ファッション
連載 コレクション日記

現地ショーを行った「ヨウジヤマモト」に仕掛け満載の「イッセイ ミヤケ」、日本勢が活躍したパリ5日目 デジコレでドタバタ対談

 2021年春夏のコレクションサーキットのラストとなるパリ・ファッション・ウイーク(以下、パリコレ)も5日目となりました。パリからはベルリン在住のヨーロッパ通信員が現地取材の様子をお届けしますが、オンラインでも日本の記者たちが対談レビューという形で、“できるだけリアルタイムに近いペース”で取材を進めていきます。今回はメンズ、ウィメンズともにこれまでも各都市のコレクションを取材してきた「WWD JAPAN.com」の村上要編集長とパリコレ取材3度目の丸山瑠璃ソーシャルエディターがリポートします。さらに、助っ人として各都市のメンズコレクションを取材してきた「WWDジャパン」の大塚千践デスクを呼び、佳境を迎えたパリ5日目を乗り切ります。

ボディコンドレスは健在な「エマニュエル ウンガロ」

村上:今日のトップバッターは、「エマニュエル ウンガロ(EMANUEL UNGARO)」ですね。最近は見かける機会が減って、創業デザイナーも昨年亡くなったけれど、バイアスカットのシルクやジャージーを使い、肩口のラッフルや深いスリットで彩ったボディコンシャスなドレスは健在でした。ムービーは、最新コレクションを着た女性を庭園で撮影という超オーソドックスなものでしたが、水玉模様のドレスを見て嬉しくなっちゃったのは、40代オーバーだからでしょうか(笑)?

丸山:「エマニュエル ウンガロ」は水玉模様がアイコンの一つなんですね。映像もそういったブランドヒストリーがわかるようなものにしたらよかったのに、と思ってしまいました。服をクロースアップで見たり質感をチェックしたい!というバイヤーやECサイトに掲載するのにはよさそうですが、他のブランドがコロナ禍を経て自らを振り返り、ブランドのヘリテージを打ち出すような映像やコレクションを見せている中で「エマニュエル ウンガロ」は素晴らしい創業者がいるにもかかわらずそうしたストーリーを読み取ることができなかったのは残念でした。パリコレの公式スケジュールに参加するのは数年ぶりとなるのですが、主催のフランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode、サンディカ)がパリコレを盛り上げるのに参加を頼みこんだのでしょうか。

「レオナール」

村上:お次の「レオナール(LEONARD)」は“Silky Wave”と題して、文字通りシルクドレスを波が打ち付ける浜辺に持ち込んでのシューティング。ムービーの後半に登場したマキシドレスやカフタンドレスの印象が強いブランドのせいか、前半のフーディや開襟タイプのシャツドレスが新しく見えました。極彩色のトロピカルモチーフも、若々しくてスキ。

丸山:ウェットスーツにビキニをはじめ、水着の上に着るキモノガウンやスエット、夕焼けのようなグラデーションのプリーツドレスなど、ビーチへのバケーションにぴったりなアイテムが多く登場しましたね。得意とする草花のプリントにヤシの木やハイビスカスが加わっていました。映像はビーチにやってきた女友達二人の一日をロードトリップ風に描いたようでしたが、2人がビーチで出会ったやたらサーフィンが上手な女の子は本当にプロのサーファーなんだとか。オケージョンがしっかりと描けたからか、何だかランウエイで見るよりも生き生きとしているように見えました。

「ロエベ」の等身大ポスターでショーを体感

村上:「ロエベ(LOEWE)」からはコレクション発表の直前、巨大な壁紙の上に貼り付ける、等身大のポスターが届いたんですよね。メッチャ重いの(笑)。ちなみにこの等身大のコレクションルックは今、渋谷パルコのショップのウインドーを彩っているんだよね?

丸山:そうなんです。あと、銀座の旗艦店のカサ ロエベ 東京、表参道店のウインドーにも貼られているそうです。ルックを等身大で体感できますし、一緒に写真を撮ったりしても楽しそう。コレクションのテーマは“Show-on-the-wall”で、ショーをリアルで見ることができない今、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)はどうしたら観客がショーに参加できるか、コレクションと関わりたくなる状況とは?と考えてこの等身大のポスターというアイデアに至ったそうです。ポスター同様特大サイズのキットにはハケやのりがついていて、今すぐ壁に貼り付けることができます。

