こんにちは、ヨーロッパ通信員の藪野です。ついにパリコレ現地リポートも最終回を迎えます。今シーズンは外食を一切せずにほぼずっと自炊で、ホテルとショー会場やショールームの行き来のみだったので、なんだか寂しい出張でした。ただ、この状況下でも現地に行けて本当に良かった。いつもより多くのデザイナーと話すことができましたし、リアルなショーは印象に残るものが多かったので、親密&濃密な体験になりました。それでは、「シャネル(CHANEL)」や「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」のショーを含む8日目と9日目のダイジェストをお届けします!
10月5日(月)
12:30 「ミチノ」の新ショールームでほっこりティータイム
「ジバンシィ(GIVENCHY)」の展示会でひたすら写真を撮った後(詳しくは現地リポートVol.5をご覧ください)に向かったのは、パリ在住日本人デザイナーのヤス・ミチノさんが手掛けるバッグブランド「ミチノ(MICHINO)」。移転した新しいショールームで2021年春夏コレクションを見せてもらいました。と言いつつ、実際はミチノさんとPRのオードさんと久々の再会だったので、日本茶をいただきながらほっこりティータイム。フランスの状況や最近のバッグ事情、近況などを話し合いました。
「今までブランドの中で決めたルールに縛られていたけど、今季は本当にやりたかったことができた」とミチノさんが語るコレクションは、アイコンバッグ“スクウェアイット(SQUARIT)”や“クラフト バッグ(CRAFT BAG)”などをシボのあるレザーでアップデート。ベージュ、ブラック、ホワイト、ピンク、レッドというタイムレスな人気色で提案しています。一方、“SALUT”や“HELLO”とプリントされたミニバッグや財布には、ビビッドカラーを採用。次の春夏には明るい色を持ちたい気分になるように!という思いが込められているそう。
13:30 ケイト・モスが手掛けた初のハイジュエリーとは?
お次はラグジュアリーなホテル・ド・クリヨン(Hotel de Crillon)で開かれていたジュエリーブランド「メシカ(MESSIKA)」のプレゼンテーションへ。今回発表したのは、スーパーモデルのケイト・モスとのコラボレーションで制作したハイジュエリー。ケイト自身のジュエリーボックスを出発点に、“ボヘミアン”や“アールデコ”など彼女の好きなスタイルを反映したコレクションに仕上がっていました。ダイヤモンドで知られる「メシカ」ですが、今回はマラカイトやターコイズ、マザー・オブ・パールをダイヤモンドと組み合わせたネックレスやイヤリングを提案しているのが新鮮です。
14:00 ドーバーの展示会で最強のソーシャル・ディスタンシング・ハットを発見
その後は、ヴァンドーム広場にあるドーバー ストリート マーケット パリ(DOVER STREET MARKET PARIS以下、DSMP)のショールームに新進ブランドの2021年春夏コレクションを見に行ってきました。今回展示されていたのは、人気DJのハニー・ディジョン(Honey Dijon)による「ハニー ファッキング ディジョン(HONEY FUCKING DIJON)」、そしてDSMPが今年提携を始めた「ヴァケラ(VAQUERA)」と「ウェインサント(WEINSANTO)」。ブランド育成プラットフォームとして、取り組むブランドが増えています。
「ハニー ファッキング ディジョン」は2シーズン目を迎え、レザージャケットやはっ水性のあるアウターなどバリエーションが広がりました。今回は90年代ニューヨークのクラブシーンから着想を得ていて、伝説的ディスコ「パラダイス ガレージ(Paradise Garage)」ともコラボ。1万円以下で買えるアイテムもあり、インクルーシブなブランドとして成長中です。「ヴァケラ」はランジェリーをアレンジしたウエアがずらり。大胆なデザインがある一方で、ランジェリーのプリントやパーツをあしらった手ごろなオーバーサイズTシャツもあり、このバランスはエイドリアンさん(コム デ ギャルソン インターナショナルCEO兼ドーバー ストリート マーケットCEO)のアドバイスが入っているのかなと感じました。そして、まだ荒削りでアンダーグラウンド感あふれる「ウェインサント」では、最強のソーシャル・ディスタンシング・ハットを発見。これを被ったら、誰も近寄れないですね(笑)。
16:30 「ズリー ベット」は今季もハッピームード満点
ファッション・ウイーク期間中のショーは、郵便番号が「75」から始まるパリ市内でほとんど開催されるのですが、「ズリー ベット(XULY BET)」のインビテーションを見ると「94200」。これはどこ?と思いつつ、雨の中、南の郊外にある会場にやってきました。ショーには、個性豊かな一般人をモデルとして起用。階段を下りるモデルをデザイナー自身がリズムに乗りながらエスコートしたり、自分の娘がモデルとしてランウエイを歩いてきたら前まで写真を撮りにきちゃうお母さんもいたり、学芸会的なノリはありますが……ハッピームードあふれる楽しいショーでした。
10月6日(火)
10:30 「シャネル」の会場に“HOLLYWOOD”サインならぬ“CHANEL”サインが出現!
