コロナ禍の影響で百貨店のコスメカウンターやバラエティーストアなど、店頭で製品を試すことが難しいなか、SNSやユーチューブなどで実際の使用感や発色、メイクアップ方法などを伝えるインフルエンサーの存在がこれまで以上に重要になっている。メイクレシピプランナーとしてツイッターを中心に活動しているちこえは、クオリティーの高いメイクと分かりやすい写真、トレンドやユーザーのニーズを捉えた投稿で人気を集めているインフルエンサーだ。フォロワーは12万を超え、熱心なファンも多い。数多くのインフルエンサー達の中で彼女はなぜ支持を集めているのか。その理由に迫る。
WWD:メイクレシピプランナーとして現在どういった情報を発信している?
ちこえ:主にメイクについて発信しています。そのほか、スキンケア、コスメ、メイク道具などについても投稿しています。
WWD:SNSでメイクの情報を発信するようになったきっかけは?
ちこえ:活動を始める前から化粧品やメイクに興味がありました。でもそれは、肌荒れを隠すためのものだったので、周りの人に言いづらかったのです。そのような中で唯一話せるのがコスメカウンターの美容部員さんでした。化粧品やメイクの話をする友人がいないと相談すると「SNSをやってみたら?同じ趣味の人とつながれると楽しいよ」とアドバイスを受けたのがSNSを始めたきっかけです。
WWD:メイクレシピプランナーという肩書きは珍しいですね。
ちこえ:最初は自分の悩みやスキンケアのことを中心に発信していたのですが、フォロワーが増えていく中で特に需要のあるメイクの情報に絞っていきました。そこで、何か肩書きがあったほうが初見の人にも伝わりやすいのでは?と考えました。でも私は美容家ではないし、メイクアップアーティストでもない……、私自身メイクを考えることが一番楽しくて、そのメイクで自分と皆さんの生活を少しでも明るく楽しくするお手伝いができたらいいなと思い、“メイクレシピプランナー”という肩書きを付けることにしました。SNSにおいて新しいポジションを築くことで、メイクや美容がもっと自由になればいいという思いもありました。
WWD:投稿を行う際に気を付けていること、意識していることは?
ちこえ:購入品でも企業からの提供品でも、手に取って使わなければわからないことを画像もしくは文章で入れることを意識しています。外装やパッケージなど、公式サイトを見れば分かることを投稿するのではなく、実際に買って封を切って、化粧品のふたを開けたところからの意見や感想が大切だと考えています。それが企業や見てくださっている方への誠意と答えだと思って取り組んでいます。
WWD:現在ツイッターのフォロワーは12万を超えているが、フォロワーが増えたきっかけは?
ちこえ:2017年にツイッターを始めて、7カ月ほどで1万フォロワーになり、19年頃には5万フォロワーまで増えました。そこから一気にフォロワーが増えたきっかけは、青をメインにした夏のライブにおすすめのメイクを提案した投稿を指原莉乃さんが引用リツイートしてくださったことです。本当に忘れられないできごとになりました。このことをきっかけに私の代名詞とも言える「#推しメイク」が生まれました。
WWD:「#推しメイク」とは?
ちこえ:アイドルグループのメンバーカラーに限らず、芸能人やゲーム・アニメのキャラクターなど個々が自身のイメージカラーを持っていたり、ファンの人が思うイメージカラーが存在することが多いです。その中でも特に、推し(最も応援しているメンバー)の担当カラーをメインにしたメイクのことを「#推しメイク」と言います(諸説あり)。指原さんが引用リツイートしてくださった投稿をきっかけに、「自分の推しのカラーのメイクもやってほしい」などたくさんのリクエストや反響がありました。こんなチャンスは二度とないと思いリクエストを受けて13色分投稿し続けたことを覚えています。メイクを1日に何度もやり直したため目周りの皮膚は傷みましたが、こんなにもフォロワーさんが喜んでいると実感できたことがなかったので夢中になって「#推しメイク」をつくりました。
私自身長く応援しているアイドルがいてその人たちへの思いも込めて作ったのが良かったのかもしれません。コロナ禍でコンサートが次々と中止や延期になり推しメイクをしていく場所が激減したため、せめて手元を華やかにと企画した「#推しネイル」や「#ワンカラーネイルやさん」も好評です。
WWD:「#推しメイク」はもちろんですが、毎日豊富なバリエーションのメイクを紹介しているが、着想源や参考にしているものは?
