米国屈指のサステナビリティ先進企業のティンバーランド(TIMBERLAND)は、2005年からCO2排出量の計測をはじめ、15年までに自社および自社運営施設での排出量の絶対値を06年と比較して半分にするという目標を設定し、事業拡大の中でも達成した。独自開発したCO2計測ツールは、他社も活用できるようにとサステナブル・アパレル連合(Sustainable Apparel Coalition)とアウトドア産業協会(Outdoor Industry Association)に無償で提供している。CO2排出量削減をリードする同社のザック・アンジェリーニ(Zack Angelini)環境スチュワードシップ マネジャーにCO2排出量削減のために必要なことを聞く。
WWD:ティンバーランドは「環境負荷を測る」ことを自社および運営施設における温室効果ガスの測定から始めているが、なぜCO2からだったのか。
ザック・アンジェリーニ環境スチュワードシップ マネジャー(以下、アンジェリーニ):地球温暖化は、私たちの社会が現在直面している最も差し迫った問題の一つだからだ。アパレルおよびフットウエアブランドである「ティンバーランド」は、そうした問題が発生する責任の一端を負っているので、解決するために尽力する責任も負っている。
最初に温室効果ガス(および廃棄物など)の排出量削減に取り組んだのには理由がある。バリューチェーンの取引先企業にそうした排出量の削減について責任ある行動を求める前に、まずティンバーランドがそれを実行しているということを、自社や消費者に、そしてベンダーやサプライヤーなどの取引先に示したかったからだ。
当社は温室効果ガスの排出量を2005年から計測しており、自社が所有もしくは運営している全ての施設と、従業員の出張などによる排出量を15年までに06年の50%とする目標を設定した。これは絶対値での目標だったので、その後の事業の成長やそれに伴う人員の増加や施設の拡大は計算に入れていなかったが、それにもかかわらずこの目標を達成できて大変うれしく思っている。結果として、事業を大きく成長させながらも温室効果ガスの排出量を50%以上削減することができた。
WWD:具体的な運用方法は?
アンジェリーニ:08年に、個別の商品が環境に与える影響を測定する「グリーンインデックス」という自社開発の指標を発表した。10年までは当社でのみ使用していたが、環境への影響を測定するツールであるヒグ・インデックス・プロダクト・モジュール(Higg Index Product Module)で使用できるようにするため、サステナブル・アパレル連合とアウトドア産業協会に無償で提供した。
個別の商品が環境に与える影響を測定する方法が開発されたことで、商品開発部門やデザイナーは大きな学びの機会を得ることができた。素材や製造方法の違いによって、地球環境にどのようないい影響が、もしくは悪い影響があるのかが分かるようになったからだ。測定ツールがあることで商品カテゴリー別に目標値を設定できるようになった。
WWD:苦労した点は?
アンジェリーニ:同じ商品であっても、複数の仕入先や生産国から素材を調達していたり、異なる場所で最終仕上げをしていたりと、世界にまたがる複雑なサプライチェーンであることから、同一の商品に対して複数のシナリオを組め、それらを考慮してスコアを出せるようにする必要があった。また当社だけで取り組んでも、ベンダーやサプライヤーにとっては当社からの発注は彼らが請け負う全体量の数パーセントにしか過ぎないので、スコアを改善しようというインセンティブにならないことが分かった。
こうした高いレベルでの透明性は現在の消費者の関心を引いたし、「ティンバーランド」の顧客はそうした情報に基づいて商品を選ぶことが可能となったが、業界全体として進化するには、ほかのブランドにも同様の取り組みをしてもらう必要があることに気づいた。
アウトドア産業協会とサステナブル・アパレル連合に「グリーンインデックス」を無償で提供したのはこうした理由からだ。「グリーンインデックス」は現在、デザイナーや商品開発者がよりサステナブルな素材や製造方法を選ぶためのツールとして業界全体で使われているヒグ・プロダクト・モジュールに、その他のブランド測定ツールと共に組み込まれている。
WWD:気候変動対策、すなわちCO2排出量の削減は今すぐ取り組みたいテーマだが、CO2削減に取り組んできたティンバーランドのノウハウのシェアをしてほしい。CO2削減のために企業がまず取り組むべきことは何か?
