サステナビリティ

「一切廃棄はしない」 H&Mの在庫問題と循環型シフトへの取り組みをサステナビリティ責任者が語る(後編)

 H&Mへネス・アンド・マウリッツ(H&M HENNES & MAURITZ、以下H&M)は、販売、使用、またはリサイクルできる製品については一切廃棄をしないという厳格なポリシーを設けているが、世界で約5000店舗を運営する中でどのようにして実現しているのか。また、循環型デザインへのシフトを推進する同社が注目しているテクノロジーは何か。アナ・ゲッダ(Anna Gedda)=サステナビリティ責任者に聞く。

WWD:H&Mグループでは販売、使用、またはリサイクルできる製品については一切廃棄をしないという厳格なポリシーを設けていますが、実際在庫ゼロにするのは難しいのでは?

アナ・ゲッダ=サステナビリティ責任者(以下ゲッダ):当然のことですが、私たちはいかなる余剰在庫も避けたいと思っており、製造したものはすべて売り尽くすことを目指しています。廃棄物および余剰在庫の削減に向けて最も重要なのは、AIの技術を使って、お客さまが求めているものを理解してそれだけを生産することです。私たちはこの分野ですでに多くの取り組みを進めており、お客さまが求めているものを予測する精度を上げていますし、さらにそれをどの程度の量を生産すべきかという点でも予測精度を上げています。そしてそれら製品をどの国や地域、店舗にどう配分するべきか、どのタイミングが適切か、という点を把握するためのシステムも構築しています。お客さまの需要に応えるという点では継続して正確性を高めており、廃棄物や余剰在庫の削減につながっています。まだ完全に達成できているわけではなく、完璧にできているとは言えませんが、お客さまが本当に求めているのはどういうものなのかを把握し、それだけを生産するということを目指すにあたって、このテクノロジーが素晴らしい可能性をもたらすことを確信しています。

WWD:AI予測の精度はどの程度向上しているのですか。

ゲッダ:具体的な数字や計測値をお伝えするのは難しいですが、時を経るごとに精度が上がっているということは言えます。情報が多ければ多いほど機械学習によるアルゴリズムを継続して発展させていくことができ、さらに精度の高い予測が可能となります。すでに良い結果が出ており、もちろん売り上げにつながるという利点もありますが、在庫を減らすことにもつながっています。つまり、私たちはお客さまが求めているものをより多く売ることができているのです。もちろんまだこの取り組みに関する道のりは続きますし、特に今年のように新型コロナウイルスの感染拡大があった場合、AIを活用していたとしても在庫管理は難しいです。

WWD:それでも売れ残った製品はどうしていますか。

ゲッダ:展開した商品のほとんどを店舗またはオンラインで売り切っています。時にはセールやその他の販促キャンペーンを通して、お客さまにとって非常にお得な価格で提供することもありますが。他の販売活動の例としては、マーケットによっては期間限定のポップアップ・アウトレット店舗で、値引きした衣服を提供することもあります。また、H&Mグループではより需要の高い店舗に積極的に在庫を移送したり、在庫が薄くなった他国に輸送したりすることもあります。シーズンが終わっても売れずに残ってしまった衣類は、来シーズンまで保管することを検討します。

WWD:生産工程における廃棄量ゼロも目指しています。

ゲッダ:はい、将来的にはゼロを目指しています。生産工程で発生する残布などの廃棄物や、安全衛生上廃棄せざるを得ない製品などの廃棄物をゼロにするためにさまざまなアプローチがあります。重要なのは循環型のデザインを採用すること。循環型のデザインとは、デザインの段階で、洋服のパターンニングを調整するなどして、そもそも廃棄物がでないようなデザインを取り入れることを指します。

WWD:循環性を確立するときに鍵になるテクノロジーは?

ゲッダ:循環性は私たちのビジネスの中で最も重要な要素であり、1つのテクノロジーに絞り込むことは難しいので3つ紹介したいと思います。1つ目はサステナブルに調達された新素材です。私たちはその研究開発に継続的に投資していますが、廃棄された生地から作られる素材“サーキュロス(Circulose)”がその一例です。“サーキュロス”は、起業当初からH&Mグループが自信を持って支援してきた企業リニューセル(re:newcell)が開発しました。森林原料の代替となり、品質を妥協することなく商業レベルで必要な量が確保可能という点で、他に類を見ない革新的な素材だと考えます。

2つ目はレンタルや二次流通など、新たな循環型ビジネスモデルについての研究です。グループ傘下の「コス(COS)」では、COSの古着の売買を行うデジタルプラットフォーム「リセル(Resell)」を立ち上げました。また、スウェーデンにあるH&Mセルゲルトルグ店では、“コンシャス・エクスクルーシヴ・コレクション”でスカートやドレスのレンタルサービスを始めました。

そして3つ目はエネルギーです。H&Mの循環型への取り組みは、商品やサービスの展開に留まりません。テクノロジーが非常に重要な役割を担う気候変動の分野において、H&Mグループは2040年までにクライメット・ポジティブとなることを表明しています。100%再生可能な電力の実現に向けた協調的で国際的な取り組みや、再生可能エネルギーの大きな需要の増加と供給に主眼を置いた活動を行っているRE100に加入し、影響力を持つ他のビジネス組織と協働しています。

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