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まるで逆回転!?イヴニングからカジュアルへと続くジョン・レイの遊び心
「どこかがヘン、だから愛らしい」スタイルで老舗の刷新を印象付けている「ダンヒル」。クリエイティブ・ディレクターのジョン・レイは、例えばセットアップでキメたスタイルに不釣り合いな靴下を合わせたり、“だらしなさ”と紙一重のリラックスしたスタイリングを楽しんだり、遊び心たっぷりに老舗の改革を進めている。2016年春夏メンズは、そんな彼のユーモアがショーの構成からも見て取れた。
ショーは、普通なら終盤に来るハズのイヴニングのパートから始まった。イヴニングは、サヴィル・ロー仕立てのスワローテイルのジャケットに、ハイカラーのシャツ、ハーフダブルのジレにペイズリー柄のネクタイ、センタープリーツのパンツ、英国紳士のムードたっぷりのシルクハット、それにキザすぎるくらいのチーフ&大きな花と極めてトラディショナル。そこに前シーズンまでの、「どこかヘン」なスタイルを提案してきた「ダンヒル」の面影はない。序盤の5ルックだけを見ると、まるで「昔の時代に逆戻り」と言った雰囲気だ。
しかし、コレクションは徐々にカジュアルの度合いを強め、ジョン・レイの面影を濃くしていく。伝統的なイブニングに続くのは、ワイドカラーのシャツと太いネクタイで遊んだジャケット&パンツのスタイル。そこに、くすんだ色合いのケーブルニットで作ったチルデンセーター、反対にカラフルなチェックのシャツ、そして、ようやく登場したヘンテコな色合わせの靴下が現れ、フォーマルスタイルはパーソナルの度合いを強めていく。
中盤以降、コレクションはシルエットさえ変わり始め、ますますジョン・レイらしくなっていく。パンツは左右に最大2つのタックを盛り込んだリラックステーパード、アウターはオイルドコットンで作ったドンキーコートや、スイングトップにアノラックのレイヤードなどますますカジュアル化。そして終盤はついに、ラガーシャツのような配色のロングシャツにテーパードを極限まできかせたリラックスパンツ、片方の裾だけが飛び出したチェックのシャツにハイウエストのショーツ、そこになぜかビジネスソックスと“妙味”を楽しむスタイルに到達した。
まるで逆回転のようなコレクションは、見る者を驚かすだけの演出ではない。コンサバな男性には前半のパートが、よりファッション感度の高い若い層には後半のパートがあることを示す、ビジネス戦略の一端でもある。