ファッション

リアルorデジタルではない。自分事化できるか否かだ

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 2021年春夏コレクションの取材を一通り終えて、今季を象徴する写真を一枚だけ選ぶならこれだ。「サカイ(SACAI)」がパリコレ閉幕翌日の10月7日に、神奈川県・小田原の江之浦測候所で開いたショーの一コマである。(この記事はWWDジャパン2020年10月19日号からの抜粋です)

 あいにくの雨模様だったが、観客は一人一つ用意された感染対策のアクリルブースがあるから濡れない。都内から車で1時間半のこの場に集まったのは、ビームスの設楽洋社長をはじめとする小売店関係者やほぼ全てのファッション誌の編集長、森星や吉田羊といったモデル・芸能人で全員がマスクを着用しブースからショーを見た。冷静になれば奇妙な光景である。そこまでしてショーを開きたくて、そこまでして見たいのか。そう聞かれればデザイナーの阿部千登勢は「イエス」であろうし、観客の多くもそうだろう。少なくとも私は「イエス」だ。この“私は”というエゴイスティックな観点は今季の重要なキーワードである。

 ファッション・ウイークを取り仕切る協会が発表したスケジュールに合わせて、編集部はこの1カ月で約150のコレクションを取材した。その8割はデジタル上の発表だった。たっぷりと触れて思うのは、デジタルコレクションの成否は見た人がそれをいかに自分事できるかにかかっている。きれいな“だけ”、かっこいい“だけ”の映像は記憶には残るかもしれないが、積極的な拡散は期待できない。だが自分事化された情報は誰かに伝えたくなるものだ。発表後もデジタルの海に沈まず、浮かび・進み続けるには伝播者をどれだけ作れるかがカギを握る。

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