アバンティ(AVANTI)は、オーガニックコットンの原綿を輸入し糸や生地を製造するほか、自社ブランド「プリスティン(PRISTINE)」では、ウエアや下着、ベビー服、ライフグッズなど幅広いアイテムをメード・イン・ジャパンにこだわって提案している。オーガニックコットンの認知やエシカル消費の啓蒙活動にも尽力してきた同社は、2020年7月期決算でコロナ禍にもかかわらず前年の売上高をクリアした。その要因は、ECに頼りすぎない心の通ったアナログ接客だという。その背景について奥森秀子アバンティ社長に聞いた。
――コロナ禍での前年クリアだが、その要因は?
奥森秀子アバンティ社長(以下、奥森):売上高が12億3200万円で昨年に比べて100万円だが上乗せすることができた。営業利益も5%増で直営店の売り上げ構成比が高くなっている。4月7日の緊急事態宣言発令後、ほとんどの店舗が休業する中、前年の売り上げをクリアすることを最大の目標としてスタッフ一丸となって頑張り結果が出せたことをうれしく思う。好調な要因は、ECの売り上げが4月は前年同月比137%増、5月は同190%増だったのに加え、路面店が健闘した。特に自由が丘店の5月の売り上げは、23日まで休業していたにも関わらず、前年同月比21%増を達成した。通常の営業日の3分1以下で前年の売り上げを超えるのは奇跡的だが、それを起こしたのは顧客だ。
――奇跡が起こった背景は?
奥森:新型コロナ感染が深刻化してきた3月下旬、店舗休業を見据えて急遽下着や布ナプキンなどの定番商品を掲載した10ページのカタログと最新の春夏コレクションを掲載した12ページのカタログを作った。製本まで外注すると納品が遅れるので製本は社内で行い、約500冊を完成させた。急いで作ったのでクオリティーが落ちたのは否めないが、必要だと判断し制作した。それを直営店に配布し、各スタッフが顧客1人1人に手書きの手紙を添えて送付。文面はスタッフが顧客の顔を思いながら書いたもので、不安な気持ちに寄り添い少しでも「プリスティン」が癒しになって欲しいという想いを綴った。それに先駆け、私も顔見知りの50人の顧客に「不安が募る日々ではあるけれど、共に乗り越え、元気にお会いしたい」という手紙を送付した。カタログにはFAX注文シートを添えると同時に、メールでも受注できるようにした。それらを店舗スタッフが回収して商品を発送。ECではないリアル店舗でのこのような小さな努力の積み重ねが売り上げを支えた。
――反響が大きかった理由は?
奥森:暮らしに寄り添うブランドだからこそ、顧客と心を通わせることができる。不安な時だから安心して使える癒される物を買いたい、誰かとつながりたい、支え合いたいという想いに響いたのだと思う。スタッフや私が送った手紙に多くの返事があり、胸が熱くなるような文面に感動した。6月に休業再開してからは、再開と再会を共に喜ぶ感謝の会を催した。その際に、過去に購入して古くなったアイテムを染め直したりリメイクしたりするサービス料金を無料にすることで喜んでもらえた。
――デジタルファーストが叫ばれる中、あえてアナログな販促を打つ理由は?
奥森:もちろんECの強化は不可欠で力を入れていく。ただ、偏りすぎないバランスが必要なのではないかと思う。今回カタログを送付したのは、ECを利用しない年配の顧客ばかりでなく20代や30代も多く含まれている。デジタル化が急速に進んでいるとはいえ、人の温もりや心のつながりは大切だ。
――社長に就任して2年が経つが、今後の目標は?
奥森:行動指針である、売り手良し、買い手良し、作り手良し、まわり良しの「四方良し」の精神をベースに社員全員が笑顔で幸せであることが第一だ。具体的な目標は、30年までに循環型のビジネスを確立させ、物を作るプロセスにおける“廃棄ゼロ・プラスチックゼロ”を目指す。1年先の目標は、種まきから収穫まで携わる日本で育てる綿を「プリスティン」の製品に使用するための一歩を踏み出すことだ。来年4月に、全国の約30の拠点で種まきをスタートし、収穫時には顧客も巻き込めればと考えている。オーガニックコットンに対する需要が高まり、環境問題に対する消費者の知識も深くなっている。その中で35年前からそれに携わるわれわれへの期待値は非常に高い。それに真摯に応えていきたい。