9月22〜28日に2021年春夏シーズンのミラノ・ファッション・ウィーク(以下、MFW)が開催された。リアルとデジタルの両軸で行われる初のMFWとなった今季、来場者は例年の3分の1かそれ以下だった。来場者はイタリア近隣諸国から訪れたものの、ファッション業界の関係者でさえ極めて少なかった。そのためか、各ブランドのショー会場には顧客らしき人物の割合が例年よりも多いように見られた。来場者は屋内外を問わずマスク着用が必須で、ストリートスタイルを撮影するフォトグラファーが被写体に向かってマスクを外してほしいとリクエストするシーンに何度も遭遇した。トレンドもなければ、奇抜なファッションもほとんどない。そんな異例ともいえるファッション・ウイークをストリートカメラマンたちはどう見たのだろうか。
2010年から各都市のファッション・ウイークに赴き、ストリートフォトの先駆者として活躍してきたアダム・カッツ・シンディング(Adam Katz Sinding)は、今季のミラノを「奇妙だった」と振り返る。「この時期は天候に恵まれていたのに、今季は暗い雲が垂れ込めて灰色の光や雷雨にも見舞われたんだ。でもヨーロッパを拠点にする業界人をショー会場でわずかながら見かけたし、予想よりは盛況だったかな。ただ、再会を喜ぶ笑顔はマスクやスカーフに隠れて見られなかった。あいさつのハグや頬のキスは少ないし困難な状況だったけど、写真には満足しているよ」。シンディングはリアルな瞬間を切り取るドキュメンタリー写真を得意としているため、通りを歩く人の足を止めることも、マスクを外すよう依頼をすることもなかったという。「僕自身は、母が作ってくれた布製のマスクを着用していたんだ。悪天候であってもサングラスを外さず、小さなボトルの消毒ジェルを持ち歩いていたよ。あいさつは距離を取って言葉を交わすか、肘を合わせるだけさ」と、自身も対策をして現場に臨んだことを明かす。シンディングがミラノを訪れるのは2月のMFW以来となった。「約6カ月ぶりにミラノに戻ってきて、街が想像以上にもと通りになっていたからうれしいんだ。だって、カフェで落ち着いて席に座れることすら驚きなんだから」。