ちこえ:いろいろな方のSNSを見たりはしますが、特に何かを意識したり、参考にしているということはないです。基本は私の毎日のメイクです。その中で季節やシーン、トレンド、メインのアイテムなどを決めて楽しんでいます。疲れが残る朝の簡単なメイクも考え方を変えれば“時短メイク”になります。想定とは違うメイクもあえて投稿します。そういうリアルが参考になると思いますし、メイクはうまくやる必要はないからです。きちんと完璧にしよう、ルールから外れないようにやろうという考えはメイクにおいては不要です。メイクに正解はないですし、もしあったとしてもそれは人の数だけあります。
WWD:コロナ禍の影響で、店頭でメイク製品を試しにくくなりSNSなどで製品のレビューを投稿しているアカウントの需要が高まっていると感じているが、ユーザーの反応の変化はあった?
ちこえ:緊急事態宣言解除後、私自身も何度か百貨店のコスメカウンターに行きました。テスターにカバーがかかっていたり、美容部員さんが全員マスクをしているなど、知らない場所になってしまったと感じるくらい様子が変わっていました。美容部員さんのリップに一目惚れしておそろいを購入することができなくなったのが寂しいですね。ユーザーの反応が変わったということはありませんでしたが、参考になるようにスウォッチ(化粧品の発色を手などで試した写真)を増やし、色や質感が伝わりやすいよう工夫しています。
コロナ禍で変化も 投稿に対するこだわり
WWD:企業からのPR案件などにも変化があった?
ちこえ:4〜5月は減りましたが、6月頃からまた増え始めました。案件の内容がガラリと変化したわけではありませんが、メイクの方法を詳しく紹介してほしいというリクエストは増えた印象です。
WWD:企業からのPRを行う際は、どういったことを意識、工夫している?
ちこえ:PR以外の投稿にも共通していますが、「買わなければ分からないことを画像もしくは文章でひとつは入れること」をPR投稿でも意識しています。店頭でパッケージを手に取り購入するか迷ったときの判断材料にしてほしいからです。購入前の商品を開けて手触りや香り、キャップの形状、プッシュ式かスポイト式か持ち運べるほどの重さなのか強度はあるのかを確認することはできないからです。また、美容部員さんを介してのタッチアップが難しいなかで、SNSで質感や色みを伝えることも私の役割だと考えます。
あと、この商品のPRを任されているのが私だけなのか複数のインフルエンサーが紹介しているのか分からないので、PR投稿を終えたあとはハッシュタグ等で検索し、必ずほかのインフルエンサーの投稿内容やRT数、いいね数を確認してフィードバックするようにしています。ひとりで作業していると自分本位な投稿になりがちなので、どのような投稿に皆さんが興味を持っているのかを見るようにしています。ほかのインフルエンサーの投稿は写真の撮り方や文章表現等、情報の宝庫なのでいつも学びがあります。
WWD:今後の目標は?
ちこえ:メイクをもっと自由にしたいです。たまには、らしくない色を使いたいですし、それが似合わなくてもいいと思います。この色(化粧品)が自分の感性で素敵だと思って購入しているので、似合う似合わない以前に化粧品を手に取って最初に感じたときめきを忘れたくないのです。化粧品を購入する人たちのそういう思いを存分にメイクで表現できるようなお手伝いがしたいです。この仕事は、企画はもちろん撮影も全て私一人で行っているためいつか限界がくるかもしれません。もちろん年齢も重ねていきます。ですが、そういう等身大の姿こそお会いしたことのないフォロワーさんの生活に寄り添えるのかもしれないと考えます。可能な限りメイクや美容に関する情報の発信をしていきたいです。