村上:コレクションは、こんな時だからこそ「ファッションの芸術性を」と考えたジョナサンによる、ボリュームを誇張したドレスの目白押し。マリー・アントワネット(Marie-Antoinette)の世界のようでもあり、「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のファッションショーのようでもあり、という印象でした。パフスリーブも、フィット・アンド・フレアのドレスのスカートも巨大。そこに細かなラッフルや、メンズでも登場したレザーのバスケット編みなどのクラフツマンシップも加わり、アートピースのようでもありました。「実際、着れるか?」と問われるとなかなか難しいところも多いけれど、多くのブランドがストレスフリーを意識してシンプルを目指す中、シンプルを目指す中、こういうアプローチがあっても良いよね。「洋服どころじゃない」という人が、「洋服って、やっぱり素敵」と思ってくれたら、ジョナサン、とっても喜びそうです(笑)。

丸山:まさに再び夢を見させてくれるようなコレクションでした。ジョナサンは「たまには現実から洋服の世界に逃避するのも悪くない」とコレクション説明動画で話してましたね。服は職人の技術をとことんドリーミーに昇華したドレスが多かったですが、今季のバッグはジョナサンが「ブランドのクラシックなバッグを完成形により近づけた」と語っているだけあり、とても洗練されていました。長く使えるいいものが欲しいという需要がある今、売れそうだと感じました。特に“フラメンコ”バッグは無駄なものが一切なくて彫刻のような美しさがあり、見入ってしまいました。キットの中に入っていた巨大な壁紙は、アーティストのアンシア・ハミルトン(Anthea Hamilton)とのコラボレーションで、同じプリントのドレスもコレクションにありましたね。ジョナサンの動画と同時に、彼女のインタビュー動画を公開していましたが、2人とも仕事をするにあたり多くのリサーチを行っていて、だからこそ仕事に深みが出るのでしょうね。

コンパクトに畳める「イッセイ ミヤケ」

村上:「UNPACK THE COMPACT」と題した「イッセイ ミヤケ(ISSEY MIYAKE)」のムービーが面白かった!パッカブルで小さなバッグに収納できるジャケットとか、クルクル丸められるプリーツウエアなど、コレクションは全部「コンパクト(COMPACT)」な形に収まるんだけど、ひとたび広げて、重ねて、合わせて、なんて作業をすると、どれもが素敵なドレスやトップス、パンツに早変わり!!でしたね。

丸山:服だけじゃなくてトルソーまで小さくなったときには「そこまでする!?」と驚きました(笑)。コンパクトに畳める服を広げるとそれは「イッセイ ミヤケ」の根幹にあるアイデア“一枚の布”であることがわかります。そして最後に大きめのスーツケースサイズの箱に全ての服が収納されます。これ全部スーツケースに詰め込んだら旅先の服は全部カバーできちゃいますね。最後に箱に服を詰めた男性は、顔は見えずでしたが近藤悟史デザイナーとみました。

村上:こういう工夫は男子が大好きな気もするけれど、女性にも響くのかな?深読みかもしれないけれど、「おうち時間」が長くて、生活圏が「コンパクト」になっている今だからこそ、響くのかもしれません。遠くない将来、再び世界中を自由に行き来できるようになったら、それはまさに人類の「UNPACK THE COMPACT」。小さなバッグを広げると素敵に早変わりする「イッセイ」の洋服のように、僕らの未来も近いうちにまた素晴らしいものになるというメッセージを発信してくれたように感じます。それぞれの洋服の動きを収めたムービーも楽しかった。プリーツの入ったプルオーバーはクリオネみたいに見えたけれど、「あぁ、一枚の布って、ホントに命を持っているようだなぁ」と感じました。

丸山:女性でもこういうギミックが好きな人はいると思いますよ。少なくとも私は終始感嘆してました。コンパクトで旅先にも持っていけますし、さまざまなニーズにオールインワンで応えることができるのが魅力ですよね。日本で撮影・キャスティングしているから当然といえば当然なのですが、福士リナさんや新井貴子さんをはじめ、中島沙希さん、AIKAさん、HANAKAさんなど活躍中のモデルさんが多く出演していたのもうれしかったです。

iPhoneの画面風の映像がユニークな「ニナ リッチ」

村上:ルシェミー・ボッター(Rushemy Botter)とリジー・ヘレブラー(Lisi Herrebrugh)による「ニナ リッチ(NINA RICCI)」は、風になびくシルクをたっぷり使ったコレクション。ジャケットの背面、ドレスのスリットの中からシルクを垂らし、歩いたり、風を受けたりするたびにドラマチックに揺れ動く洋服は、メゾンのアーカイブにインスピレーションを得つつも、ボッターの出身地、オランダ・キュラソー島のカルチャーにも刺激を受けたものみたいですね。

