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マルチな才能を発揮する人気ラッパー、マシン・ガン・ケリー「友人と呼べる存在は全てヘッドホンの中にいた」

 192cmの高身長に端正な顔立ち、独自のスタイルを持ち、欧米の若者の間で人気を集めるラッパーのマシン・ガン・ケリー(Machine Gun Kelly以下、MGK)。この名は彼の早口なラップ・スタイルからファンが名付けたと言われている。ヒップホップ好きには名の知れた存在であるが、その名をメインストリームにまで広げた一曲がある。2016年10月にリリースした、カミラ・カベロ(Camila Cabello)をフィーチャーしたシングル「Bad Things」だ。同曲は、全米シングル・チャート最高4位という自身最大のヒットになったほか、ビルボードミュージックアワードで、グラミー賞 最優秀ラップ/サング・コラボレーション賞にノミネートされた。

 現在30歳の彼は、14年の映画「Beyond The Lights」や「ネットフリックス(NETFLIX)」で放送されたモトリー・クルー(Motley Crue)の伝記映画「ザ・ダート:モトリー・クルー自伝」でトミー・リー役を演じるなど、俳優としても活躍するマルチな才能を開花させている。また18年にはエミネム(Eminem)やG・イージーらとビーフ(楽曲を通してディスり合うこと)を繰り広げるなど、超攻撃的なMCとしての一面も持つ。

 昨年には「サマーソニック 2019(SUMMER SONIC 2019)」に出演したほか、今年8月30日に行われた世界最大級の音楽の祭典「2020 MTVビデオ・ミュージック・アワード(2020 MTV VIDEO MUSIC AWARDS以下、2020 VMA)」では「最優秀オルタナティブ・ビデオ賞(BEST ALTERNATIVE)」を受賞した。また9月25日に発売した最新アルバム「Tickets To My Downfall」(国内盤は11月13日発売)では自身初の全米アルバム・チャート1位を獲得するなど、輝かしい実績を持つMGK。彼に自身のターニングポイントや最新アルバムへの思い、ファッション観、「日本の観客は世界一だ」と話す理由について聞いた。

WWD:音楽にハマったきっかけは?

マシン・ガン・ケリー(以下、MGK):俺は子どもの頃、狭量な人間で「ルーザー(負け犬)」だった。だから友人と呼べる存在は全てヘッドホンの中にいた。

WWD:当時聞いていた音楽は?

MGK:ラッパーのDMX、バンドのリンキン・パーク(LINKIN PARK)、ブリンク-182(BLINK-182)、カニエ・ウェスト(Kanye West)のファースト・アルバム「ザ・カレッジ・ドロップアウト(THE COLLEGE DROPOUT)」を聞いていた。当時流行っていたメタル・バンドのリンプ・ビズキット(LIMP BIZKIT)も聞いていたよ。

WWD:ミュージシャンになろうと思ったのはなぜ?

MGK:普段からいつも叫んで世間に対する不満を爆発させていた。だったらマイクに向かって叫んでやろうと思ったのがきっかけだよ。

WWD:最初からソロで活動しようと決めていたのか。バンドをやろうとは思わなかった?

MGK:ラッパーになる前は、3人編成のパンク・バンドをやっていた。大勢の前で演奏したのは、誰かの家のガレージで友達が5人見に来てくれたときだけ。今でも、自分がフロントマンじゃなきゃ駄目だというわけではないんだ。たまたまそうなったというだけで、仲間と一緒にやっているという意識は常にある。だからマシン・ガン・ケリーという名前で活動しているけど、使う言葉は「俺たち」と決めている。

WWD:これまで数々の賞を受賞し、早くからその才能を認められてきたが、自身のターニングポイントとなったことは?

MGK:今年の「2020 VMA」で、「最優秀オルタナティブ・ビデオ賞」を受賞した時だと思う。アルバム5作目でようやく取れたからね。実際にグラミー賞や「VMA」の賞を取る夢を途中で諦めてしまう人も多い。俺もこれまで一度もノミネートされたことがなかった。それが活動を始めてから、これだけの日数を経てようやく受賞できて、新人にまた戻ったような気持ちになったよ。もともと、ファースト・アルバム「Lace Up」で成し遂げたかったことだったから。本当に嬉しかったよ。希望を捨てないことは必ず大きな力になる。

WWD:世界中で人気を博した、カミラ・カベロとの「Bad Things」は今振り返るとどうだった?

MGK:あれは俺が型にとらわれず、意外性のあることができることを証明できたよ。当時はまだハードコア・ラッパーとして認識されていたけれど、メインストリームのリスナーにも受け入れられる曲ができるということをね。ヒップホップのアルバム・チャートだけではなくて、ポップ・シングルのチャートでも1位を取れたことは、かなり常識破りだったと思うし、やって良かったと思う。

WWD:「いい意味で人の期待を裏切る」という姿勢は常にあるの?

