9月28日〜10月6日に開催された2021年春夏パリ・ファッション・ウイーク(パリコレ)を終えて、リアルショーとデジタル要素を織り交ぜて発表したブランドはリアルショーを行わなかったブランドよりも世界的に健闘したことが明らかとなり、ランウエイショーの重要性が浮き彫りとなった。また、コロナ禍下で新たな手法を取る機会が増えたことにより、最低でも5分以上の動画が好まれることや、インフルエンサーのリモート参加に効果があることなども明らかとなった。
データアナリティクス企業、リッスンファースト(LISTENFIRST)のトレーシー・デイヴィッド(Tracy David)=チーフ・マーケティング・オフィサーは、「今年のSNS上でのパリコレへの関心度合いは昨年に比べて大きく減少しており、SNSで反響が大きかったのは最小限ながらもプレゼンテーションを行ったブランド群だった。当面の間パンデミックが続くことを考慮すると、今後のファッションイベントでSNSの関心を集めるのは、安全かつクリエイティブな方法でスペクタクルなランウエイショーを復活させることのできるブランドということになるだろう」とコメントした。
メディアのモニタリングや分析を行うDMRグループ(DMR GROUP)が算出したソーシャルメディアでのキャンペーンにおける価値を意味するEMV(Earned Media Value)の値を見ると、21年春夏シーズンに行われた4つファッションウイーク(ニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリ)のうちEMV値が最も高かったのはパリコレで、SNSを含むウェブ上での視聴数も最高値を記録した。
フランスオートクチュール・プレタポルテ連合会(Federation de la Haute Couture et de la Mode以下、サンディカ)は、ファッション、ラグジュアリー、ビューティ分野のデータテクノロジー企業、ローンチメトリックス(LAUNCHMETRICS)と提携して、サイトの見やすさやマガジンセクションの流動性の向上やスケジュールページの明確化を図っており、今回のパリコレではデジタルプラットフォームの訪問者数が7月に行われたオートクチュール・コレクションおよびメンズ・コレクションを合わせた20万2000よりも多い23万を記録し、ページビューも7月の49万から60万6000に上昇した。
サンディカのパスカル・モラン(Pascal Morand)会長は、「デジタルプラットフォームによって影響力が拡大し、パートナーシップの有効性も見られた。公平な競争の場が生まれたことで、比較的目立たないブランドも含め、全てのブランドが新しいシステムを支持している。パリのファッションには公平性という原則がある」と語った。
メディアへの影響値が最も高かったのはランウエイショーを行った「ディオール」
一方で、ローンチメトリックス(LAUNCHMETRICS)が割り出したメディアへの影響度合いの試算額を表すMIV(Media Impact Value)のトップはまたも「ディオール(DIOR)」で、以下「ルイ・ヴィトン(LOUIS VUITTON)」「シャネル(CHANEL)」と続く。なお、同3ブランドを含む18のブランドがゲスト数を大幅に抑えた上でランウエイショーを開催している。
ローンチメトリックスのアリソン・ブランジ(Alison Bringe)=チーフ・マーケティング・オフィサーは、「ファッション・ウイークのあるべき姿や業界における絶対的な歴史あるイベントという点を踏まえても、パリとミラノは最も守られている存在だ。素晴らしいことに、わずか数カ月でデジタル技術の活用化が進み、パンデミックのさなかで窮地に立たされながらも、ファッション業界は創造性を発揮することができた。パンデミックを通じていくつかの大きな課題に対する答えは見つかったが、ブランドにとっては創作活動のスタート地点に過ぎない。ラグジュアリーブランドは、インスタグラム(INSTAGRAM)にショーの画像を何枚も投稿するのではなく、厳選したアプローチ法を選択するなどしてSNSを上手く活用し始めている」とコメントした。
