REPORT
ニューシルエットでの若者の魅了を願う
フィレンツェで開かれている世界最大級のメンズウエアの見本市ピッティ・イマージネ・ウオモのメインゲストとして、「モスキーノ」が2016年春夏メンズを発表した。
特にウィメンズ・コレクションでは故郷アメリカのポップカルチャーやヒップホップ、食べ物などをインスピレーション源としてきたジェレミー・スコットは、自らを主賓に招いたピッティにオマージュを捧げるべく、フィレンツェを代表する中世の冒険王ジョヴァンニ・ジャコモ・カサノバをインスピレーション源に選択。コレクションは、彼が生きた中世を代表するロココ調のモチーフを金糸や銀糸を交えた色とりどりのジャカードで表現。それを中世フランス貴族のようなスワローテイルのフロックコートやジャケット、カマーバンド付きのバミューダショーツなどに仕上げた。ロココ調のジャカードはフューシャピンクやレモンイエロー、マンダリンオレンジなどのビビッドカラーで彩った他、時にはライダースブルゾンのように中世貴族とは異なる世界観のアイテムに落とし込んだり、さらにはアニメのキャラクターを描いたパジャマパンツやレーシングスーツを模したトップスと合わせたり、相変わらずアバンギャルドなアイデアで“ロココ・ジャカード”と自由奔放に戯れた。
フリーダムでアイキャッチーなのは、デビュー以来変わらない。しかし今シーズンは、若者を熱狂させてきたこれまでほどの高揚感はなく、ショーは淡々と終わってしまった印象だ。その一因は、色やモチーフこそ変われど、シルエット、ひいてはスタイルが変わらないから。特にメンズは、コンパクト丈のトップスに、スリムストレートなボトムス、そこにビッグアウターを羽織るのが定番。新たなフォルムがなかなか生まれず、前回までの色違いや柄違いの感も否めない。
今現在の「モスキーノ」は、SNS世代の若者をデザイナーズブランドの世界に呼び込む大事な存在だ。ジェレミーがいなければ、ここ数年のキュートでポップなモチーフというトレンドは広く浸透しなかっただろう。彼の存在感は極めて大きい。だからこそ、そろそろ新たな素材、その特性を生かしたフォーム、そして世界観の構築にトライしてほしい。それが出来た時、「モスキーノ」は若者をさらに熱狂させるだろうし、ファッション業界をさらに活性化させることだろう。