スゲー!」と思った(笑)。これまでのデザイナーズコラボをはじめ、「H&M」はすばらしい仕事をしてきたので、その一部になれるのは光栄だし、感動的だと思った。私はまさに「H&M」世代の人間。最初に買ったジャケットは「H&M」のものだし、過去のデザイナーズコラボの発売時に並んだこともある。グローバルに展開していて、世界中の「H&M」の店舗で「バルマン」とのコラボ商品が販売されることもうれしい。
アン・ソフィー・ヨハンソン(以下、アン・ソフィー):「H&M」が「ロベルト・カヴァリ」とコラボレーションした時(2007年)にオリヴィエはアシスタントをしていて、その頃から絶対成長すると目を付け、コラボ相手のウィッシュリストにずっと入っていた。
フェルプス:発表当時から#BALMAINATION(バルマネーション)のハッシュタグを使って情報発信してきたが。
ルスタン:今回のコラボで、「バルマン」と「H&M」が団結し、多くの人々を「バルマン」の世界に招待し、夢のようなアイテムを手に入れてもらいたかった。このハッシュタグは、そのムーブメントとしたかった。
フェルプス:毎年いろいろなブランドとコラボする理由は?
アン・ソフィー:いろいろなブランドと仕事をすることは貴重な経験になるし、いろいろなブランドとコラボすることで、私たちのカスタマーに興味を持ち、好意をもってもらうことができる。また、「バルマン」、そしてオリヴィエの場合、SNSを用いた手法が今の時代にマッチしていると思い、「H&M」のSNSのファンを作るのにもピッタリだと思った。
ルスタン:商品については、「バルマン」が好きとか、僕のSNSをフォローしてくれている人々が、アクセス(購入)しやすいものを作りたいと思った。それと、今回は、2~3分でぱっと消えてなくなってしまう花火のような美しさやはかなさのある取り組みだと感じていた。だからこそ、アイコニックなアイテムを作り、欲しいものと美しいものが共存するようにしようと考えた。一番好きなのは、パールのダブルブレストのジャケットだ。「バルマン」のクリエイティブ・ディレクターに就任後、初のコレクションで作ったアイテムであり、その情熱や気持ちなど一番思い入れのあるアイテムだからだ。実際にクオリティー的にも高いレベルものものに仕上げられた。
アン・ソフィー:高い技術を要するアイテムばかりでチャレンジングだったが、それこそが「バルマン」の世界を表現することにつながる。
ルスタン:今回は香水も発売することになった(12月3日に発売予定)。「H&M」のコラボだから手が届きやすいものが多いのだけれども、もっと手に入れやすいアクセサリーや香水を用意したかった。
アン・ソフィー:「H&M」では9月から「H&Mビューティ」ラインをスタートしたばかりなので、タイミングも良かった。
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次ページ:「バルマン」はファッション業界のマイケル・ジャクソン?▶
フェルプス:ルスタンはSNSのフォロワーが130万人もいるが。
ルスタン:SNSを通じていろいろなことを学んでいる。特にインスタグラムは正直に世界が見える。好きならフォロー、嫌いならアンフォローと関係性もわかりやすいし、「良かった」「嫌だ」などのコメントを見て、リアリティチェックをしたりもしている。逆に大嫌いな人ともフェイス・トゥー・フェイスで向かい合うことを通じて強くなっていくこともできる。両方が必要。インスタグラムなくして生きてはいけない。
フェルプス:昨秋のアレキサンダー・ワンとのコラボ発表を大型ファッションフェスのコーチェラで行ったのに続き、今回はラスベガスのビルボード・ファッション・アワードでコラボを発表した。その理由は?
