ここ数年、「文化の盗用(Cultural Appropriation以下、CA)」事例がSNSでよく炎上している。ある文化や民族、宗教に特有の衣装や髪形、モチーフ等を、そのコミュニティーに属さないデザイナーなどが取り入れた際、とりわけ少数派の要素を多数派の側が流用した際に、差別の歴史と絡み合って激しい論争を呼ぶ。しかし、流用はファッションが連綿と行ってきたことでもある。CAはなぜ今問題となっているのか、アパレル企業やデザイナーは炎上に巻き込まれないために何をすべきかを、ファッションローを専門とする2人の弁護士に聞いた。(この記事はWWDジャパン2020年9月21日号からの抜粋に加筆しています)
そもそも、CAが頻繁に論争の的になるのは、「CAに対する法律的な枠組みや規制自体がないから」と小松隼也弁護士。それゆえ、受け取る側によって判断基準が異なり、結果的に炎上につながりやすい。「個人的には、法の枠組みがないことによる(デザイナーや企業への)委縮効果が大きすぎることを懸念している。以前ならインスピレーション源としてリスペクトを込めて他文化の要素を取り入れることがあったのに、法の基準がないためにそれすらやめておいた方がいいとなってしまう」。
CAが近年急激に話題にのぼるようになったのは、人種や性別、宗教などによらない政治的な公正(ポリティカル・コレクトネス)を求める動きと連動している。米国を中心に広がるBlack Lives Matter(黒人の命は大切、以下、BLM)や、セクハラや性暴力を糾弾するMeToo運動と同様だ。ただ、「日本は米国のような多民族国家ではないし、白人と黒人の対立の歴史もない。それゆえ、CAは日本人にはなかなか理解がしづらい問題だと感じる」と話すのは、海老澤美幸弁護士。「ファッションは真似をしながら発展してきた部分がある。これまで、企業やデザイナーは他国や多民族の文化の要素を真似したり、取り入れたりすることで利益を上げてきた。恐らく、CAはそれに対するマイノリティーからの“NO”の突き付けという面もあるのでは」。
定期購読についてはこちらからご確認ください。
購⼊済みの⽅、有料会員(定期購読者)の⽅は、ログインしてください。