ファッション

ビューティ記者の「ファッションのこと知らない」をファッション記者が回答 コレクションやショーは何のため?

 11月9日号の「WWDジャパン」では、ビューティ業界を取材する記者からファッションに関する疑問を募集し、ファッション記者が回答する「往復書簡」を実施した。ファッション業界を熟知する記者でもハッとするような新鮮な疑問や質問が多く集まった。ショーの歴史から何故読みづらいブランドが多いのなどエンドユーザーに知ってほしい質問・回答をお届けする。(ファッション記者の質問はこちら)

Q.1:「ジル・サンダー(JIL SANDER)」のルーク・メイヤー(Luke Meier)=クリエイティブ・ディレクターは元「シュプリーム(SUPREME)」のヘッドデザイナーだったなどユニークな経歴だが、そのほかにも面白い経歴のデザイナーがいる?

A.1;大半のファッションデザイナーは他ブランドで下積みの経験を持っていることが多い。職種を超えたデザイナーはファッションエディターとしてキャリアをスタートさせた「ケイト・スペード ニューヨーク(KATE SPADE NEW YORK)」の創業者のケイト・スペード(Kate Spade)や、イギリス発「ハウス オブ ホランド(HOUSE OF HOLLAND)」のヘンリー・ホランド(Henry Holland)ら。ロンドン・ファッション・ウイークに参加するウクライナ発の「ナターシャ ジンコ(NATASHA ZINKO)」のナターシャは元弁護士だった。

Q.2:ビューティ業界ではチャイボーグメイクなど、中国発のビューティトレンドやブランドに注目が集まっているが、ファッション業界では?

A.2:中国ではインスタグラムなどのSNSの使用が規制されていることから、現地のファッションブランドの情報も少なく、日本には広く入ってきていないのが現状だ。しかし、中国発のショートムービープラットフォームのTikTok(ティックトック)では、中国のストリートスタイルを紹介するアカウントが話題であることから今後、中国発ファッションブランドが注目される可能性も高い。海外のファッション・ウイークに参加する中国人デザイナーズブランドは「ディオール(DIOR)」のクチュールで経験を積んだ「フーシャン ザン(HUISHAN ZHANG)」、ネットフリックスのファッションコンペ番組「ネクスト・イン・ファッション」に出演した「エンジェル チェン(ANGEL CHEN)」などがある。

Q.3:ファッションブランドのデザイナーをメインにした映画が度々公開されるが、こういった映画を製作する意図や目的は?

A.3:従来見ることのできない舞台裏などを公開し、ブランドやファッション業界全体の発展につなげる目的がある。ドキュメンタリー映画では、「ドリス・ヴァン・ノッテン ファブリックと花を愛する男」、「ヴィヴィアン・ウエストウッド 最強のエレガンス」などがデザインプロセスからビジネス、デザイナーのプライベートまで赤裸々に映し、資料性の高い映像作品だ。また伝記として、ココ・シャネル(Coco Chanel)を題材にした映画「ココ・アヴァン・シャネル」、イヴ・サンローラン( Yves Saint Laurent)をモデルにした「イヴ・サンローラン」などデザイナーの偉業を称えつつ、ドラマチックな人生を再現した作品もある。

Q.4:コレクションやショーって何のため?いつからある?

A.4:起源は19世紀、パリの高級仕立て服(オートクチュール)店が、店員に新作を着せて顧客に見せたことに始まる。1970年代以降は、既製服(プレタポルテ)が主流となり規模を拡大したが、ショーの目的がビジネスであることに変わりはない。 “ファッション・ウィーク”に参加するブランドは、バイヤーには買い付けを、メディアには報道をそれぞれ期待して招待をする。ショー形式が長年採用されているのは、服の魅力を伝えるのに効果的かつ効率のいい方法だから。ただし今年は、コロナ禍で多くのブランドがデジタル上で新作を発表し、まさにその意義が問い直されている最中だ。

Q5:たまにランウエイにアクティビストたちが勝手に乱入したりする。そのようなアクティビストに対してメゾンはどのような対応をとるのか?そもそも、彼らはどうやってショーに入れている?

A.5:以前は、動物保護団体が毛皮反対を訴えるため全裸でカメラマンの前に飛び出すなど“意思”ある活動家がランウエイに乱入するケースが多かったが、ここ数年はお騒がせユーチューバーが“ネタ”として乱入するケースが目立っている。その多くは招待状やスタッフパスを偽造するなどして紛れ込むようだ。ラグジュアリーブランドの場合、ショー会場には屈強かつ一流のセキュリティーが配置されており、彼らはこういったトラブルを前にしても大騒ぎすることなく静かに乱入者を取り押さえ、会場の外へと追い出す。そのため会場にいると乱入者に気がつかないことも多い。

Q.6:「PLST」「N°21」「A.P.C.」など、ファッションブランドって読みづらい名前が多いの?