ルスタン:「H&M」のPRの方々とも相談して、「バルマン」のファンがいる有名な音楽イベントの中で発表し、新しいコレクションの一部を見せることが、インパクトや情報発信力につながると考えた。
フェルプス:商品については。
ルスタン:メンズは自分が着たい、まさに自分のクローゼットの服を作った。ウィメンズはインスピレーションを与えてくれる自分の友人たちイメージした。ダイバーシティーを意識していて、カクテルドレスやレザージャケット、総刺しゅうのジャケット、シェイプなど強い女性をイメージしたものも多いけれども、メンズコレクションはウィメンズでも着られるものになっている。
フェルプス:モデルの選択については?
ルスタン:ヤング、若さをキーワードにした。ケンダル・ジェンナーやジョーダン・ダン、ジジ・ハディッドなど僕の友人たちを「H&M」の世界に連れてきた。僕もクラウディア・シファーやナオミ・キャンベルなどトップモデルが好きだった。今回は今の若い人々にとってのスーパーモデルを起用した。実はビルボード・ファッション・アワードの時にはすごく緊張していて、ケンダルとジョーンズが手を取って「大丈夫だよ」とサポートしてもらっていたんだ。
フェルプス:ファッションと音楽の関係について考えていることは?
ルスタン:僕が一番好きなのはマイケル・ジャクソンで、人生の中で一番影響を受けた。彼はファッションと音楽の両方ですごく存在感や影響力があったし、“キング・オブ・ポップ”として、ポップ=大衆的な人気を持っていた。「バルマン」もラグジュアリーでありながらポップでありたいと思っている。
フェルプス:お金とスタイルの関係性についてどう考える?
ルスタン:お金がないからスタイルがない、とは思えない。要はどういうアティチュードでいるかが重要だ。
フェルプス:服が自分を形成するのか、それとも、服を着ていないときにはどうなるのか?
ルスタン:(笑)。僕のSNS、フォローしている?僕が雑誌(フランス誌「テトゥ」)の表紙に裸で出たのを見ている?とても気持ち良かったし、裸でも強くあるには、アティチュードが必要だ。ファッションはアティチュードの一つであり重要だが、なりたい自分になること、パワフルになることが大切だ。
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次ページ:次のコラボデザイナーは誰?▶
WWDジャパン(以下、WWD):デジタルが進化し、SNSの影響力がますます強まっている。オリヴィエもSNSの活用が上手だけれども、逆に、どうしたらファッション誌が面白くなると思う?
ルスタン:僕にその質問をするの?え~っと、デジタルの世界は革命的で革新的で新しいことが次々と生まれてきている。雑誌も重要な存在だけど、もっと革新的なこと、新しいことをしていくことが大切だと思うよ。
WWD:「バルマン」の特徴でもあるパワフルなシルエットとラグジュアリー感を「H&M」との協業作業で表現するのに、一番力を入れた点、苦労した点は何だったのか?
ルスタン:「バルマン」とコラボレートをするときに妥協は一切できません。ユニークさにもクオリティーにもアティチュードやスタイルにも妥協はできない。「H&M」は真のブランドのDNAを求めていて、「バルマン」の別バージョンには興味がなく、彼らのお客さまに真の「バルマン」を経験する機会を与えようとしているのが素晴らしかった。自分が作りたいコレクションを、「バルマン」でしか見つけられないようなリッチなディテールやパワフルなアティチュードで作る自由があったことがデザイナーとしてもとてもエキサイティングだった。
WWD:セレブリティの友人がたくさんいるが、今回の「H&M」とのコラボレーションを話した時はどんな反応だったか? 特にユニークな反応をしたのは?