アンジェリーニ:業界として、私たちは互いから学び、協力しあって、地球温暖化の解決に取り組んでいく必要がある。ブランドの温室効果ガス排出量の削減に関する目標値を設定するに当たっては、企業に対して科学的な知見と整合した削減目標を設定するよう求める、サイエンスベース・ターゲット・イニシアチブ(Science-Based Targets Initiative以下、SBTI)と提携することを推奨したい。目標値を設定する過程では、地球温暖化を防ぐために自社の排出量をどの程度削減する必要があるのかに加えて、事業のどの部分で努力すれば最も効果的かなども明らかになるからだ。19年には、ティンバーランドの親会社であるVFコーポレーション(VF CORPORATION以下、VFコープ)も科学的な根拠に基づいた目標値を設定している。
当社もこの過程を経ることで、温暖化への影響を最大限減らすにはどこに注力すればいいのかを理解することができた。当社の場合、排出量の大半はサプライチェーンにおける生産段階、特に原材料の選択に関係していた。アパレルやフットウエアブランドの多くも同様だと思われたので、素材の持続可能な調達と製造の循環性に注力することにした。その後、「ティンバーランド」ではVFコープが設定したSBTをさらに推し進め、CO2排出量を削減するだけでなく、排出量よりも吸収量が上回る“クライメート・ポジティブ”となるように目標を設定している。
WWD:環境負荷の計測ツール、ヒグ・インデックスを用いているか?
アンジェリーニ:ヒグ・インデックスは、企業の事業、サプライヤー、商品が環境に与える影響を測定するさまざまなツールで構成されている。分野別にモジュール(ツール)があって、それぞれの影響を測定するという仕組みだ。当社では毎年、ヒグ・ブランド・アンド・リテーラー・モジュール(Higg Brand and Retailer Module)を完了しているが、これはブランドおよび小売業として環境負荷の削減に関してどれぐらい努力したか、また消費者にもそうするように啓発したかを評価する指標となっている。
ほかにも、当社では生産工場の環境保護に対する取り組みを評価するヒグ・ファシリティー・モジュール(Higg Facilities Module)を導入している。また「ティンバーランド」は環境保護に関する基準を全商品に設けているが、それを裏付けるに当たってどの素材を使用するべきかを比較するために、ヒグ・プロダクト・モジュール(Higg Product Module)や、マテリアル・サステナビリティ・インデックス(Materials Sustainability Index)を使用している。
WWD:環境負荷に関してCO2排出量はもちろん、水使用量や土地利用、化学物質の削減、廃棄量などさまざまな指標があるが、注力して取り組んでいることは?
アンジェリーニ:カーボン・アカウンティング(炭素会計。ある事業活動が、どれだけ温室効果ガスの排出あるいは削減に寄与したかを算定し集計する取り組み)や、自然なCO2吸収源(再生可能な農業など)は、まだ発展途上にある分野だ。当社とその親会社であるVFコープは、再生可能な農業における吸収量を測定するガイドラインを策定する、複数の業界にまたがった取り組みに積極的に携わっている。これによって、「ティンバーランド」やその他のブランドはクライメート・ポジティブの実現に向けて(排出量や吸収量を)より正しく測定し、進捗を報告できるようになるだろう。
また当社は、生物の多様性や水などの分野においても、測定基準や戦略をさらに開発する機会を模索している。気候温暖化だけではなく、環境に影響を与えるほかの分野の測定手続きなどに関する業界グループ、サイエンスベース・ターゲット・ネットワーク(Science-Based Targets Network)にも携わっている。
循環性に関しては、業界のコンサルタントと協業し、さまざまな循環型ソリューションの環境に対する影響を測定するプロトコルを開発したり、パイロット版を試したりしている。現在は循環型および再生型の両方における社内的なマイルストーンを設定している段階で、ほかのサステナビリティに関する取り組みと同じく定期的に報告していく予定だ。