※この記事は2020年8月5日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
スーツが嗜好品になる日
米ドラマ「SUITS」は世界中で人気を集め、日本でもリメークされたのでご覧になった人は多いでしょう。一流弁護士事務所を舞台にしたドラマのタイトルは、SUIT=訴訟と、パワーエリートの象徴であるSUIT=背広という二重の意味が込められています。ただ、現実のビジネスの世界ではIT企業を例に出すまでもなく、仕事着のカジュアル化が加速中です。最近ではウォール街の金融マンですら、スーツを着ない世代が増えているようです。
米国最大の紳士服店であるテイラード・ブランズが8月3日、日本の民事再生法に相当する米連邦破産法第11条の適用を申請しました。「メンズ・ウエアハウス」「ジョス・エー・バンク」などの屋号でビジネススーツを販売。「スーツを2着買えば割引」などの安さを武器にした販売手法で全米に約1400店舗を展開し、売上高は約3400億円の規模でした。「米国の青山商事」と呼ぶ業界人もいます。
米国ではブルックス ブラザーズが同様に米連邦破産法第11条の適用を申請したのも記憶に新しいところです。既製服のスーツを初めて作った老舗であり、歴代大統領をはじめとしたエスタブリシュメントに愛されてきた名門の破綻は衝撃を与えました。
低価格のテイラード・ブランズも高価格のブルックス ブラザーズもコロナ以前から経営状況は悪化しており、コロナによる店舗休業がダメ押しになった格好です。コロナ以前の悪化についてはそれぞれ複合的な要因もあるでしょうが、大きな流れとして男性のスーツ離れが痛手になったことは間違いありません。
日本においてもコロナ以前からスーツ離れが顕著になっています。青山商事、AOKI、コナカといった大手紳士服専門店は業績が悪化。百貨店向けの有力ブランド「ダーバン」を販売してきた総合アパレルのレナウンも経営破綻しました。コロナ禍で在宅勤務が広がりを見せる中、スーツにとって明るい材料はあまりありません。
戦後の日本でスーツはホワイトカラーの男性の仕事着という位置付けで、大きなマーケットを形成してきました。しかし今やホワイトカラーが必ずしもスーツを着ない世の中になってきている。残念ながらマーケットの縮小は避けられないでしょう。
「SUITS」の弁護士たち、あるいは今放送中の「半沢直樹」に登場する銀行マンや証券マンもスーツを脱ぐ時代がくるかもしれない。現に三井住友銀行は昨年から、本店の一部とはいえ服装の自由化に取り組んでいます。多くの男性にとって仕事の必需品だったスーツは、かつて和服がたどったような嗜好品への道をたどることになるのかもしれません。
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