ファッション

逆風でもリアルショーにかける「ターク」 「こんな時代だからこそ業界を盛り上げる1発をかましたい」

 2021年春夏シーズンの「楽天 ファッション ウィーク東京(Rakuten Fashion Week TOKYO以下、RFWT)」が10月12日に幕を開けた。同日16時には森川拓野デザイナーが手掛ける「ターク(TAAKK)」が新宿御苑の大温室でリアルショーを開催。独特の素材使いや技法、クセの強いデザインなど、持ち味のクリエイションが光るコレクションで来場者に鮮烈なインパクトを残した。

既存アイテムを新しく
画家に着想した違和感

 リネン生地からコットンのシャツ生地へと織りが変わり、裾をタックインして着られるジャケット。裾や袖先をシアー素材で仕上げたトレンチコート。コレクションには、見慣れたアイテムの生地を大胆に変化させることで新しく見せるピースが多くそろった。シュルレアリズムをけん引した画家のルネ・マグリット(Rene Magritte)に着想し、「上半身が魚、下半身が人間になった“共同発明”という作品から大きなインスピレーションを得ました。見慣れたものをちょっとした工夫で新しく見せるのが超面白いと思うんです」と森川デザイナーは説明する。花のグラフィックや自然に着想したような明るいカラーリングなど、「ターク」には珍しく軽やかな色・柄を多用したことも今シーズンの特徴と言えるが、これについては「好きな写真家のアーヴィング・ペン(Irving Penn)の世界観を僕なりに表現しました。ユリのグラフィックは外出自粛期間中に家のプリンターで写したんですよ」と背景を話す。

念願のリアルショー
「デジタルで熱量は生めない」

 「ターク」も参加予定だった今年3月の20-21年秋冬RFWTは、新型コロナウイルス感染拡大を受けて開幕直前に中止が決定。ようやく開催された今シーズンも未だ感染症の脅威は拭えず、約40の参加ブランドのうちリアル・ショーを行うのはわずか3割だ。ブランドは日本ファッション・ウィーク推進機構と厚生労働省が協働で策定したガイドラインに沿って、スタッフ・観客を含む動員数を会場キャパシテイの半分まで減らすなど徹底した管理下でショーを実施しなければならない。

 そんな逆風の中、リアルショーにこだわった理由を森川デザイナーに聞くと「生み出す熱量の大きさの違い」と答えた。「今の時代、“SNSで拡散する”という形式は変わらないかもしれない。それでも、単純にルックだけを見ていいなと感じるのか、ショーを見て感動したのかによって発信する側の熱量は絶対に違うし、伝わり方にも差が出る。その熱量を生み出すには、やっぱりリアルじゃなきゃダメだと思う。それに、業界の人もワクワクする場所を求めてるはず。こんな時代だからこそ、業界を盛り上げる一発をかましたい」。

 森川デザイナーの言葉通り、会場には東コレ常連のバイヤーやメディア関係者だけでなく、雑誌ブームを牽引した出版界の大御所やセレクトショップの重鎮まで、普段は見られない面々を含む約140人が来場。それぞれがSNSでショーの様子を発信し、「ターク」の公式インスタグラムアカウントが共有したストーリーズには、「やっぱりショーが一番」「デザイナーの笑顔が印象的だった」など、出席者のリアルな言葉が添えられた動画が多く投稿されていた。

 高画質の映像でも服の細部は見せられるが、会場の一体感や熱気は共有できない。コレクションのムードは伝わるが、五感で浸ることはできない。画面越しで誰もがショーを見られるようになった今でも、新たなトレンドとファッションの熱狂を生み出す場として、リアルの存在意義を強く認識させるショーだった。

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