ファッション&ビューティ業界のニュースを届ける「WWDJAPAN」の日刊電子版

EDITOR'S LETTER

言うは易く行うは難し

 
 ヴァージル・アブローがファッション業界を目指す若者向けのノウハウを集めた無償の支援サイト、“フリーゲーム”を開設しました。「黒人など有色人種の若者は一般に教育や就業の機会を奪われることが多く、特にアートやデザインの分野でその傾向が顕著だといわれている。こうした格差を是正するため」としています。そのサイトを覗いてみると、2分30秒ほどの動画でアブローが開設に至った経緯を説明しており、ブランドを作る上で必要だと思う12のステップを紹介しています。

 さかのぼれば、BLM運動真っただ中の6月、ヴァージルの友人の店が略奪にあった際のコメントが、人種差別に対して抗議する権利よりも、店の方が重要だと受け取られるような内容として炎上し、「店や物は代えが利くが人命は違う。黒人の命は重視されるべきであり、この瞬間においてはその他のことは重要ではない」と弁明し謝罪していました。

 そしてその翌月には「ファッション業界で活躍する黒人を増やすために、黒人学生に特化した財団を設立することが重要だ」とし、ファッションを学ぶ優秀な黒人学生に奨学金を提供するヴァージル・アブロー“ポスト・モダン”奨学金ファンドを設立しています。そして今回の"フリーゲーム”サイトの立ち上げです。迅速な行動力には驚かされます。

 以前、「その人の本質を知るには、その人の言葉ではなく、行動を見なさい」と何かの本で読んだことがあります。口ではいくらでも言うことはできますが、実際に行動を起こすには、その人の本心から生まれる強い意志が必要です。“言うは易く行うは難し”ですね。それを行動で示したヴァージルは、言わずもがなこの問題に対して自分を突き動かす強い信念があるのだと思うのです。

 

「WWDJAPAN」デスク
紀本 知恵子
 
NEWS 01

ヴァージルが若いデザイナー向けの支援サイトを開設 ノウハウを学べる動画を掲載

 「オフ-ホワイト ヴァージル アブロー(OFF-WHITE c/o VIRGIL ABLOH)」の創設者で「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のメンズ アーティスティック・ディレクターを務めるヴァージル・アブローは、ファッション業界を目指す若者向けのノウハウを集めた無償の支援サイト、“フリーゲーム(Free Game)”を開設した。

 黒人など有色人種の若者は一般に教育や就業の機会を奪われることが多く、特にアートやデザインの分野でその傾向が顕著だといわれている。こうした格差を是正するため、ヴァージルは誰もがアクセスできる“リソースセンター”を立ち上げることにしたという。同氏は、「私は以前からデザイン、アート、カルチャー界が、そうした分野への道を閉ざされている若者や、若い黒人デザイナーにもっと門戸を開くよう働きかけてきた。“フリーゲーム”はそうした行動の一環として開設した」と語った。

 同サイトにはブランドを設立したり、アイデアを形にしたりするための方法を教える動画が掲載されている。ヴァージルはサイトの趣旨を説明する動画に出演しているほか、専門家らが解説する動画を自身の経験に基づいてセレクト。内容は「ブランド名の付け方」「商標を取得するには」「アドビ クリエイティブスイート(Adobe Creative Suite)の使い方」など多岐にわたっていて、ファッション業界で活躍したい若者がつまずくことの多いポイントについて学べるようになっている。各動画にはヴァージルによるコメントが付けられており、今後もさまざまなコンテンツが追加される予定だ。

 ヴァージルは、ファッションを学ぶ優秀な黒人学生に奨学金を提供するヴァージル・アブロー“ポスト・モダン”奨学金ファンド(Virgil Abloh “Post Modern” Scholarship Fund)を2020年7月に設立しているが、今回の“フリーゲーム”はその関連プロジェクトとして開設されている。

NEWS 02

資生堂が血管研究を発展 未来の肌予測へ活用

 資生堂は2000年からスタートした血管研究において、17年に発表した肌を切らずに顔の毛細血管を可視化する独自技術を発展させ、顔全体の毛細血管を3次元で可視化することに初めて成功した。これまでの顔の部分的な解析から全顔が可能となり、技術に基づいた顔全体のケアと未来の肌予測への活用をかなえることができる。

 「肌表面を対象とする化粧品でなぜ血管なのか……。皮膚にはびっしりと血管網が張り巡らされている。血管は健康な皮膚の維持に必須。皮膚の話をするのに血管を考えないわけにはいけない。肌のことを本気で考えた。だから血管なのだ」と佐藤潔・資生堂アドバンストリサーチセンターセンター長は語る。同社は長年にわたって血管研究を進めていて、00年にハーバード医科大学付属皮膚科学研究所と米国マサチューセッツ州ボストンにあるマサチューセッツ総合病院が設立した皮膚科学研究所「CBRC(Cutaneous Biology Research Center)」と共同研究を開始。これまで紫外線によるシワ血管知見や毛細血管と皮膚老化の関係性の解明などを行ってきた。

