「ヴァレンティノ(VALENTINO)」は9月27日、ミラノ・ファッション・ウイークで2021年春夏コレクションを発表した。今季は新型コロナウイルスの影響で発表の場をパリからミラノに移し、ウィメンズとメンズの合同ショーを行った。会場に選んだのは、工場施設が多いエリアにある廃工場だ。無機質な建物内には、まるで自然と生えたかのように植物が飾られていた。最初に歌手3人とピアニストが登場し、生演奏とともにショーは幕を開けた。
異なる日常をつなぐテクニック
コレクションは非常にバラエティに富んでいた。ファーストルックを飾ったのはショート丈のプレーンなブラックドレス。スモーキーアイのメイクアップと相まって、見ている側がが身構えてしまうほどの強いムードが感じられた。ルックでは夜遊びを楽しむ若い女性のようなスタイルもあれば、オフィスへ出勤するキャリアウーマンもいる。ほかにもリゾート地を満喫したり、「リーバイス(LEVI'S)」とコラボレーションしたジーンズで都会をさっそうと駆け抜けたりするなど、ルック毎に異なる人物像が浮かび上がる。彼女たちのさまざまな生活をブランドならではのクチュールテクニックによって一つにつなぎ、共存させていた。例えばレーザーカットのレースやレザーのドレス、わらをフィッシュネットのように編んだスカートはクチュールのテクニックが生かされた逸品だった。なかでも繊細なレースはアウターやシャツに用いられ、男女のルックに登場した。中盤には、目のさえる原色のロングドレスの上でフラワープリントが咲き乱れ、ヌードカラーへと徐々にシフトしていきながら優美なフリルが揺れ動く。終盤はシフォンの流動的なロングドレスのルックが続き、「ヴァレンティノ」らしいロマンティシズムで締めくくられた。
幻想的なドレスやオフィスを連想するシャツ、セットアップ、日常着のジーンズといった、夢と現実を行き来するようなショーだった。各ルックは一人の人間の異なる側面を映し出しているようでもあり、全く別人のようでもある。いずれにせよ、ピエールパオロ・ピッチョーリ(Pierpaolo Piccioli)が世界中の人たちの表現の自由と、常に進化するアイデンティティーを後押ししているように感じられた。日常に美しさを少しでも取り入れるだけで、その瞬間は特別なものへと変わる――そんなメッセージが服や会場の演出から伝わってきた。それは結果的に、「ヴァレンティノ」が異なる価値観や思想、生活様式を持つ全ての人々に開かれた、包括的なブランドであると証明しているようでもあった。