アダストリアは、既存ブランド内で新規カテゴリー(ブランド内ブランド)の開発を強化している。「コロナ禍でビジネスが縮小傾向の企業は多いが、いつかは下げ止まりがくる。今の間に次の事業の種をまいておくことが大切」と、北村嘉輝取締役は話す。業界内では2021年にかけて商業施設からテナント撤退が相次ぐという予測が広がっているが、「そのタイミングで店舗の大型化ができるように、カテゴリー拡大によるコンテンツの充実に努める」という。今秋上陸し、アダストリアが国内でライセンス運営する韓国発のセレクトショップ「エーランド(ALAND)」に続き、海外のショップやブランドの展開にも意欲的だ。
既存ブランドでの新規カテゴリー開発としては、今春から秋にかけて「アパートバイローリーズ(APART BY LOWRYS)」でルームウエアライン“イーアールエム(E/RM)”、「ベイフロー(BAYFLOW)」でウェルネスウエアの“へレイアム(HEREIAM)”、「ハレ(HARE)」でリメイクアイテム“アールイー(RE:)”、「ページボーイ(PAGEBOY)」のストリートカジュアルライン“ページボーイリム(PAGEBOYLIM)”などを続々開発。一部は店舗でも販売しているが、主に自社ECの「ドットエスティ(.st)」で販売し、分析と修正を重ねている。
新規カテゴリー開発強化のきっかけは、20年3月にマーケティング本部が改編されたこと。同本部内のデータ分析チームが自社の各ブランドのSNSフォロワーのし好や「ドットエスティ」内での顧客の行動などを検証し、各事業部にフィードバックしている。そうした動きは以前から行っていたが、組織改編以降本格化した。「作り手の一人よがりでカテゴリー開発をしても意味がない。データを使い、顧客のライフスタイルや興味があることにいかに深く寄り添えるか、それを商品企画や販促に生かせるかがカギになっている。外部の調査会社を使って同様のデータ分析を行うこともできるが、それだと通りいっぺんのペルソナ分析しか出てこないことが多い。内製化していることの意味は大きい」という。
ECというテスト販売の場があることで、新規カテゴリー開発が容易になったという面も強い。「カテゴリーを広げているとはいっても、むやみやたらに型数を増やしているのではない。ECの予約販売で本当に売れるアイテムが何かを検証することで、実店舗に投入する際も効率のよいカセットが組める。実際に、在庫は昨年よりも少量規模で現在推移している」と、カテゴリーの拡大はサステナビリティの推進にも反していないと強調する。「ブランド内ブランドの数を増やすこと自体が目的ではない。検証・修正の結果、1年前後で継続の可否は判断していく」考えだ。
カテゴリー拡大の延長でアッパー世代向けブランド開発にも注力
今後は、「SC内で撤退テナントが出た際に店舗を大型化していく」考え。特に「ベイフロー」「ニコアンド」「グローバルワーク(GLOBAL WORK)」は大型化を狙っている。また、これまでファッションビルや駅ビル中心に出店してきた「ローリーズファーム」なども、カテゴリー拡大の一環として開発しているメンズやキッズをそろえ、SCに大型店舗を出店していく考えがある。「コロナ禍を受け、他社が実店舗からECへ重点を移すのも理解できるが、逆にこのタイミングでこそ実店舗を強化していくことも大切だ」。
カテゴリー拡大の考え方の延長としては、今秋は60代女性向けの新ブランド「ウタオ(UTAO)」も立ち上げた。「スタディオクリップ(STUDIO CLIP)」店舗内や「ドットエスティ」で販売している。先だって、19年秋には50代向けに「エルーラ(ELURA)」を開発しており、手応えを得たことから現在はSCにブランド単独で7店を出店している。「従来は20~30代向けブランド中心の会社だったが、長く働いているスタッフには40代以上も増えている。アッパー世代向けブランドを作ることでお客さまのニーズに寄り添うとともに、スタッフにもずっと働いてもらえる環境を作る」。
海外のショップやブランドのライセンス展開としては、10月に韓国発「エーランド」の1号店を渋谷に開いた。自社オリジナルのSPAブランドが事業の軸である同社にとって、こうしたビジネスは「エーランド」が初。今後も海外のショップやブランドとライセンス契約を結び、国内やアジア圏に導入し、出店交渉や店舗運営を担っていく。特に注目しているのが中国をはじめとしたアジアのブランドだ。北村取締役は中国事業の舵取りのため、19年6月から上海にも拠点を置いており、現地で築いたネットワークが強み。「海外のショップやブランドが日本に進出する際、出店交渉や物件探しが難航するとよく聞く。その点、アダストリアは国内外で実店舗を約1300を運営している。われわれをアジア展開のプラットフォームとして使ってほしい」。