ファッション

ロンドンの街中に巨大“バーキン”が登場 ファッションが“女性らしさ”に与えるもの

 約2.7mの高さを持つ「エルメス(HERMES)」の“バーキン(BIRKIN)”が、ロンドン・ボンドストリートのフェンウィック(Fenwick)デパート前に設置された。同作品は多くのアートギャラリーが参加するメイフェア・アート・ウイークエンドの一環として10月初旬から展示されている。

 この巨大な“バーキン”を手掛けたのは、大規模なパブリックアートを得意とする、ロンドン拠点に活動を行うギリシャ出身のアーティスト、カリオピ・レモス(Kalliopi Lemos)。作品は「バッグ・オブ・アスピレーション(Bag of Aspirations)」と題され、女性の将来に対する野心、平等、葛藤を詰め込む象徴的な“容器”を表現した。世界的に人気なラグジュアリーブランドである「エルメス」から、最も高価とされる素材やスタイルを選ぶことは制作において欠かせないことだったといい、スチールでレザーを模した。

 同作品は「愛情の道具(Tools of Endearment)」と題したアートシリーズの最新作であり、ほかにもスチール製のコルセットや、ヒールの部分がナイフのようになっているハイヒール、三つ編みの髪の毛の彫刻「ザ・プレイト(The Plait)」がある。シリーズを通してレモスは、社会が位置付ける“女性らしさ”や女性の権利、地位について考えることを促している。

 「見た目で判断されてしまうので、ファッションは女性にとって重荷になっている。私たちは生産的で、良い母親で、ビジネスウーマンでありながら美しくファッショナブルでならなければいけない。とりわけラグジュアリーファッションのアイテムは人を圧迫する。鞄から靴、ドレスまで完璧なものを持っていなくてはいけない。だから『バッグ・オブ・アスピレーション』とタイトルをつけた。これが普通のバッグだったら女性に対するプレッシャーは表現できなかった。相応の価値があるもので、女性が抱える野心や憤りを反映させる必要があった」。

 レモスは柔らかいレザーを演出した作品を現実では力強い迫力を持つよう展示するなど、コントラストと対極性を巧みに使って、21世紀に女性であることから生まれる矛盾に光を当てている。短刀のついたハイヒールの作品では女性が“傷ついている”状態と、自身を“傷つける”ことができることを、ロンドンのリージェンツ・パークに展示されている約6.7mの三つ編みの彫刻では脆さと強さの共存を表現した。

 「これらは女性を艶かしく、優しい、美しい生き物として表すシンボルでもある。ただこれまでと違うのは、自立して“女性らしさ”に対してものを申しているということ。女性が髪を切ることは恥辱とされてきた。しかしこのどっしりと構えた三つ編みは空に向かって伸び、『私はここにいる。そして強い』と言っている。何度かこの作品の前で涙を浮かべている人を見たこともある。特に女性の心を刺激するのだと思う。しかし男性も軍隊や強制収容所で髪の毛を剃ることを強いられてきたことから、共感する人もいる。髪の毛は等しくアイデンティティーと深い関わりを持っている」とレモスは語った。

 彼女はまた彫刻が持つフェミニズムの性質から、作品が誇張的だという男性からのコメントもあると明かした。「男性は私たちが値する以上のものを手に入れたと考え、女性はまだ十分でないと考えている」と言う。レモスはこれまで手掛けたパブリックアートでも、対話を生み出し現状について疑問を投げかけることに重きをおいており、「私たちは日常に追われていて十分にこのような重要なトピックについて語り合えていない」と述べた。

 レモスの彫刻をはじめとするパブリックアートは、この数カ月で人々の交流を生むという重要な役割を持ち始めた。「閉鎖されたギャラリーに入ることへの抵抗から、何カ月もの間アートとの交流を奪われていた。作品を屋外に置くことで再びアートとつながることができた。人々がアートのために心の場所を留めていたという事実に勇気づけられ、生活の中でどれだけアートを必要としているかについて話した」と言う。

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