※この記事は2020年9月3日に配信した、メールマガジン「エディターズレター(Editors' Letter)」のバックナンバーです。最新のレターを受け取るにはこちらから。
「私の家政夫ナギサさん」考察
TBSラジオのヘビーリスナーだからでしょうか?ドラマ「半沢直樹」の話をよく聞くし、スポーツクラブでお会いする“お兄さま”“お姉さま”は一様に夢中です。実は、一度もちゃんと見たことがない私。先日チラッと見ましたが、終始「圧」なドラマですね(笑)。目力120%、血管浮き出まくり。率直に申し上げれば、「日曜の夜には、疲れそうなドラマだなぁ」と思ってしまいました(笑)。
長年ドラマは朝ドラだけでしたが、今シーズンはもう1つ、楽しみな作品がありました。「私の家政夫ナギサさん」です。主演は、大好き多部未華子。ドラマの舞台は、我が街横浜(主人公の自宅は都筑区でしたw)。主人公は、「こんなMR(医薬情報担当者)いるの?」と軽く炎上するほど、「ステラ マッカートニー」のバッグや「TASAKI」のパールジュエリー(“デインジャー”がおそろいなのが嬉しかったのですw)、「カルティエ」の腕時計などファッション・コンシャス。と、この時点ですでに楽しいのですが、一番「今っぽいなぁ」と思ったのは、登場人物がステレオタイプではないことです。ある意味、半沢直樹の真逆な気がします。まず主人公は、家事全般が苦手な女性。そこに来る“家政夫”は文字通り男性で終始「たおやか」、「お母さんになりたかった」と言い出します。「ゲイなのか?」と思いましたが、最終回では主人公と結ばれたので、そうでもないみたいです。そのほかにも、主人公が勤務する製薬会社の支店長は女性。そこに研修で配属された新入社員は頼りなさそうな男性で、女性の先輩がキッチリ指導。主人公のお母さんは主人公同様に家事全般が大の苦手で、お父さんの方がよっぽどお上手。「ジェンダー・バイアスにとらわれない」が裏テーマなの?と思うくらい、随所の設定が新しいドラマでした。
さらに「良いねぇ」と思ったのは、そんな新しい設定が主題ではないことです。普通、主役の家政夫に「お母さんになりたかった」なんて性格を付与したら、例えば、その源泉となる親子関係を回想したり、「お母さんになれなかった」あの時を描いたり、最後は「お母さんになれた」喜びを表現して大団円で締めくくったりすることでしょう。なのに「お母さんになりたかった」から話が膨らむことは、ほとんどナシ!!脚本家やプロデューサーにインタビューしたら、「え!?ナギサさんは『お母さんになりたかった』。以上です」と言われて終わっちゃいそうです(笑)。ここが、実に今っぽい。
以前もどこかでお話したと思いますが、5年くらい前までは「既成概念」に対して抗うというか、ファイティングポーズを取ることで新しい時代を切り開く先駆者が多かったように思います。でも今の開拓者は、その「既成概念」に抗うのではなく、ファイティングポーズも取らず、ハナっからその存在を意識していない。「え!?俺、既成概念に抗っているんですか?単純に、それがやりたいことだったんです」と言いつつ、結果として「既成概念」にとらわれていないクリエイターが多いように感じます。世界で言えば、「グッチ」のアレッサンドロ・ミケーレや「ルイ・ヴィトン」のヴァージル・アブロー、「ディオール」のキム・ジョーンズは、そんな感じ。「コム デ ギャルソン」の川久保玲とは、「既成概念」に対する意識が違っているように思えます(もちろん、ファイティングポーズを取り続けることも意義深いことです)。
「私の家政夫ナギサさん」は、そんなカンジでした。「ジェンダー・バイアス」には結果挑んでいるものの、それはテーマじゃない。ハナっから意識してないから、結果解放された。それが心地よく思えたのです。
視聴率も良かったみたいですね。大勢が、この「既成概念にとらわれない」を楽しみ、自分に生かしてくれたら。面白い世の中になりそうです!!
SOCIAL & INFLUENTIAL:社会情勢によって変化するファッション&ビューティ業界を見つめます。インクルージョン(包摂性)&ダイバーシティー(多様性)な時代のファッション&ビューティから、社会に届けたい業界人のオピニオンまで。ジャーナリズムを重んじる「WWD JAPAN.com」ならではのメルマガです。
エディターズレターとは?
「WWDジャパン」と「WWDビューティ」の編集者から、パーソナルなメッセージをあなたのメールボックスにダイレクトにお届けするメールマガジン。ファッションやビューティのみならず、テクノロジーやビジネス、グローバル、ダイバーシティなど、みなさまの興味に合わせて、現在7種類のテーマをお選びいただけます。届いたメールには直接返信をすることもできます。