丸山:映像もユニークでかわいかったですよね。iPhoneのロック画面をオープンするところからスタートし、その後カメラロールに手が伸びます。検索したのは、キュラソー島のウィレムスタット(Willemstad)。キュラソー島はカリブ海に位置する美しい街並みの島なのですが、カメラロールでこのカラフルな色彩の街並みやカリブ海の海の色を振り返っていくとともに、画面が分割されてそれをレファレンスにしたルックが登場します。さらに着想源にした「ニナ リッチ」のアーカイブと2人が蘇らせたルックも対照に表示するのも、イメージソースがすごく分かりやすかった。またボッターがアントワープの王立芸術アカデミー出身だからこそ、アントワープが検索候補に出てきたり、「ニナ リッチ」の本店の住所“39 Avenue Montagne”が出てきたりと細かい仕掛けがたくさんで2秒に1回くらいのペースでスクショしてしまいました。

村上:とってもエレガントなのに、打ち込み音でガンガン進行しちゃう映像とのミスマッチがユニークでした。普通なら、クラシックとか流したくなっちゃうのにテクノ。さすが、新世代のデザイナーデュオです。

日本から唯一現地でショーを行った「ヨウジヤマモト」

丸山:「ヨウジヤマモト(YOHJI YAMAMOTO)」は日本ブランドで唯一、現地でリアルなショーを開催しました。この状況下でもショーを変わらず届ける姿勢が山本耀司デザイナーらしくてとても頼もしく、今回のパリコレでも特に楽しみにしていました。しかも今回はいつもはなかなか入ることができないバックステージにヨーロッパ通信員の藪野さんが入れることになり、耀司さんのインタビューができるとのことで、さらにわくわくして日本時間の夜2時まで待機。30分くらいスタートが遅れていますが目はギンギンです。が、流石にこの時間まで要さんは起きていらっしゃらないようですね……。

大塚:お疲れー!要さんが不在らしいから、メンズ担当の大塚が代打としてやって参りました(笑)。

丸山:大塚さん!こんばんは!ありがとうございます。大塚さんは「ヨウジヤマモト」のメンズのショーをいつも取材していらっしゃいますが、ウィメンズはどう思いましたか?

大塚:メンズのショーはここ数年続けて見させてもらっているけど、ウィメンズはルック写真で見ていたから新鮮でうれしい!写真で見ると伝わりきらない素材の動き方が分かるし、今回のショーでは「ヨウジヤマモト」の強みの一つはそこにあるのだなと改めて思ったよ。モチーフは控えめで、ミニマルなカラーリングや潔いシェイプのベースに凛とした美しさがあるコレクションだったね。ここは世界観が強烈だから街でもワンブランドコーデが最強という印象だったけど、今シーズンはいい意味での余白があるからほかとミックスしても面白そうだなと思ったよ。

丸山:そうですね。最近はアーティストとのコラボなどで色鮮やかなアイテムが登場するコレクションもあったのですが、今季はフォルムを大事にしたミニマルなコレクションでした。最後に出てきたワイヤーで形作ったクリノリンをベースにしたドレスは、凛とした強さもありながら脆さや儚さもあり、美しかったです。最後は百合の花びらのようなフォルムのオールホワイトのルック群がショーを締めくくりました。フィナーレに登場した耀司さんの背中には、“HEART OF GLASS(ガラスのハート)”とありました。ブロンディ(Blondie)を代表する曲でもありますよね。ただ、自分はショーの音楽を聴いて終始ドキドキしていました。というのも、「ヨウジヤマモト」のショーの音楽は耀司さんの歌声であることが多いのですが、今回は“This is the very last to sit this chair(この椅子に座るのはこれが本当に最後)”という歌詞が登場したり、“Sayonara”というフレーズを繰り返し歌うので、「まさかこの後引退発表したらどうしよう」「だからショー後のバックステージ取材を受けてくれた?」「しかも耀司さんは今日が誕生日!これは偶然?」などあらゆる考えが頭をぐるぐる回ります。しかし、藪野さんによるバックステージ取材で完全に私の早とちりだったことが判明。ショーの曲は男女の別れを歌ったそうです。早とちりで本当によかった!

大塚:それは心中穏やかじゃなかったですね(笑)。というか耀司さん誕生日だったんですね!おめでとうございます。メンズのショーはいつもギュウギュウの会場でそのライブ感が楽しいのだけど、こうやってベッドの上で見る「ヨウジヤマモト」も新しい発見があって面白かったわ。と、いうことで代打の役割は果たしたので寝ます(笑)。残りも頑張れー。

丸山:代打ありがとうございました!おやすみなさい。引き続き頑張ります〜!

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