「ディオール」の公式インスタグラムで最も大きな反響があったのは、韓国のガールズグループ、ブラックピンク(BLACKPINK)のジス(Jisoo)の画像で、MIVは20年秋冬ショーで最も反響の大きかった投稿と比べて2倍以上となる61万4000ドル(約6385万円)を記録した。なお、今シーズンの「ディオール」の投稿全体のMIVの平均値は33%上昇している。
ソーシャル・エンゲージメントのトップは「シャネル」と「ルイ・ヴィトン」
リッスンファーストが明らかにしたソーシャル・エンゲージメント(社会的関与)のスコアランキングでは、トップが「シャネル」と「ルイ・ヴィトン」、それに続いたのがデジタルでの発表を選択した「バレンシアガ(BALENCIAGA)」だ。4位以下は順に「バルマン(BALMAIN)」「ジバンシィ(GIVENCHY)」「ロエベ(LOEWE)」「エルメス(HERMES)」「ケンゾー(KENZO)」「クロエ(CHLOE)」「ミュウミュウ(MIU MIU)」と続く。
また、21年春夏のパリコレ開催期間に当たる9月28日〜10月6日にかけて、#PFWのハッシュダグ付きで投稿されたツイートは1万8192件にとどまり、前年度の9月23日〜10月1日にツイートされた13万9403件を大きく下回る結果となった。
「シャネル」では、ブランド名をLAのランドマークでもあるハリウッドサインに模した写真と共に、インスタグラムのストーリーズで21年春夏ショーのライブ配信を行う旨を告知した投稿に対する反響が最も大きく、約22万件のいいねを獲得した。
また「シャネル」は、SNSで影響力のある著名人たちと提携したブランドの1つでもある。インフルエンサーはリモートでショーに参加するユーチューブ(YOUTUBE)動画を作成しており、ティックトック(TikTok)で人気を博したディクシー・ダメリオ(Dixie D’Amelio)が、同じくインフルエンサーのカミラ・コエーリョ(Camila Coelho)をゲストに迎えたユーチューブ動画は約350万回も再生されている。
ユーチューブは、今シーズンのニューヨーク、ロンドン、ミラノ、パリのファッション・ウイークで209のショーのホストを務めたが、そのうち半数以上の108のブランドは、ユーチューブに動画を投稿するのが初めてだったという。
ブランドはユーチューブのプレミア機能を使ってショーの動画にフラグを立て、コメントやライブチャットを通じたオーディエンスとの交流を持つことでエンゲージメントを高めることもできる。ユーチューブを効果的に利用するためには、動画のタイトルを検索エンジン向けに最適化することや、最低5分以上の動画を作成することも重要だ。また、試聴回数の多かったブランドは、ショーの動画の他にもバックステージ映像をはじめとした3〜5本のコンテンツを追加で作成していた。
サンディカのパートナーでもあるユーチューブのファッションおよびビューティ部門のトップ、デレク・ブラスバーグ(Derek Blasberg)は、「多くのプラットフォームは即時の試聴回数に注目するが、ユーチューブのファッションショー動画の総再生回数の半数以上は、動画がアップロードされてから少なくとも1カ月後のものだ。例えば、2月にアップロードされた『グッチ(GUCCI)』の20年秋冬ショーの1週目の再生回数は数十万だったが、半年後には360万回になっていた。再生回数のチェックは、動画が一定期間視聴されることを考慮してシーズンの後半に行なっている。ユーチューブでファッションショーを試聴する人は、ショーを最初から最後まで試聴し、全てのルックを見たいと思っている。リアルなショーを体験したいということだ」と語った。
「またブランドにとって、インフルエンサーの多くがショーに来ることのできない状況下で動画を拡散するのは難しい。そんな中で、リモートで対応するブランドやクリエイターを見てうれしく思った。ブランドは従来に比べてコントロールの力を弱め、クリエイターの作品により大きな信頼を寄せている。今の方が明らかに簡単だ。パンデミックの影響でファッション・ウイークの勢いは削がれているが、人気を博して間もないインフルエンサーだけでなく、これまで目立たずにいたモデルやデザイナーにとっても活躍の場が与えられている。インフルエンサーやモデル、デザイナー自身を含む私たち全員が、これまで気付いていなかった何かに気付き始めたのではないか」とコメントした。