最終日のハイライト1つ目は「シャネル」です。招待状は丘の上にある“HOLLYWOOD”サイン風の「CHANEL」の文字が飛び出るカードだったので期待していたのですが、セキュリティーチェックを終えて会場に入ると、ありました!巨大な“CHANEL”サイン!!そしてよく見ると、客席にもブランド名のアルファベットやロゴを象った椅子が混じっていて、テンションの上がる可愛いセットです。
そんな会場からも分かるように今シーズンは、ブランドのミューズである女優たちへのオマージュ。「ガブリエル・シャネル(Gabrielle Chanel)とカール・ラガーフェルド(Karl Lagerfeld)は、映画や現実の世界で、数多くの女優たちの衣装を手掛けました。そのような私たちを夢中にさせる女優たちのことを思い描いたのです。でもそれは、単に再現したいと考えたのではなく、ビンテージ風に再解釈したわけでもありません。喜びにあふれ、 カラフルで活気に満ちたコレクションを追求しました」とヴィルジニー・ヴィアール(Virginie Viard)=ファッション・コレクション・アーティスティック・ディレクターは語ります。
その言葉通り、コレクションはミニスカートやバミューダパンツ、ブルゾン、デニム、ネオンサインのようなグラフィックを取り入れることで、若々しくアクティブな印象に。アイコニックなファンシーツイードをはじめとするセットアップスタイルもライダーススタイルのジャケットやドロップショルダーのシルエット、深いスリットの入ったスカートでアレンジしています。一方、ディテールではレッドカーペットドレスの華やかなイメージにつながるフェザーやボウ、スパンコール刺しゅうなども見られました。バッグは超ミニサイズが中心。アクセサリー感覚なネックレスタイプのバッグもありました。
16:30 今季も締めは「ルイ・ヴィトン」。リアルとデジタルの異なる演出はあっぱれ!
もう一つのハイライトは、毎回パリコレのトリを飾っている「ルイ・ヴィトン」です。ライブ配信は現地時間15時からということで「メゾン マルジェラ(MAISON MARGIELA)」のデジタル発表の前だったのですが、「ルイ・ヴィトン」は今季、15時と16時半の2回ショーを開催。会場での第一印象や体験を楽しみにしていたので、15時前からSNSは全てシャットダウンして16時半からのショーを待ちました。
今回の会場は、LVMHが大規模な改修を進めている老舗百貨店サマリテーヌ(LE SAMARITAINE)。来年複合施設としての再オープンを前に、ガラス天井と孔雀のフレスコ画が象徴的な最上階をショーに使いました。パリコレではルーブル美術館の内外でウィメンズのショーを開催することの多い「ルイ・ヴィトン」ですが、これまでもヴァンドーム広場の旗艦店や美術館「フォンダシオン ルイ・ヴィトン(Fondation Louis Vuitton)」をオープン前に会場として使用しており、ショーはLVMHにとって重要な新ロケーションを世界に披露するメディア的な役割も果たしているのです。
コレクションは、メンズ・ウィメンズという枠組みに当てはまらない“ノンバイナリー(nonbinary)”な服。振り返れば、ウィメンズ・アーティスティック・ディレクターのニコラ・ジェスキエール(Nicolas Ghesquiere)は、20年春夏のショー演出にもトランスジェンダーのアーティストであるソフィー(Sophie)を起用していましたよね。ショーで披露されたのは、彼が「マスキュリンであると同時にフェミニンである」と語るジャケットをはじめ、風をまとう軽やかでゆったりしたロングコート、タックを入れて丸みのあるシルエットに仕上げたスラックス風ワイドパンツ、オーバーサイズTシャツとも捉えられるドレスなど。女性でも男性でも楽しめそうなアイテムがそろいます。ニコラのコレクションでここまで全体的にビッグシルエット&ストリートムードなのは新鮮。カジュアルな太いベルトでハイウエストをマークしたスタイリングやポップなタイポグラフィがいいアクセントになっています。
「あ〜、締めにエネルギッシュなショーが見られてよかった!」と思いながらホテルに帰ってデジタルでの配信をチェックすると、別の体験が待っていました。会場では緑の壁や椅子になっていたところに映像が合成され、モデルが映像の中を歩いているような不思議な世界に。リアルな空間の中にいるからこそ湧き立つ感情や視点を動かしながら見るからこそ分かる質感やディテールはもちろんあるのですが、それをデジタルでできる限り再現することを目指すのではなく、全く異なる体験を用意するとはあっぱれ!会場では緑色を背景にモデルが歩いていたので、その点ではデジタルで見ている方が面白いと感じられたのではないでしょうか。そして合成されていた映像は、ヴィム・ヴェンダース(Wim Wenders)監督による映画「ベルリン・天使の詩」。ベルリンつながりということで、勝手に親近感が湧きました(笑)。
10月8日(木)
14:00 初のPCR検査にドキドキ
現在、ドイツではリスク地域(もちろんパリも対象)からの入国者全員にPCR検査が義務付けられています。空港にも検査センターがあるのですが、ベルリンに戻った7日夜はすでにクローズしていたので、8日に近所の診療所に行ってきました。ベルリンでは市内に新型コロナウイルス関連の検査や診察のみを行う病院がいくつも設けられていて、今回行ったところは事前にオンライン予約もできたのでとてもスムーズ。待ち時間もなく、鼻と喉から検体を取って5分もかからずに終了しました。そして結果はウェブサイトに個人番号を入れると表示されるシステムになっていて、通常2日以内に分かるとのこと。翌日の夕方にチェックしてみたら、「陰性」と表示されました〜!症状は全くなかったとはいえ気になっていたので一安心。これにて、無事パリコレ出張終了です!