MGK:もちろん。だってそうしていなかったら、今こうして君の取材に答えていることもなかっただろう。とっくに飽きられて、8年前のファースト・アルバムで終わっていた。あるいはアンテナに引っ掛からなくて、存在すら知ってもらえなかったかもしれない。実際に後から知ったというリスナーは多い。いつだって周りで起きていることに目を向けて、刺激を受けていかなければ、つまらないアーティストになるだけ。周りに無関心でつまらないほど最悪なことはない。アーティストは常に進化して、リスナーの思考や感情を刺激し続けなければいけないんだ。

「運命に委ねなかった時、それは裏目に出た」

WWD:最新アルバム「Tickets To My Downfall」ではどんなことを表現した?

MGK:運命の力に任せて、なすがままを表現したよ。というのも、「こういう作品を作るぞ」という明確なものがない状態でスタジオに入った。エグゼクティブ・プロデューサーに起用したトラヴィス・バーカー(Travis Barker)とは10年来の付き合いになるけど、今回初めて一緒に作品を作ることになった。そして口を開けて最初に出てきたのが「Bloody Valentine」だった。はっきりと手応えを感じたんだ。書き上げるのに1時間くらいしか掛からなかったよ。

WWD:その「Bloody Valentine」のMVには女優のミーガン・フォックスを迎え、現在ユーチューブで約4100万回再生を記録している。彼女を起用した背景は?

MGK:誰がその場を支配しているかという立場を逆転させるという発想に興味がある。実際にスターやヒーローといったアイコニックな存在が多大な影響力を持っている世の中だけど、彼らは金でできた彫刻のようなもの。だけど本人たちは大抵の場合、普通の人と変わらない。彼らを拝み倒し、崇拝する理由なんてないんだ。だからMVでは、朝起きたら、あるスターのファンがそのスターを支配していて、代わりに贅沢な生活を満喫しているという設定にしたんだ。そして皮肉を込めて、そのファンにミーガン・フォックスを起用した。笑えるはずだと思ってね(笑)。

WWD:最初から「彼女しかいない」と思ったの?

MGK:ああ、そうだ。このアルバムに関しては、全てを運命に導かれるがままに直感で決めた。皮肉なことに唯一直感で決めなかったのが、アルバム・ジャケットだった。そしたら見事に裏目に出たよ。ジャケットを手掛けたアーティストが、別の人の写真のイメージをパクったような形になってしまい、全てやり直さなきゃいけなくなったんだ(笑)。そのお陰で、一瞬だけ公開された元のジャケットが限定数しかないレア物になったわけ。それで一から新しいジャケットを作り直したけど、凄くいいものができたと思っているよ。

WWD:プロデューサーに起用したバーカーと知り合ったきっかけは?

MGK:19歳くらいの時に地元の米・オハイオ州のクリーブランドのコンサートで出会った。その後にLAで、彼らが10周年コンサートをしている時にゲスト・ボーカルとして参加させてもらったり、いろいろなイベントに呼んでもらったりした。もともと大ファンだったからね。俺も自分の音楽をやっていたけれど、彼とはとにかくお互いに馬が合ったんだ。だからようやくこうやって一緒に作品を作ることができて本当に嬉しい。

WWD:彼はどんな存在?

MGK:信頼できる相談相手なのは間違いない。レッド・ホット・チリ・ペッパーズ(Red Hot Chili Peppers)がアルバム「Blood Sugar Sex Magic」を作った時のリック・ルービン(Rick Rubin)がそうだったようにね。自分にとっては兄貴的存在だよ。

WWD:今年6月には二人で抗議運動「ブラック・ライブズ・マター」に参加していましたね。またその時の映像をMVに使用したレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンの「Killing In The Name」のカバー曲も公開した。

MGK:メインストリームのメディアは、世の中の大衆が物事をどう見て・考えるかを左右する部分で大きな責任がある。だから間違ったことに対する抗議の姿勢を、バーカーや俺が先頭に経ち、メディアを通して模範を示すことが戦術として大事だと思ったんだ。火花を起こしたかった。そして世界中のどこにいようと、どんな問題に対してだろうと、みんな闘うべきなんだ。誰もが知っているような人たちは、何もせず高みの見物をしているわけではなく、こうして闘っている。声を上げないことが一番の罪だから。

WWD:なぜあの曲を選んだ?

MGK:俺が伝えたい事柄に当てはまると思った。あの曲を書いたザック・デ・ラ・ロッチャ(Zack de la Rocha)にとっては、ある特定の事象について書いた曲かもしれないけれど、曲のメッセージは俺たちが今闘っていることにも当てはまるし、今後出てくるであろう幾つもの闘いにもピッタリだと思う。人を高揚させるのには最高の曲だよ。

WWD:ロックダウン中に改めて気付かされたことはあった?

