今年もいつの間にか夏が終わってしまった。中学生の頃は、「トゥナイト2」(テレビ朝日系)の“夏の終わりのざんげ”的コーナーがあると、あぁ今年も夏が終わるなぁ……と思ったものだが、気候変動の影響か春と夏がなくなり、これでは“この服はこの月に着よう”という生真面目な僕の計算が崩れてしまい、大枚をはたいて手に入れた品の出番がないなんてこともしばしばだ……。
例えば、夏素材のオプティモ(折り畳み可能なパナマハット)もその一つ。なかなかに特徴的なデザインでもあるので“いつもそれをかぶっている人”になるのは避けたく、“いざ”というときにと考えていたら、特別な夏にはその“いざ”がなかった……。悔やみ切れずに頼ったのは以前リモート取材させてもらった、2015年スタートの帽子ブランド「ザ エイチダブリュードッグアンドコー(THE H.W. DOG & CO.)」だ。デザイナーの弦巻史也さんは「カシラ(CA4LA)」のウィーブトシでキャリアを重ねた人物。“紳士的、だけど遊び心のあるモノ作り”が信条で、現在国内約60店舗、海外約40店舗に商品を卸している。
弦巻さんの顔が浮かんだのは、「1900年製のクラシックなコンフォメーター(測定器)を使ったビスポーク(特別注文)サービスを秋にスタートさせる」と聞いていたからだ。僕の計画は、夏を代表する帽子オプティモをフェルト素材で秋仕様にしてしまおう!というもので、裏テーマは“俺の夏は終わらない!”(笑)。弦巻さんも「これまでにない発想。面白そう!」と乗ってくれた。
ビスポークのファーストステップは計測。ここでコンフォメーターの登場となる。果たして目の前に現れたそれは、本当に120年前のもの?と思うほど状態がいい。3つのパーツからなり、「完品は珍しい」と弦巻さんが言う。4、5年ほど探して、ようやく海外のコミュニティーサイトで知り合ったマニアから約80万円で購入したそうだ。
日本人男性の頭回りは58~58.5cmが多く、ゆえに帽子サイズは59cmが売れる。一方で頭が左右対称な人はほぼ皆無で、僕の場合も頭回りは58.3cmだがおでこが少し出ているとのことで、「通常であれば1cmアップの59.3cmを推奨する」が、コンフォメーターを使って最適化を図ったことで、あえて59cmにサイズダウン。これでフィッティングの向上が見込めるという。
次は素材&ディテール選びだ。ラビットファーフェルト、ウールフェルトなどの中から、最高級のビーバーファーフェルトを選んだ。カラーはブラック、ブラウン、ネイビー、ベージュなどの中からオリーブを選択。リボンはオリーブの補色である赤も考えたが、少しあざとい?とオフホワイトにした。このつつましさが奏功したと信じている(笑)。ビスポークならではのアレンジとしては、ブリム(つば)幅を1cm広くした。
ビスポークは10万円~と決して安くはないが、“自分で作ったもの”には既製品以上に愛着が湧くし、“自分専用フィッティング”でかぶり心地も申し分ないため長く愛用することができる。つまりサステナブルとも言える。「ザ エイチダブリュードッグアンドコー」のビスポーク品は、東京・原宿の店舗近くのアトリエで作られる。つまり“Made in HARAJUKU”だ。これも付加価値だと思う。弦巻デザイナー自ら製作に当たる。コンフォメーターで測定したデータをもとに木型を削るところから始め、納期は約2カ月。贅沢の極み……。
さて、完成品をかぶってみる。さすがはビスポーク!というフィット感で、頭が大きく(と思い込んでいて)合うハットがなかった僕にとっては“これこれ!待ってました”という感じ。オリーブのハットを引き立てようと迷彩柄のジャケットを合わせてみた。コスプレチックにならないよう、インはタイドアップし、パンツもクリース入りを選んだ。弦巻さんは「フェルト素材のオプティモを作ったのは初めてで(笑)、“トップライン”(縦に走る線)の型を付けるのに最も苦心した。夏物のオプティモに裏地はないが、こちらには付けており、その付け方も悩んだ」と振り返り、ひと息。ソフトオープンしていたビスポークサービスは10月1日から本格始動する。