ルスタン:このコレクションをデザインしたときはトップシークレットだったので、誰にも伝えられず本当にクレイジーだった!「バルマン」や「H&M」でもごくわずかな人が知っていて、秘密が漏れないようにコードネームを使っていて。私は常に友達と話をして全て話すことが好きなので、とても楽しみにしていた「バルマン×H&M」のことを秘密にしていなければいけないことは本当に難しいことだった。友人のジョーダン・ダンやケンダル・ジェナーがこの秘密のプロジェクトに参加してビルボードミュージックアワードに出てくれたときは本当にうれしかった。大きな秘密を知っている子供みたいな気持ちで、世界中に伝えられたのは素晴らしい瞬間だった。
WWD:ファッショントレンドにはジェンダーやジェンダレスといったキーワードが浮上しているが、ルスタンの「バルマン」は正反対の、女性性、男性性の強い服を打ち出している気がする。その背景にある想いや、国籍、人種、年齢、性別などを超えたダイバーシティーについて思うことは?
ルスタン:とてもおもしろい質問だ。なぜなら、私自身は最近のシーズンは自身のメンズとウィメンズコレクションが近付いてきていると感じているからだ。特にメンズに関してはその通りで、私たちのメンズカスタマーはウィメンズコレクションのような魅力的で力強いアイテムを求めている。近年メンズウエアはとても強くなってきており、最近の男性は洋服に遊びを入れて冒険することが好きになってきている。メンズウエアが非常にエキサイティングな時なので、「バルマン」で初のメンズウエアのショーを夏に開催する予定だ。
WWD:アレキサンダー・ワンに続いて、若いデザイナーの起用になったが、意識して選んだのか?
アン・ソフィー:フレッシュで新しいインターナショナルなデザイン感覚を持った年代の人と働くことはとてもエキサイティングなこと。私たちがデザイナーズコラボを始めた時、ファション業界においてこれらがここまで大きなものになるとは思ってなかった。また、オリヴィエ・ルスタンという名の若者がファッションでの未来の成功を胸に、列の最前列に並んでいたことも知るよしもなかった。オリヴィエが一人のファンと、クリエイティブ・ディレクターと、両方の立場で「H&M」のコラボ企画を体験していることはとても素晴らしい。私たちは若い世代の人々に影響を与えることができてとても光栄だ。特に「H&M」 デザインアワードはその例だ。若い学生たちがオリヴィエの例に影響を受けることを考えるととてもワクワクするし、いつの日か彼ら自身もコラボレーションをできるかもしれない。
WWD:今回、とても装飾性が高いデザインだったが、どんな生産背景を使ったのか?デザインを商品として実現するために一番苦労したのは何か?
アン・ソフィー:私たちは、今までに創ったコレクションの中で一番高精度な今回のコレクションをとても誇りに思っている。私たちが最初に「バルマン」に話を持ちかけた時、「バルマン」のエッセンスをキャプチャーするために試行錯誤しなければいけないと覚悟していたし、とてもチャレンジングではあったが、実りある道のりだった。オリヴィエと働くことで一番すばらしかったことは、彼が一つ一つのディテールにとてもこだわったことだ。装飾だけでなく、ドレスのバックスタイルのジップのサイズ、セーターの肩ボタン、そして、ロゴTシャツのロゴのプリントの間隔にまで及んだ。今回のコレクションを見れば、彼がすべてのアイテムにとても深く関わっていたことを感じられると思う。
WWD:長くデザイナーズコラボを行ってきた中で、今回の「バルマン」との協業はどのような存在・位置付けになるのか。また、これまでに比べて、もっとも特異的だった点は何か? そして、次に協業してみたいデザイナーやブランドはどのようなものになりそうなのか、そのヒントを教えてほしい。
アン・ソフィー:協業のすばらしいところは、常に私たちが今までやってきたことと全く違うということだ。各々のデザインは、自身の象徴となるものとインスピレーションが一体になったユニークなデザインだ。私は、そのブランドの世界観を体験できるように、お客さまをデザイナーの世界にすっかり熱中させようとしてきた。そして各々のコラボレーションは全てとてもすばらしい経験であり、私はそのような世界の有名デザイナーの方々と一緒に時間を過ごすことが出来てとてもラッキーだった。私たちは常に次のデザイナーズコラボレーションをすることにより、人々を驚かせていくことが好きだ。次のデザイナーも期待していてほしい。