ファッション
連載 You’d Better Be Handsome

まだ、あなたが知らないニューヨーク最新トレンド おしゃれセックスビジネスが急成長

ニューヨークのファッション業界で活躍するクリエイティブ・ディレクター、メイ(May)と、仕事仲間でファッションエディターのスティービー(Stevie)による連載も第14回。“You’d Better Be Handsome”では、トレンドに敏感なレイチェル(Rachel)も加わって、ニューヨークのトレンドや新常識について毎回トーク。新型コロナと大統領選挙疲れのアメリカではあるが、女性の視点から提案されるおしゃれなセックスビジネスのあれこれについて。

今回のランチは、オーナーの引退により昨年の夏に惜しまれつつも閉店したトライベッカの「アーケード ベーカリー(ARCADE BAKERY)」跡地にできた「フレンチェッテ ベーカリー(FRENCHETTE BAKERY)」でテイクアウト。本連載第1回で紹介したレストラン「フレンチェッテ(FRENCHETTE)」のオーナー2人が、「アーケードベーカリー」のパンをお店で提供していたことから、遺産を受け継ぎたいと再建。「フレンチェッテ ベーカリー」として店名を新たにしつつも前店の雰囲気を引き継ぎ開店直後から客が列をなす。
フレンチェッテ ベーカリー:220 Church Street, New York, NY 10013 Tel 212 227 1787

メイ:旅行はもちろん、海外出張も自由にできなくなって早7カ月。今週は、ロンドンからこのフォトグラファーがとうとう来るから何かプロジェクトがない?みたいな連絡が何本かあった。みんなビザを取ってくるらしい。

スティービー:僕も、移民弁護士にいい人がいるから紹介してあげる、と2日連続で言われた。海外出張に弁護士を雇わないといけなくなる日が来るとはね。

レイチェル:11月3日はとうとう大統領選挙。なんだか自分の力が及ばないものに振り回されることに疲れてきたから、とりあえず選挙は早く終わってほしい。トランプは嫌われているのを自覚しているからか、出身地であるニューヨークを毎回テレビで「ゴーストタウン化している」って言うけど、あれもやめてほしいよね。

スティービー:ところでまだ11月になったばかりなのに、すでにクリスマス商戦が始まっている気がしない?

メイ:売ってしまわないといけない在庫がたくさんあるのでは?すでに大もうけのアマゾン(AMAZON)がプライムメンバーに向けて10月半ばに2日間開催するセール、プライムデー定着してきた感じが。あれって前からやっていたのかな?以前は気付かなかったけど。

レイチェル:プライムデーは、アマゾンが20周年を記念して2015年に始めたイベント。2日間のみだけど結構安くなるから、11月末のブラックフライデーまで待てない人たちにはうれしいイベント。

メイ:私もキンドル(KINDLE)を30%オフで購入!前から欲しかった美顔器も買ってしまった。

スティービー:この冬は、例年より家で過ごす時間が長くなりそうだから、ガジェットをいろいろと準備しておくのは必須だね。

ハイエンド化、オーガニック化が進むセックス関連ビジネス

メイ:コロナでみんなが家にこもるようになる前からだと思うけど、セックス関連のビジネスは成長株よね?

スティービー:例えば、ハイエンドなセックスジェルとか?

メイ:そうそう、ちょっと前にはなかったカテゴリーやプロダクトが次々に出てくるし、買いやすい。最近ではホールフーズ マーケット(WHOLE FOODS MARKET)でオーガニックなセックスジェルが買えるし、なんとホールフーズのプライベートレーベルのジェルまである。もはやボディークリームを買うくらいの気軽さ。

レイチェル:パッケージも、ナチュラルなハンドクリーム風のものから、高級なセラムみたいなものまで。敏感肌用とかもあるし。

スティービー:ユニセックスボディーケアブランドの「ネッセサリー(NÉCESSAIRE)」は最近よく見かけるし、ミニマルなデザインが気になっている。大人気の「グロシエ(GLOSSIER)」の創業メンバーのニック・アクセルロド(Nick Axelrod)が、エスティ ローダー(ESTÉE LAUDER)社のマーケティング部に16年在籍したデンマーク人のランディ・クリスチャンセン(Randi Christiansen)とスタートしたブランド。ボディーウォッシュやボディースクラブにまじって、セックスジェルが売られている。

