アクロによるメンズの総合コスメブランド「ファイブイズム バイ スリー(FIVEISM × THREE)」や、「シャネル(CHANEL)」のメンズメイクアップラインがデビューするなど、ビューティ市場ではメンズ領域が盛り上がっているように見える。では、このジャンルの情報を扱うユーチューバーは現状をどう捉えるのか?今後さらに拡大させるには企業やメディアにどんなことが求められるのか?10月5日号の「大解剖 ユーチューバー時代」特集では、ジェンダーレスなメイクで人気を集める車谷セナと、大人もまねできるハウツー動画で支持を得る宮永えいとの2人が、メンズビューティの今と未来を語った。(この記事はWWDジャパン2020年10月5日号からの抜粋です)
WWD:美容に目覚めたきっかけは?
車谷セナ(以下、車谷):14歳の時にルックスをいかにキープするか興味を持ち、美容を始めました。年齢を重ねて魅力を増すことに価値を見いだす人もいれば、若々しい見た目を維持することを目指す人もいますが、僕は後者ですね。
宮永えいと(以下、宮永):僕は最近まで美容にまったく興味がありませんでした。以前は都内の美容室で店長を務めていたんですが、仕事に没頭するあまり「宮永さん、疲れてますね」とお客さんに言われたことがあったんです。しかも2週連続で。「サービス業なのにお客さんに気を使わせちゃマズイ」と思って、ドラッグストアでBBクリームを手に取ったのが美容の始まりでした。あくまで身だしなみとして関心を持ちましたね。
WWD:動画配信を始めた経緯は?
車谷:周りに勧められて始めました。最初は物申す系だったんですが、自分の美容の知識を自由に話した動画が伸びて手応えを感じたので、そこに特化していきました。
宮永:身だしなみとしてどんなアイテムが最適か、どうすれば自然な仕上がりになるかを自分なりに考えていた時、「これって動画にしたら需要あるんじゃないか?」と思ったのがきっかけでした。男性の身だしなみに関する情報って、ビジネス目線の記事はたくさんあるのに、日常でまねできるコンテンツは圧倒的に少ないんです。
WWD:動画作りで意識していることは?
車谷:エゴをなくすこと。常に美容について勉強しているのでどんどん詳しくなるのですが、それをそのまま伝えることが視聴者のためになるかはまた別の話。なるべく短く動画をまとめて、ニーズに刺さる情報を凝縮するように意識しています。あと、ドラッグストアなどで10万〜20万円くらい一気に購入して、徹底的に使い込んでから扱う商品を決めます。
宮永:自分自身がペルソナになりきって視聴者のニーズをくみ取っています。先ほど話したように、本来ズボラな性格で美容大好きな人間ではないから、素の自分でいるとアイデアはまったく湧いてこない。でも、“身だしなみ程度に美容を気にする男子”という明確なペルソナがあるので、それになりきると、自分の気付きがそのまま視聴者のニーズに合致するんです。
“メンズビューティ”という言葉では共感されない
WWD:メンズビューティ市場の現状をどう見て、今後をどう展望する?
車谷:盛り上がりはごく一部だけで、一般のレベルにはまだまだ達していません。その要因は、男性が美容を気にしていると「男らしくない」と後ろ指さすような風潮が残っていることだと思います。例えば男性の新入社員がメイクして出社してきたら、先輩社員は面白おかしくツッコむと思うのですが、これって若い人はそんな意識を持っていないのに上の世代が変わってないから起こるんです。でも、カッコイイ芸能人でさえメイクしてテレビなどに出演するんだから、一般人がメイクするのは何もおかしくないんです。
宮永:分かります!あと、メンズビューティっていう言葉も好きじゃない。必ずしも美を追求したいわけじゃないから“ビューティ”と言われてもピンと来ないし、言葉が独り歩きしてネガティブなイメージを持たれかねません。僕が“身だしなみ”という言葉を意識的に使っているのもこれが理由です。欲を言えば、もっと共感できる言葉を生み出したいです。
WWD:もっと盛り上がる可能性はある?
車谷:あります。僕のチャンネルは、昔は男性の視聴者が1割程度だったのですが、最近は3割近くまで増えていて、ニーズの広がりを実感しています。
宮永:僕もユーチューブを始めて1年半でチャンネル登録者数10万を突破したわけですから、ポテンシャルはすごく高い。あとは発信する側の取り組み次第だと思います。例えば、今でこそヘアに関心があることは当たり前で、ワックスは55%の男性が使っていると言われてますが、20年前はワックスを使う人なんていなかったし、美容室で髪を切る人も少なかった。これだけワックス文化が浸透したのは、雑誌「チョキチョキ」が男性のヘアセットを肯定し、イメージアップさせたのが大きく影響していると思う。男性の美容もポジティブなイメージを浸透させられたら、BBクリームがワックスと同じく55%の使用率に達するのも無理じゃないと思います。
車谷:もっと発信者が増えればメンズビューティの認知拡大に寄与しますよね。メディアはもちろん、僕らみたいに個人で発信する人も少ない。「オレが市場を作るんだ」くらいの意気込みでどんどん参入してくれると、もっと楽しい分野になると思う。
WWD:今後の目標を教えてください。
車谷:いろいろやりたいことはあるのですが、まずは去年立ち上げたブランド「ベラベラ」をもっと成長させたい。美容の意識を高めていって、男性にも手に取ってもらえる商品になればうれしいですね。
宮永:僕は現在“大人男子の身だしなみをアップデート”をテーマにブランドを作っていて、それを成功させるのが直近の目標です。フェイスブックに約1300人が参加するクローズドのコミュニティスペースも運営していて、コンテンツとコミュニケーションの場はすでにある。あとは商品作って、僕の周囲で美容の循環を構築したいです。