イタリアのシューズブランド「セルジオ ロッシ(SERGIO ROSSI)」は、4月に新型コロナウイルスに感染して死去した創業者に敬意を表する復刻コレクション「グラッツェ セルジオ(Grazie Sergio)」をスタートする。まずは1969年のレザーパンプスをはじめ、2003年までの全10モデルをピックアップ。工房で復刻し、当時のロゴをプリントして、特別なパッケージに包んで販売予定だ。価格帯は、通常のコレクションと同水準。以降も10型のペースで、1度だけの復刻を続けるという。リカルド・シュット(Riccardo Sciutto)=セルジオ ロッシ最高経営責任者に、その狙いを聞いた。
WWD:「グラッツェ セルジオ」をスタートする理由は?
リカルド・シュット=セルジオ ロッシ最高経営責任者(以下、リカルドCEO):一番の理由は、4月に亡くなったマエストロ(芸術家の意味。セルジオ・ロッシ創業者を指す)の功績、そして彼が生み出した素晴らしい靴を“セレブレート”したかったから。彼とアーカイブについては、常々なんらかの形で「祝いたい」と思っていたが、亡くなって、決心した。彼とシューズのストーリーを後世に正しく語り継ぐことができるのは、私たちしかいない。会社には6000足以上のアーカイブがあり、私もたくさんの私物を持っているが、彼による1970年代のシューズは今だって身につけられる素晴らしいもの。トライアングルのヒールなど、私たち以外では再現できない名作も多い。だから1回だけ復刻して、当時のロゴとスペシャルパッケージで販売し、完売してしまったら、それでおしまいというプロジェクトに挑むことにした。「1回だけの復刻」「売り切ったらおしまい」という、通常とは異なるビジネスモデルを採用するのは、ブランドとして、もっと「勇敢になるため」。ミスしても、次に改善すれば良い。「1度だけの復刻」や「売り切ったらおしまい」なら、攻めることができるだろう。
WWD:6000足のアーカイブから、どんな基準で最初の10足を選んだ?
リカルドCEO:60年代以降、各年代のシューズを満遍なく選んだ。とはいえ、90年代は「ゴールデンピリオド」。名作が多すぎて、絞りきれない(笑)。だから91年から2000年のシューズをたくさん選んでしまった。69年のシューズは誕生から50年以上経過しているのに色褪せていないし、ビーズのフリンジを無数にあしらったアヴァンギャルドなシューズは今見てもエッジーだ。履き心地を考え、新しい技法を搭載した商品もある。ただ色使いはオリジナルと変わらない。
WWD:新型コロナウイルスの蔓延によるロックダウン、創業者の死を乗り越えた後ゆえ、工房の職人も「やる気」を見せたのでは?
リカルドCEO:その通り。工房の職人は、すぐにハートをアツく燃え上がらせてくれた。中には、「昔、先輩が作っているのを見たことがあるシューズだ」とか「私の家族が、このパンプスを手掛けていた」なんて職人もいて、リアクションは総じてポジティブだ。自分の過去、そして家族と「グラッツェ セルジオ」がリンクするスタッフにとっては、ロックダウンで止まっていた時計が、大きく動き出したような感覚さえあるだろう。そんなスタッフを見て、「グラッツェ セルジオ」は創業者のセルジオ・ロッシのみならず、あらゆる人を“セレブレート”する素晴らしいプロジェクトになると確信した。自分や家族の歴史が回顧できるなんて、イタリアで長年モノづくりをしてきたブランドらしいプロジェクトだ。