 17年には、肌を傷つけることなく皮膚血管の構造を深さ別に高解像度で画像化できる手法を応用し、特に観察が難しいとされていた顔の毛細血管を観察する独自技術を開発。18年は自社特許技術である皮膚組織の透明化技術を用いてシミの肌内部における血管構造異常の3D可視化に成功した。

 今回の血管研究は肌を切らずに行う独自技術を進化させたもので、全顔を3次元で可視化できるため顔の部位によって血管の状態が大きく異なることの把握が可能となった。進化ポイントの一つは、これまで1.2㎝角をスキャンするのに5分程度かけて行っていたが、30秒と大幅に短縮した。「肌状態や個人によって血管の分布や太さは大きく異なる。例えば、シミ部位に異常な毛細血管の密集が認められている。内外から健やかで美しい肌を実現するためには、目に見えない変調や血管全体の状態を把握する必要がある」と資生堂アドバンストリサーチセンター原祐輔氏は述べる。

 来年以降にこの技術を応用した製品を同社のプレステージブランドで展開する予定だ。今後も血管研究を深め内外から健やかで美しい肌の実現を目指していく。

NEWS 03

「ルイ・ヴィトン」の親会社、20年7~9月期は売上高1兆円超え 順調に業績回復

 LVMH モエ ヘネシー・ルイ ヴィトン(LVMH MOET HENNESSY LOUIS VUITTON以下、LVMH)の2020年7~9月期(第3四半期)決算は、売上高が前年同期比10.2%減の119億5500万ユーロ(約1兆4704億円)だった。4~6月期(第2四半期)の売上高が同37.8%減の77億9700万ユーロ(約9590億円)だったことを考えると、順調に回復しているといえるだろう。

 これは主に「ルイ・ヴィトン」や「ディオール(DIOR)」などのスターブランドを抱える主要事業のファッション・レザーグッズ部門の売上高が、同9.1%増(現地通貨ベースでは同12%増)の59億4500万ユーロ(約7312億円)と好調だったことによる。また「モエ ヘネシー」がけん引するワイン&スピリッツ部門も、同4.8%減(現地通貨ベースでは同3%減)の13億6400万ユーロ(約1677億円)と堅調だった。地域別では、米国とアジア地域の売り上げが好調だった。

 ジャン・ジャック・ギヨニー(Jean-Jacques Guiony)最高財務責任者(CFO)は、「『ルイ・ヴィトン』や『ディオール』に加えて、『セリーヌ(CELINE)』『ロエベ(LOEWE)』『フェンディ(FENDI)』の売り上げが大幅に改善した。まだ業績の芳しくない部門もあるが、全体としては徐々に持ち直している」と語った。

 人々が思うように外出できない状況が続く中、多くのブランドや小売店でECの売り上げが増加している。LVMHは主要ブランドでオンラインショップを展開しているほか、傘下の百貨店ボン・マルシェ(LE BON MARCHE)が小規模なECサイト「24セーブル(24 SEVRES)」を手掛けているものの、基本的にはECにあまり積極的でないことで知られている。ギヨニーCFOは、「ここ数カ月間は『24セーブル』の業績が伸びていて喜ばしく思っている。とはいえ、ECはさまざまな事情によりオンラインで買い物をしたい顧客のための補完的なものであり、販路のメインは店舗であることに変わりはない」と述べ、ECにおいてアマゾン(AMAZON)やフェイスブック(FACEBOOK)と提携するつもりはないと付け加えた。

 アマゾンはラグジュアリーブランド専用のアプリ「ラグジュアリーストア(Luxury Stores)」を9月15日に公開しているが、LVMH傘下のブランドに出店を打診したもののすげなく断られたという憶測が以前から広まっていた。これに対して、ベルナール・アルノー(Bernard Arnault)LVMH会長兼最高経営責任者は20年1月の決算説明会で、「そうした大手プラットフォームから何度か打診を受けたが、そのたびに断っている」と話している。

 一方で、同社の傘下ブランドの中にはアリババ(ALIBABA)が運営する中国大手EC「Tモール(T MALL)」内に出店しているところもある。ギヨニーCFOは、「中国ではそうしたプラットフォームに出店していないとたくさんの見込み客を逃してしまう恐れがある。しかしこれは主に化粧品についての例外的な話であり、当面はラグジュアリーにおいてECがメインになることはないだろう」と説明した。

 LVMHといえば、ティファニー(TIFFANY & CO.)を162億ドル(約1兆7010億円)で買収することを19年11月に発表して大きな話題となったが、相思相愛に見えた取引がコロナ禍などさまざまな事情によって暗礁に乗り上げ、最近では激しい訴訟合戦の様相を呈している。