MGK:もし今回のロックダウンで強制的に一旦立ち止まらず、ペースを落とさなかったら、そのまま破滅の道にまっしぐらだったと思う。今回のアルバムのテーマがまさにそれで、俺はこれまで、とにかく生き急いでいた。大勢の人がきっと俺が転落していく様子を見て楽しんでいたと思う。「あいつこのまま行ったらヤバいんじゃないか。破滅するぞ。見ている分には面白い」とね。その時は俺も人生で一番多くの友達に囲まれていると感じていたのに、今思えば人生最悪の時でもあった。だから、こうして強制的に腰を落ち着かせて、自分の心と向き合い、問題と対峙することができたのは、不幸中の幸いだったと思う。ロックダウン前よりも、人間として成長したと感じるよ。

「ヘアスタイルで共感したのは日本のアニメの世界」

WWD:好きなスタイル・ブランドはある?

MGK:「リック・オウエンス(RICK OWENS以下、リック)」と「ヴィヴィアン・ウエストウッド(VIVIENNE WESTWOOD以下、ヴィヴィアン)」が好き。朝起きて、まず手に取るのが「リック」のTシャツやタンクトップ、パンツだね。俺の長身で細身の体型によく合うんだよ。「ヴィヴィアン」のパンツもよく穿くんだけど、昨日すれ違った男に「そのパンツ、超ファンキー・モンキーだな!」と言われたよ(笑)。俺は街を歩いていて、そういう反応がもらえる服を着たいと思っている。スニーカーは「ヴァンズ(VANS)」「コンバース(CONVERSE)」「ドクターマーチン(DR.MARTENS)」をはくよ。

WWD:フォーマルに決めたいときは?

MGK:「ディオール(DIOR)」と「サン・ローラン(SAINT LAURENT)」を良く着るね。あと「ジョン バルベイトス(JOHN VARVATOS)」でモデルの仕事をしたことがあるんだけど、同ブランドのようなロックなテイストの服も好きだよ。

WWD:ブランドとのコラボやキャンペーンビジュアルのモデルに興味はある?

MGK:モデルに興味はあるよ。自分が共感できるブランドとは是非やってみたい。あとは懐かしいブランドのリバイバルキャンペーンとかね。「十年くらい名前を聞かなかったブランドだけど、MGKのお陰でまた好きになった」と言われるようになりたい。

WWD:自身が参考にしているファッションアイコンはいるか?

MGK:「カウボーイビバップ」のスパイク・スピーゲル(即答)。

WWD:アニメの(笑)?

MGK:うん。

WWD:自身のSNSでは、日本の人気アニメ「ドラゴンボールZ」に登場する超サイヤ人化した“孫悟飯”のモノマネをしていたね(笑)。

MGK:孫悟飯は大好きだ!超サイヤ人の髪型をどうしてもやってみたかったんだ。というのも子どもの頃に日本のアニメを見て育ってきたから。アニメに出てくるキャラクターの髪型は全部好きだった。俺はいつも、ブロンドヘアで前髪を長く前に垂らした髪型をしていたんだ。他の連中はみんな必ずおでこ全開で、髪の毛を後ろに流していたよ。唯一共感できたのが日本のアニメの世界で、「俺と同じような髪型をしている奴らがいる」と初めて思えた。

WWD:どんなアニメを見て育った?

MGK:「ドラゴンボールZ」と「カウボーイビバップ」は鬼のように見た。あと、俺のお気に入りの映画の一つが「もののけ姫」だ。

WWD:ネイルにも自身のこだわりを感じるが。

MGK:アクセサリーが好きなんだ。俺は身に着けるものだけではなくて、ネイルもアクセサリーだと思っている。ギターの弦を抑える左手しかやらないんだけど、フェスで演奏していてカメラが手元のアップに寄った時に、「あのリングかっこいい」「あのネイル活かしてる」とファンが見て楽しめる要素が増える。「なんであのデザインにしているんだろう?」と思わせるのがかっこいいと思う。

WWD:2019年のサマソニのライブはどうだった?また日本の印象は?

MGK:大阪で一晩中歩き回ったのを覚えている。寿司屋の大将が俺たちのことを気に入らなくて追い出されたのもね(笑)。あとは東京のライブの観客が、スタートから熱く盛り上がってくれたのを覚えている。それは予想していなかったから。俺を目当てで来ている人は日本でまだ少ない中、その場にいた大勢の観客は「これを試しに見て、盛り上がるぞ」と、俺たちを受け入れてくれた。ライブが終わった後に、日本の観客は世界一だと思った。世界中を回ったけど、またすぐに戻りライブをやりたい。本当にまた早く行きたいよ。特に今作のアルバムは日本のロック・ファンにも受けると思うんだよね。

WWD:今日はどうもありがとう。また日本に来てくれるのを楽しみにしているよ!

MGK:俺も楽しみだよ。ありがとう!

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