こんにちは、ヨーロッパ通信員の藪野です。今回のパリコレはデジタル発表が中心だし、ゆったりしたスケジュールかな〜と思いきや……スケジュール調整や日本とのやり取りからZoomでのデザイナー取材やショールームでのアポイントメントまで一人でカバーしているので、やっぱりバタバタしております。でも、今シーズンは“健康第一”ということで、毎日睡眠時間6時間以上と栄養のある食事(もちろん自炊)は死守します!それでは、「ケンゾー(KENZO)」や「バルマン(BALMAIN)」など、6つのリアルなショーやプレゼンテーションを取材した3日目のダイジェストをどうぞ!
9月30日(水)
10:30 「ケンゾー」はモードな養蜂家スタイル!?
「ケンゾー」の会場は前回と同じ、ろう学校の庭園です。前回はビニール製のトンネルのようなテントの中に席がありましたが、今回は芝生の上に距離を置いて椅子を配置。全部で100席あるかないかという感じです。そして、席の上にはオリジナルの瓶入り蜂蜜。インビテーションにも養蜂家のような男性の写真とハチのモチーフが描かれていて、今シーズンの鍵になっています。
フェリペ・オリヴェイラ・バティスタ(Felipe Oliveira Baptista)による新しい「ケンゾー」のキーワードと言えば、“プロテクション”と“ノマド感”。今回も養蜂家さながら顔や体がベールで包まれたルックがキースタイルとなり、前回とは別のベクトルで身を守っています。また、放浪の旅に欠かせない機能的なディテールも引き続き。ファスナー開閉でデザインやシルエットが変わるアイテムやいくつもポケットのついたハンズフリースタイルは健在です。
そんなコレクションの背景にあるのは、新型コロナウイルスのパンデミック中にフェリペ自身が経験したことや感じたことだそう。リリースの一文には「世界は泣いている」と書かれていて、アーカイブから採用したフラワープリントも涙で滲んだようにぼやけています。こう書くと悲観的に感じますが、そんなことはなく、ショーからは前向きなエネルギーを受け取りましたよ!
12:30 「ゴシェール」のスピリチュアルな儀式
「ゴシェール(GAUCHERE)」のショーは、スピリチュアルな雰囲気を醸し出す女性がパロサント(香木)を燃やし、太鼓を叩きながら会場を歩く儀式的な演出でした。落ち着いたトーンで見せるオーバーサイズのスーツやワントーンスタイルも心地よく、なんだか穏やかな気分になれました。
会場では、ティファニー・ゴドイ(Tiffany Godoy)さんを発見。これまでフランスと日本を行き来していた彼女ですが、コロナの影響で今はずっとパリにいるそうです。僕自身も一時帰国をずっと先延ばしにしていますが、早くまた自由に行き来できるようになるといいですね。
14:00 「エルメス」のアートなハイジュエリーにうっとり
「エルメス(HERMES)」は10月3日にウィメンズのランウエイショーを控えていますが、その前に新作ハイジュエリーのプレゼンテーションも開催しました。デザインしているのは、同ブランドのシューズも手掛けているピエール ・アルディ(Pierre Hardy)。グラフィカルなデザインで知られる彼ですが、ジュエリーでもその強さが発揮されていて、まるでモダンアートのよう。特にダイヤモンドやトルマリン、ヒスイなどを使い、さまざまな色とアシンメトリーなラインを組み合わせたイヤリングやネックレスが素敵でした。
16:30 「Y/プロジェクト」のプレビューは急遽キャンセルに
一度ホテルに帰って、「Y/プロジェクト(Y/PROJECT)」のグレン・マーティンス(Glenn Martens)とZoomでミーティング。もともとショールームでコレクションのプレビューをしてもらう予定だったのですが、グレンと一緒に食事した友達が新型コロナの陽性と発覚したらしく、アポはキャンセルに。友達も彼自身も特に症状はないとのことですが、検査の結果が出るまで自宅隔離しているそうです。こういうことがリアルに起こるんですよね。あらためて気を引き締めないと!
