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ナイキの次世代物流拠点にも導入 コロナ禍で進化を続ける”ロボット倉庫”

 コロナ禍でデジタルシフトの波が、物流にも押し寄せている。その変化を先導するのが、アパレルECのフルフィルメント事業を手がけるアッカ・インターナショナル(以下、アッカ)だ。同社は独自開発の在庫管理システム(WMS)や、中国発の企業「ギークプラス(GEEK +)」が開発・提供するAI 物流ロボットなどを駆使し、倉庫の自動化・デジタル化を進めている。アッカはいかにして物流を作り替え、これからどこに向かうのか。同社がナイキ(NIKE)と共に作り上げた先端事例となる物流拠点「ザ・ダンク(THE DUNK)」の全貌と、キーマン2人の話から物流の未来を探る。

ナイキと協業して
作り上げた次世代の物流拠点

 2019年6月に稼働を開始したナイキの世界初のロボットオペレーションセンター「ザ・ダンク」は千葉県・市川市に位置し、国内のナイキ直営店と、ECサイト「NIKE.COM」用の商品を取り扱う。バスケットボールのゲームのあり方を変えた “ダンクシュート”に由来する施設名は、物流のあり方を変えるという意味も込められている。そんな思いを実現するべく、最先端の設備、技術が搭載された同センターは、次世代 の“ロボット倉庫”とも言える。センターには、中国の最大手 EC企業、アリババグループも採用する「ギークプラス」のAI 物流ロボットを200台以上導入。アッカの在庫管理システム(WMS)の指示のもと、ロボットが人のいるところまで商品棚を運び、省人化を実現している、さらには「ギークプラス」が今年、新たに立ち上げたコンサルティングチームとデータをもとに協議しつつ、日々施設の生産性向上のためのアップデートを重ねている。

 また、センター内の設備はアンカーを打つ等全て固定されておらず、柔軟性を担保しているのも特徴だ。WMSをはじめとするシステムも全てアッカによる自社構築のため、スピーディな改修が可能となっている。これらにより、ナイキのビジネスの形態や成長、一時的な物量の増減などへフレキシブルに対応できるようにしている。コロナ禍でビジネスの予測が立てづらくなった現在において、このフレキシビリティーがさらに重要性を増していることは想像に難くない。 ロボットの投入や、フレキシビリティーを重視したシステムと設備の設置が、「ザ・ダンク」の自動化・デジタル化を可能にした。通常300人は必要な施設の規模感でありながら、 70人ほどの人手で済むといった省人化に成功。コロナ禍で ECへの注文が爆発的に増えたにも関わらず、コロナ前の配送リードタイムを維持し続けることかが可能となっている。この施設がなければ、ナイキのビジネスは安定的な成長を保つことができなかったとも言える。“ロボット倉庫”は今後、日本を皮切りに世界でも稼働する見込みだ。

アッカが見据える
“ロボット倉庫”の過去・現在・未来

 アッカが「ギークプラス」のAI物流ロボットを導入したのが3年前。保守・メンテナンスの対応やアリババグループをはじめとする中国での導入実績などの観点から協業を開始した。以後、アッカは自社構築のシステムと 「ギークプラス」のロボットを連携させ、倉庫での安定的な出荷を実現していく。

 しかし「コロナで状況は一変した」とアッカの嶋田由香里取締役。「ECの需要が高まり、物量が圧倒的に増えた。しかし、例えば物量が10倍 になったからと言って、人手を10倍にすればいいいかというとそうでもない。人を収容する場所やオペレーションなどの問題があり、人員を増やすほど、生産性は低減していく。そんな中で、ロボットを最大限活用し、 出荷のキャパシティーを増やすことが必要になっている」と説明する。

 さらに3月には、「ギークプラス」が新事業としてコンサル事業を設立。企業のニーズのもと、ロボットの進化を推進している。その進化に拍車をかけているのがアッカだ。ナイキの「ザ・ダンク」はその集大成とも言える。「当社の3年間の倉庫の自動化の経験や『ギークプラス』のコンサルを通じて、在庫管理システム (WMS)からロボットへの最適なオーダーの仕方などを企業に合わせてカスタマイズできる。また、システムが自社構築であるため、企業のビジネス状況やニーズのもと、システムをフレキシブルかつスピーディに改善するなど、包括的なソリューションの提供が可能だ」と語る。

 今後については「フルフィルメントのクラウド化を進めていきたい。現状、多くの企業が倉庫を借りても、ビジネスが成長する度により大きな倉庫を借りたり、人員を手配したりしている。さまざまな倉庫や物流の設備、システムをクラウド上で管理できるようにすることで、いつでも、どの倉庫でも柔軟に物流・フ ルフィルメントのサービスの提供が可能となるはずだ」。

物流は”人がロボットを
使いこなす”時代へ

 中国発の「ギークプラス」は3年前に日本に上陸して以降、日本におけるAI物流ロボットのパイオニアとして、市場をけん引してきた。そんな同社は、これまでの物流ロボットの変遷をどのように見ているのか。「ギークプラス」 の小山翔プロジェクトマネージャーは「ロボットの導入が本格化した2017〜18年の当時は、アフターサービスの作り込みなどがニーズに中心だった。その後安定的な運用や、人とロボットを切り離して安全性を保つといったニーズが浮上した。コロナ禍ではさらに進み、 いかにロボットをカスタマイズして出荷のパワーを上げられるかといった要望が増えている」と振り返る。

 そのような導入企業のニーズの変化に対応すべく、同社は3月にコンサルティングチームを新事業として設立した。「解析してみると、導入企業の商品特性に応じたロボットのロジックの組み方が存在することが分かった。企業の需要に合わせてロボットをカスタマイズすることで、単にロボットを導入するのではなく、”人がロボットを使いこなす”レベルに到達できると考え、私を含め、戦略コンサル出身者やデータサイエンティストを入れてチームを立ち上げた」と説明する。

 コンサル事業を立ち上げ、新たなフェーズに入った「ギークプラス」。同社は今後、何を目指すのか。「大きく分けると2軸ある。1つは製品のラインアップの拡充。コロナ下でBtoBからBtoCの側面が強くなった物流業界では、安さと速さへのトレードオフが起きており、企業の要望のレベルも上がっている。われわれはそれらのニーズに合わせたソリューションを提供していかなければならない。もう一つが、コンサル事業をはじめとするサービスの作り込みだ。ロボットのシェアリングサービスなども検討しており、来年にかけていくつか新サービスを仕込んでいる。この2軸を通じて、物流界の新しいスタンダードを築いていきたい」。

PHOTO:SHUNICHI ODA

問い合わせ先
アッカ・インターナショナル
03-6452-6714