※この記事は2020年8月20日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
百貨店「閉店ラッシュ」の夏
今年の8月は百貨店の閉店が相次いでいます。
16日に高島屋港南台店(神奈川県)、17日に井筒屋黒崎店(福岡県)が営業を終了しました。31日にはそごう・西武が運営する西武岡崎店(愛知県)、西武大津店(滋賀県)、そごう西神店(兵庫県)、そごう徳島店(徳島店)が一斉に閉まります。同日、福島県の地場の百貨店である中合福島店も146年の歴史に幕を下ろす。ちょっと毛色は違うけれど、名古屋駅前の中規模店であるイセタンハウス、東京駅の赤レンガ駅舎に入る松屋の小型店も31日に営業を終えます。
百貨店の閉店ラッシュは今に始まったことではありません。しかし1カ月でこれだけ重なるのは、おそらく初めてでしょう。新型コロナウイルスの感染拡大の影響というよりも、大半はコロナが発生する前に決まっていた案件です。コロナの打撃によって、来年以降、さらに閉店が加速する可能性が高いと思われます。
私はこれまで多くの百貨店の閉店の現場を取材してきました。最終日の店内は、多くの地元客でごった返します。閉店セールが目的というよりも、長年世話になった百貨店の最後を見届けたいという人が圧倒的に多いのです。
声をかけると、みなさんが百貨店との思い出について堰を切ったように話してくれます。子どもの頃、休日に家族で訪れてレストランで食事するのが楽しみだった。店内の写真館で娘の七五三や入学式、卒業式、成人式の記念写真を撮った。中元・歳暮の時期にバイトをしていた。初任給で初めて両親へのプレゼントを買った。クリスマスや誕生日のケーキを毎年予約していた。親子2代でなじみの販売員さんがいる――。
何十年、あるいは100年以上も地域に根ざして営業してきた百貨店は、地域にとって掛け替えのない存在だと思い知らされます。もちろん客離れが進んだから閉店に追い込まれるわけですが、買い物をする人、働く人、膨大な人々の人生の記憶が積み重なっているのが百貨店です。「業績低迷で閉店」の一言で片付けられない重みがあります。
営業最終日は別れを惜しむ人が殺到し、店内でなじみの販売員と記念撮影したり、最後の閉店セレモニーを見届けようとしたりするのですが、今年はコロナのため出来るだけ密を作らないような対応が求められています。閉店セレモニーは行わず、静かに営業を終える百貨店が多いようです。
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