伊勢丹新宿本店(以下、伊勢丹)は本館1階で11月4~17日の期間、ポップアップイベント「伊勢丹宝飾時計箱」を行う。宝飾と時計をミックスする初めての本格的なイベントで、伊勢丹の目利きバイヤーが選りすぐった各ブランドのアイコンとは異なる“影の名品”を集める。ブランドやラグジュアリーブランドの垣根を超えた展示も特徴で、伊勢丹が同イベントのために準備したカタログ内でも自由なミックスコーディネートを紹介している。
伊勢丹は昨年、宝飾と時計売り場をリモデルし、もともと宝飾と同じ4階にあった時計を5階へ移した。上野翔太・三越伊勢丹 クロージング&アクセサリーIグループ マーチャンダイジング部 宝飾マーチャンダイザー(MD)は、「売り場が分かれたことにより薄れた相互のシナジーを取り戻すのがこのイベントの目的だ」と話す。東菜津子・三越伊勢丹クロージング&アクセサリーIグループ マーチャンダイジング部 時計MDも「宝飾と時計の売り場の分離は“好調ゆえ”のものだった。どちらも売り場を拡大したかったがスペースの問題で時計が5階へ移った。宝飾は女性客、時計は男性客が中心だが相互に親和性が高く、一緒に提案することの大切さをあらためて感じた」と続ける。
ラグジュアリーコングロマリットの垣根を超えた展示は業界のタブーとも言えるが、コロナショックがこれを可能にしたという。「困難な状況下にあって資産価値の高い定番アイテムは自ずと売れる」と東MD。上野MDも「向かい風を逆手にとらえて、成果主義ではないイベント、従来とは違うテンションが上がる楽しいイベントを実施したかった。コロナだからこそブランド側からも賛同を得られた」と言う。
これまで宝飾や時計は、“人に見られる”ことを意識して選ぶものだった。しかし、コロナの影響で会食やパーティーがなくなり、自らの視点、価値観で選ぶ機会が増えた。東MDは「名前は知られていないが素晴らしいブランドや名品はたくさんある。それらをピックアップした」という。ジュエリーは「ミキモト(MIKIMOTO)」「ポメラート(POMELLATO)」「レポシ(REPOSSI)」「フレッド(FRED)」など10ブランドから約20点。時計は複雑機構で知られる「アーノルド&サン(ARNOLD & SON)」、国産ブランドの「ミナセ(MINASE)」、ドイツブランドの「ジン(SINN)」など13ブランドから13点をそろえる。
販売価格も10万円以下~700万円と幅広い。東MDは「価格でのセグメントではなく、“隠れた名品”ということにこだわった。ターゲットも“普段は時計を着けない”というビギナーからコアなファンまでを想定する」と話す。1階という立地からショールーミングストア的なもので販売もするが、興味を持った客を4・5階へ送客する。「“敷居が高くとっつきにくい”という消費者に対して、可能な限りハードルを下げてタッチポイントを作るのが目的。まずは、ブランドや商品を知ってもらいたい」と上野MD。会場には、伊勢丹自慢の宝飾と時計のスペシャリストが常駐し、中立的に商品の説明や提案をするという。「調べれば調べるほど好きになるようなブランドばかりだ」と東MD。
前述のカタログは、男性モデルが「ラドー(RADO)」のピンクの時計に「パール(PPEARL)」のリング、女性モデルが「オフィチーネ パネライ(OFFICINE PANERAI)」の大ぶりの時計に「ポメラート」のリングを着用するなどのジェンダーミックスや、母娘ともにリングは「ミキモト」だが母の時計は「クレドール(CREDOR)」、娘は「フランク ミュラー(FRANCK MULLER)」といった世代別の提案など、ユニークさや多様性に富む。上野宝飾MDは、「ステイホームで、時計やジュエリーもカップルや家族でシェアしてもいいのではと思った。いろいろな意味での垣根を外していくことで新しい可能性が見えてくる」と話す。コンサバな宝飾・時計カテゴリーにおいて、このような斬新な提案ができるのも“ファッションの伊勢丹”ならではと言える。各売り場とも王道の売れ筋アイテムに注力する中で“ミックス”にフォーカスしたコンセプチュアルなイベントが、ウィズ・コロナで変わった消費マインドにどのように響くか注目したい。