 ギヨニーCFOはこれについて、「『ティファニー』が素晴らしいブランドだという当社の考えは変わっていないし、市場の目を気にすることなく長期的な戦略を実行するためにもティファニーは非上場企業となったほうがいいのではないかと思うが、本件についてこれ以上コメントすることは控えたい。買収を発表した時から、われわれの考えは変わっていない」と話し、態度をやや軟化させていることをうかがわせた。また10月末には、欧州委員会から取引に関する承認が得られる見込みだという。

 なおティファニーは、10月15日に20年8〜9月の暫定的な決算を発表。売上高は微減だったものの、中国本土と米国での業績が好調だったこと、またECが前年同期比で2倍近く伸びたことから、営業利益は同25%増となっている。これを市場が好感し、同社の株価は終値で前日比2.2%高の121.69ドル(約1万2777円)をつけた。

NEWS 04

大丸梅田で月経カップのポップアップ開催 ジュニア向け月経吸収ショーツも

 ソルドジャパンはこのほど、月経カップ“メルーナ”とジュニアにも対応可能な月経吸収ショーツのポップアップショップを大丸梅田店5階の特設会場にオープンした。会期は10月27日まで。

 “メルーナ“はドイツ製の月経カップで、ラテックスやシリコンをふくまない低アレルギー医療用TPUを使用する。体温で膣の形にフィットするため体に負担が少なく、サイズはS~XLまでをそろえる。持ち手部分は取り出しやすいリングタイプのほか、ボールやステムタイプを用意した。カラーは全14色で価格は3600円。会場にはメルーナジャパンの専門スタッフが駐在し、月経カップに関する疑問に直接対応する。

 肌に優しい布を使用した月経吸収ショーツは、初潮を迎えたジュニアにも対応する。購入者を対象に月経カップ用のノベルティもプレゼントする。そのほか、さまざまなフェムテック商品のサンプルも展示する。

■ソルドジャパン ポップアップショップ
日程:10月14~27日
場所:大丸梅田店5階 特設会場
住所:大阪市北区梅田3-1-1

GLOBAL STOCK TRACKER

ファッション&ビューティ関連株騰落率ランキング
国内企業
No 値上がり株 10月20日付
終値
騰落率
1 アイスタイル 438 8.15%
2 良品計画 2219 7.35%
3 ロコンド 2703 6.33%
4 エニグモ 1658 4.28%
5 4℃ホールディングス 1833 3.74%
No 値下がり株 10月20日付
終値
騰落率
1 J.フロント リテイリング 829 -4.60%
2 高島屋 813 -4.58%
3 三越伊勢丹ホールディングス 534 -4.47%
4 ヴィレッジヴァンガードコーポレーション 1062 -4.24%
5 キムラタン 26 -3.70%
海外企業
No 値上がり株 10月19日付
終値
騰落率
1 ロッテショッピング(韓国) 9万5500
(ウォン)
6.94%
2 晶苑国際(香港) 2.26
(香港ドル)
5.11%
3 新世界(韓国) 22万5000
(ウォン)
4.65%
4 上海美特斯邦威服飾(中国) 2.44
(ドル)
4.27%
5 モバード・グループ(アメリカ) 11.40
(ドル)
3.82%
No 値下がり株 10月19日付
終値
騰落率
1 レブロン(アメリカ) 5.64
(ドル)
-6.78%
2 ノードストローム(アメリカ) 12.17
(ドル)
-5.88%
3 アメリカン・イーグル・アウトフィッターズ(アメリカ) 14.23
(ドル)
-5.14%
4 アイコニックス ブランド グループ(アメリカ) 0.70
(ドル)
-4.94%
5 アーバン・アウトフィッターズ(アメリカ) 22.91
(ドル)
-4.71%

 

 

SCHEDULE

今週のスケジュール(招待状が必要なイベントもあります)

FASHION

22 THU
デザイナート
DESIGNART TOKYO 2020 オープニングセレモニー/プレスデー
10:00〜11:00 ワールド北青山ビル 「NEW HOME OFFICE展」会場
(東京都港区北青山3-5-10)

BEAUTY

19 MON
北海道曹達
新製品発表会
13:00~13:50
オンライン

21 WED
アモーレパシフィック
「イニスフリー」新製品発表会
11:00~/13:00~/15:00~
オンライン

23 FRI
ブリーシングスペース
「ウラニア」新製品発表会
11:00~/13:00~/15:00~

 

最新号の読みどころ

百貨店、ファッションビルブランド、セレクトショップの2025年春夏の打ち出しが出そろった。ここ数年はベーシック回帰の流れが強かった国内リアルクローズ市場は、海外ランウエイを席巻した「ボーホー×ロマンチック」なムードに呼応し、今季は一気に華やかさを取り戻しそうな気配です。ただ、例年ますます厳しさを増す夏の暑さの中で、商品企画やMDの見直しも急務となっています。