レイチェル:ある意味トレンドでもあるCBD(カンナビジオールの略。大麻の茎や種子から抽出されているが幻覚性や依存性はなく、不安を鎮めるリラックス効果があると医学的にも認められている成分)入りのセックスジェルも人気みたい。ほかにも、ココアバター、オリーブオイル、ピュアココナツオイルなどでできている、まるでヘルシーなデザートみたいな製品も。

スティービー:パッケージを変えただけかもしれないけれど、セックスブランドの暗いイメージがここ数年で払拭されたのは事実。中身も何が入っているか分からないというところから、すごくクリーンになっている。

メイ:そういえば去年よく分からず泊まったパリのホテル、シナー(SINNER)もセックスがテーマのブティックホテルだった。一見普通のおしゃれホテルなんだけど、ベッドにはセックスピローが置かれ、バスルームにはシャンプーと一緒にセックスジェルが並んでいた。クローゼットの中にはムチまで常備されていたし…。

スティービー:そういえば、テレビドラマシリーズ「セックス・アンド・ザ・シティ(SEX AND THE CITY)」でサマンサが、今はもうない電化製品店ブルックストーン(BROOK STONE)に電動マッサージ器を買いに行くエピソードがあったけど、最初に上映されたのは2002年。当時から、いかにバイブレーターが発展したかがよく分かるエピソードだね。

グウィネスがけん引するセックスポジティブ・ムーブメント

メイ: セックスグッズも美容と健康に役立つなら大歓迎、みたいなオープンな感じは、女優グウィネス・パルトロウ(Gwyneth Paltrow)と、彼女が率いるウェブマガジン兼オンラインショップの「グープ(GOOP))の存在があると言っても過言じゃないよね?

レイチェル:彼女のことを煙たがっている人たち、特に女性が多いようだけど、ウエルネスに関してはオピニオンリーダーであることは確か。

メイ:グウィネス=セックストイのプロモーターという印象さえある。ウエルネスを追求していったら、そこにたどり着いてしまった?

スティービー:そういえば2年前には訴訟があって、「グープ」が14万5000ドル(約1500万円)の罰金を支払ったというのは記憶に新しい。あれも確かセックストイが問題になったような。

レイチェル:セックストイという表現が当てはまるのか微妙だけど、「グープ」のオンラインショップには、“Between The Sheets“というカテゴリーがあって、各種バイブレーターはもちろん、アロマテラピー系のセックスオイル、最近見たらセックスジャーナルからセックスピローまであった。

メイ:訴えられた要因は、卵の形をした翡翠のオブジェ。これを定期的に膣に入れたり出したりするエクササイズをすることで、ホルモンのバランスが整い、生理も定期的になり、尿漏れを防ぐ、と当時は商品説明に書かれていたらしい。まったくのでたらめではなさそうだけど。以前からある骨盤底筋を鍛えるケーゲルエクササイズとかと同じ原理では?

レイチェル:100%天然由来の成分を使用し合成物を含まない香水ブランド「ヘレティック・パルファム(HERETIC PARFUM )」の創業者兼調香師のダグラス・リトルと友人のグウィネスは、衝撃的な名前のキャンドルを共同制作。その名も「ディス・スメルズ・ライク・マイ・ヴァジャイナ(This Smells Like My Vagina)」75ドル(約7800円)。そんな名前とは裏腹に、 ジェラニウム、ベルガモット、杉にダマスクローズなどがアクセントとなる、洗練された温もりのある香りのキャンドル。販売直後に完売し、再販を求める多くの声が上がり今でも販売している。

スティービー:ただ科学的根拠を立証するのは難しい。同じことを言っている会社はたくさんあると思うけど、グウィネスが有名人だから攻撃されたのでは?でも結果的にはネガティブキャンペーンというか、これで彼女はこのジェードエッグをたくさん売ったと思うよ。

レイチェル:ジェードエッグは現在もサイトで販売中。それをチェックしているときに見つけたんだけど、ネックレスにもなるおしゃれなバイブレーターまである。

メイ:「グープ」は、読み物の中にウエルネスのセクションがあり、その中に「フィットネス」「マインドフルネス」「スピリチュアリティー」とかと並んで「セクシャルヘルス」がある。セックスセラピストや科学者が真面目に得意のトピックについて語っていたり。

スティービー:そういえば「ネットフリックス(NETFLIX)」のシリーズ「ザ・グープ・ラボ(THE GOOP LAB)」が今年の頭に放映された。エピソードが6つあって、ヒーリング、若返り、エネルギーなどなど、深く突っ込んでいてどれも興味深かった。