今シーズンのコレクションはというと、コロナによるロックダウンを経て、原点回帰。ジョン・ガリアーノによる「ディオール(DIOR)」のオートクチュールや「ラフ・シモンズ(RAF SIMONS)」のショーに感銘を受けて、「Y/プロジェクト」を始めたときの気持ちを思い出したそうです。なので、着る人の個性や気分でさまざまな着こなしを楽しめるというブランドらしさを追求しています。いつもショーではデザインの構造が分からないアイテムも多いのですが、デジタルで発表された映像だといろんな着方ができることが非常に分かりやすいですね。
17:00 とことん可愛いギョームの「パトゥ」
「パトゥ(PATOU)」は今回もシテ島のアトリエでプレゼンテーションを開催しました。いつものような新作を着たモデルたちが自由に話したりポーズを決めたりという演出はなく、今回は新作を着せたトルソーが並べられていました。
コレクションは、いつもよりドリーミーで大胆なシルエットが印象的。セーラー風の大きな襟や大きなパフスリーブをはじめ、バルーンスカートやドレス、オーストリッチの裾飾りがとってもラブリーです。大ぶりなゴールドのアクセサリーもハートモチーフで、やはり「パトゥ」には“可愛い”が詰まっています。
19:00 “光”がポイントの「アクネ ストゥディオズ」
久々にウィメンズのパリコレに参加する「アクネ ストゥディオズ(ACNE STUDIOS)」は、ミニショー形式のプレゼンテーションでの発表でした。観客が4つの部屋を順に進みながら、それぞれでモデルのウオーキングを見るというスタイルです。30分ごとの入れ替え制になっていたので、次のショーに間に合うかヒヤヒヤしながら拝見しました。
各部屋全く異なるライティングの中で披露されたコレクションは、基本オーバーサイズorタイトフィット。光を通す透け感のある生地もしくは光を反射するメタリックやホログラム素材が中心で、オーロラのようなプリントもありました。今シーズンは演出も含め、“光”がポイントのようです。そして個人的に気になったのは足元。他のブランドでもよく見るトング・サンダル(鼻緒の付いたサンダル)が、トレンドになりそうな予感です。
20:00 仕掛け満載な「バルマン」のスペクタクル
「アクネ ストゥディオズ」終了後、急いで向かったのは「バルマン」です。いつもはセレブリティーが来るので結構開始が遅れる印象なのですが、今回はセレブも観客も少ないだろうし早く始まるかも……と思い、焦りました。しかし、会場のパリ植物園に着いたら、エントランスにはコロナ禍とは思えない人だかり。セレブの到着を待っているような若者がたくさんいて、ショーは結構押しそうな気配。やっぱり「バルマン」は「バルマン」でした(笑)。
まず会場に入って驚いたのは、ランウエイの両サイドにある客席の片側はフロントロウから3列目まで約60台のスクリーンが並べられていること。その一つ一つに名前が表示されていて、よく見ると、アナ・ウィンターやジェニファー・ロペス(Jennifer Lopez)、アッシャー(Usher)と今回パリに来られなかったセレブや著名業界人がズラリ。もしやショーが始まったら生中継!?と思ったのですが、事前に撮影したショーを見ているような映像が流れるという仕掛けでした。ちょっと残念でしたが、アイデア自体は面白いですよね。
今シーズンの注目ポイントは、ウエアからバッグやシューズにまで幅広く用いられたモノグラムです。ブランド設立75周年を記念してピエール・バルマンが手掛けた1970年代のアーカイブデザインを復刻させたそう。ショーの冒頭には、フランク・シナトラ(Frank Sinatra)の「My Way」とピエール・バルマンの肉声をバックに、当時活躍していた往年のモデルたちがモノグラムのルックを着てウオーキングし、創業者へのオマージュを捧げました。その後も色や大きさを変え、さまざまなスタイルで使われていました。
コレクションは、いつもながらパワフルで振り切ったデザイン。クリエイティブ・ディレクターであるオリヴィエ・ルスタン(Olivier Rousteing)は、華やかなファッションを心底楽しんでいるデザイナーだと思います。これでもかという煌びやかな世界がなぜか嫌味に感じないのは、そんな彼の少年のような素直さが垣間見えるからかも知れません。今回は彼自身の最近のお気に入りスタイルを反映したようなオーバーサイズのダブルブレストジャケットや、超ロング丈のタイトフレアパンツ、スキニーなショートパンツが印象的でした。一方、極端に肩の盛り上がったジャケットやドレス、ド派手なネオンカラーのワントーンルックは正直、目が点に。ただ、ヴィサージ(Visage)やデペッシュ・モード(Depeche Mode)の反復するリズムに乗りながら繰り返し見ていると、「バルマン」はこれで良いのだ!と思えてくるんですよね。フィナーレは、デヴィッド・ボウイ(David Bowie)の「Life on Mars?」をバックに、オリヴィエと約100人のモデルがウオーキング。1日を締めくくるのにぴったりなエンターテインメントで、疲れも吹っ飛びました!