A.6:ファッションとは主に西洋社会から日本に持ち込まれた“洋服”文化を指すので、ブランド名は自然と英語やフランス語、イタリア語のブランド名が多い。特に「ジバンシィ(GIVENCHY)」や「エルメネジルド ゼニア(ERMENEGILDO ZEGNA)」などフランス人やイタリア人の名前を冠するブランドは私たち日本人には読みづらいのは仕方がないこと。ビューティブランドでも一緒では?そして、日本のブランドでもアルファベットを使って、インターナショナルでオシャレなイメージを演出することも。簡単に読めないブランドの方が意外に記憶に残ったりすることも。

Q.7:ビューティ業界ではサステナビリティを意識した企業やブランドの動きが活発だが、ファッション業界ではどういった取り組みがある?

A.7:どんな原料を使いどんな工場で誰が作っているかなど、消費者がわかるような“透明性”のある経営にシフトしている企業が増えている。デザイン面でいえば、作って売って終わりの直線的なビジネスから、限りある資源を効率よく使って生産し、再生産や再利用を前提としたモノ作りで廃棄物を減らし、地球環境への負荷を減らす“循環型”デザインへシフトしている。例えば、「アディダス(ADIDAS)」はTPU単一素材で作ることで100%リサイクル可能なスニーカー”フューチャークラフト.ループ“を来年発売する。使用済みのスニーカーを回収してそのスニーカーを原料にして新たなプロダクトを作ろうという試みだ。「ナイキ(NIKE)」は、生産工程で出る廃棄物の再利用を推進し、廃棄物をデザインに組み込んだ”スペース ヒッピー“を今年発売しました。

Q.8:ファッションとヘアスタイルは切り離せない関係のはず。しかしファッション業界はあまりへアサロンに注目していない気がする。例えば、ヘアサロン業界最大のコンテスト「JHA」ですら、ファッション業界からはほとんど注目されていない。それはなぜなのか?

A.8:個人的には「JHA」などのアワードには、適切な人をできるだけたくさん巻き込むことが重要だと考える。審査員のラインアップを見ると、ヘアメイクアップアーティストや美容師がほとんどで、メディアもヘアカタログや美容雑誌が名を連ねている。例えば、ここにコレクションブランドのデザイナーやファッション誌、そのファッション誌がファッション的な視点で審査した賞などを設けるのはどうだろうか。きっと、ファッション分野からの注目度ももっと上がるだろう。

Q.9:東京のファッション・ウイークを盛り上げたい。ファッション業界だけで盛り上げるには限界があるのでは?ここはメイク業界とヘア業界がもっと深く絡み、東コレを「最新のファッション・メイク・ヘアを提案する場」として明確に位置づけ、ドラスティックに変える(例えば全てのショーをヘアサロンで行うとか)しかないと考えるが、ファッション業界の人はどう考えているのか?

A.10:東京のファッション・ウイークは、近年は注目が高く集客のあるブランドが発表の場を海外に移したことで、世間からの興味関心がますます下がりつつある。旧来は服を見せてジャーナリストが批評し、バイヤーが買い付けるというBtoBの場で、主役はあくまで服そのものだった。しかし昨今は、SNSなどの発達でBtoCの側面も強くなり、消費者にいかに世界観を発信するかが大事になった。服をより魅力的に見せるメイクとヘアとの深い関わりは今後より重要になるだろう。コロナ禍でデジタル上での発表が増え、これまで裏方としての役割が大きかったメイクやヘアの存在感は増しており、今後は業界同士があらゆるかたちで協業していく期待はある。ただし、あくまでコレクションを売るビジネスの場という目的を忘れてはいけないと考える。

Q.11:今注目のD2Cブランドは?

A.11:ウィメンズでは、マークスタイラー出身で「アメリ(AMERI)」「アメリ ヴィンテージ(AMERI VINTAGE)」を率いる黒石奈央子・代表兼ディレクターと、同じくマークスタイラー出身の藤井亮輔ドットワンCEOの率いる「エイミーイストワール(EIMY ISTOIRE)」が2大ブランド。いずれもインスタグラムなどを駆使して設立から4〜6年で年商30億円に達している。ポイントは、リアル店舗と同等、あるいはそれ以上の顧客体験の提供を掲げている点。また、両ブランドともファッションビルなどに3〜4店舗のリアル店舗も出店している。

Q.12:最近ランニングシューズなどでは新素材や新機能を搭載したシューズが登場しているが、研究や開発期間はどれくらいなのか?

A:新素材や機能開発には3年はかかっていると思われる。その期間でテクノロジーの開発に加え、マーケティング戦略も立てている。新機能が搭載されたモデルは従来よりも高価なケースがほとんどのため、足数をある程度絞ってトップ層に販売することで話題性をつくり、その後に廉価版を主に一般層に向けて発売するケースが定番化している。そのためコンセプトモデル発表の段階で複数のモデルが完成している必要があり、相応の準備期間を要する。

Q.13:コロナ禍で売れているアイテムは何?

A:リモートワークで“おうち時間”が増えたため、消費者の関心も自然と外より内へ動いている。ルームウエアやオンライン会議できちんと見えるトップス、ニットなどが好調だ。インナーではナイトブラが絶好調。自宅で快適に仕事ができる便利グッズ(チェア、クッション、整理バッグ)やガーデングッズなども売れている。

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