LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)は9月28日、ティファニー(TIFFANY & CO.)買収において合意した条件が満たされていないことや、ティファニーが9月9日に提起した本訴における主張は事実無根だとして米デラウェア州衡平法裁判所に反訴した。これに対してティファニーは翌29日に「根拠のないミスリーディングな訴え」と批判する声明を発表。両社の溝は深まるばかりだ。
LVMHの主張の概要とティファニーの反論は以下。
1 新型コロナウイルスを理由とした契約破棄はMAE条項に該当する:
MAE条項は、買収対象企業の事業などに重大な悪影響を及ぼす事由が発生した場合において買い手が取引を中止できる権利を規定する。LVMHは、「合併契約にMAE条項を盛り込む場合、例示としてパンデミックを含めるのは一般的だ」と前置きし、にもかかわらず「今回の契約では、ティファニーの希望で“サイバーアタック”や“イエローベスト運動”、“香港のデモ”といった極めて具体的な事件のみを列挙した。しかし、新型コロナウイルスによるパンデミックはティファニーに壊滅的な悪影響を持続的に及ぼしているため、これがMAE条項に該当することは明らかだ」と主張する。
これに対してティファニーは、損失を出したのは第1四半期だけで、それ以降は利益を出しており、2020年通期の売上高は前期よりも上回る想定だと主張。新型コロナウイルスを理由とした契約破棄はMAE条項に当たらないと反論する。
2 通常の過程に従って事業を運営することを定めた規定にティファニーが違反した:
LVMHは、ティファニーが損失を出していた時期にこれまでで最も高額な配当金を分配していたことなどを挙げ、経営判断に誤りがあったと指摘し、通常取られるべき経営手法を取っていないと批判した。
これに対してティファニーは、「LVMHは根拠となる証拠を一切提出していない」といい、配当については合併契約内に規定した“通常の過程に従って事業を運営する”内容から除外されていると主張する。また、1987年の株式公開以降、ティファニーはいかなる状況においても131期連続で配当を減額したり無配当にしたりしたことはなく、それは不況や金融危機、2001年の米同時多発テロのときでさえも例外ではなかったことを理由に挙げ「通常通り運営している」と主張する。「LVMHは自分たちの利益のためにティファニーが保有するキャッシュの量を減らしたくないだけだ」と訴える。
3 フランスの欧州・外務大臣からのティファニー買収完了日の延期要請:
LVMHは9月9日、フランスの欧州外務大臣からティファニー買収の完了日を2021年1月6日まで延期するよう要請されたことを理由に「現在の情勢では、ティファニー社の買収を完了できない」と断念する姿勢を明らかにした。今回の主張の中でも改めてこの点について触れている。
これに対してティファニーは、「署名した大臣はLVMHからの要請で書簡を出したと認めている」と反論。また、ティファニーが書簡の写しを提出するよう再三にわたって要求しているが、いまだに同社にも裁判所にも提出されていないと主張する。
4 契約内で定めた義務の履行:
LVMHは、各種規制をクリアするために契約締結の最終期限に間に合うよう各国に届け出を申請するなど最善の努力を尽くしており、義務を果たしていると主張する。
これに対してティファニーは、欧州委員会に提出する合併に関する届け出の準備に約10カ月もかかっており、申請はティファニーが訴訟を提起した後に行われたことを理由にLVMHの対応の遅さを批判する。
LVMHがフランスの欧州・外務大臣からティファニー買収の完了日を21年1月6日まで延期するよう要請されたことを理由に買収を断念する姿勢を示したことを受けて、9月9日にティファニーが本訴を提起しており、米デラウェア州衡平法裁判所はトライアル(証拠開示で入手した情報を基に争点について事実を明らかにする審理手続きのこと)を2021年1月5日から4日間にわたって実施すると9月23日に決定したばかりだ。