レイチェル:グウィネスを含め、「グープ」のスタッフが体を張って、いろんなプロからアドバイスをもらうという内容。科学的根拠に欠けると一部からは問題視されていたけれど、エネルギーヒーリング、アンチエイジングダイエット、そして女性のセクシャリティーなど、科学的根拠があるなしは別にしても、知りたいトピックばかり。私はけっこう共感したし、実際にこの人に診てもらいたい、みたいな各種ヒーラーたちも登場していた。

メイ:「私たちの快楽」エピソードでは、オーガズムはストレス低下、食欲の調整、睡眠の改善にも効果的、としめていたから。科学的な根拠がなくても、信じる人には効くものは効くわけだし。現代の宗教みたいなものでは。奇妙なトレンドとも言える。

スティービー:セックスポジティブ・ムーブメントのいちばんのポイントは、女性視点で語られ、モノが作られていること。女性の体だから当たり前のことなのに、長い歴史を振り返ると主に男性視点で語られてきたカテゴリーだから。

女性が活躍するフェムテック産業

メイ:「グープ」は、グウィネスと同年代の40代あたりが中心かと思うけど、例えばアーバンアウトフィッターズ(URBAN OUTFITTERS)とか、ジェネレーションZ世代が通うような店にも、低価格帯のカラフルなセックストイが並んでいる。

スティービー:シンプルなデザインで注目されている「ダム(DAME)」は、カテゴリーがセックストイというだけで、おしゃれガジェットのようなプロダクトデザイン。創設者の女性二人は、20代半ばでブランドを立ち上げた。コロンビア大学のマスターを持っているレキサンドラ・ファイン(Alexandra Fine)と、マサチューセッツ工科大学出身のエンジニア、ジャネット・リバーマン(Janet Lieberman)のミッションは、女性と男性の快楽の差を縮めること。

レイチェル:頼もしい!快楽系のことだけではなく、オーガニックの生理用品はもちろん、経血を吸収する下着「シンクス(THINX)」、経血を膣で受けるディスクを作る「フレックス(FLEX)」など、女性の生理事情もすごく変化してきている。

メイ:何十年も、ナプキンかタンポンの選択肢しかなかったカテゴリーなのにね。

スティービー:最近のフェムテック系の広告ビジュアルは洗練されていて、地下鉄の駅全体をハックするステーションドミネーションをやっていて、スタートアップの他のブランドと重なるところがある。

レイチェル:女性のセクシャルウエルネスをサポートするアプリなども急ピッチで浸透している。そういうところでは、必ずと言っていいほど、女性CEOが活躍しているのもポイント。

メイ:フェムテックという分野は最近のものだと思うけど、どれも女性のセクシャリティーを前向きに表現し、ハイデザイン、ハイテクなライフスタイルに合わせているのが特徴的。しかもサステナビリティも考慮されている。

スティービー:時代とともに進化していて、まだまだ伸びしろがあるカテゴリー。

メイ:例えば「クルー(CLUE)」というアプリは、生理と排卵日を教えてくれるだけでなく、自分の体のパターンを割り出してくれるというもの。出産に関連したもの、乳児のいるママ向けの授乳のアプリなども充実しているみたい。ちょっと前までは、紙に書いていたようなことを、全部アプリに管理してもらって分析してもらえるというのは便利。

レイチェル:アプリも便利だけど、自分にとって必要なもの、胸に響くデザインを選びとっていける消費者でいないといけないよね。

メイ/クリエイティブディレクター : ファッションやビューティの広告キャンペーンやブランドコンサルティングを手掛ける。トップクリエイティブエージェンシーで経験を積んだ後、独立。自分のエージェンシーを経営する。仕事で海外、特にアジアに頻繁に足を運ぶ。オフィスから徒歩3分、トライベッカのロフトに暮らす

スティービー/ファッションエディター : アメリカを代表する某ファッション誌の有名編集長のもとでキャリアをスタート。ファッションおよびビューティエディトリアルのディレクションを行うほか、広告キャンペーンにも積極的に参加。10年前にチェルシーを引き上げ、現在はブルックリンのフォートグリーン在住

レイチェル/プロデューサー : PR会社およびキャスティングエージェンシーでの経験が買われ、プロデューサーとしてメイの運営するクリエイティブ・エージェンシーで働くようになって早3年。アーティストがこぞってスタジオを構えるヒップなブルックリンのブシュウィックに暮らし、最新のイベントに繰り出し、ファッション、ビューティ、モデル、セレブゴシップなどさまざまなトレンドを収集するのが日課

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