米サンフランシスコ発のスタートアップ企業アンスパン(UNSPUN)は、“地球上の二酸化炭素排出量を最低でも1%削減すること”を企業目標に掲げ、3Dボディースキャンで資源の無駄を最小限に抑えた完全オーダーメイドのジーンズを製造する技術を開発した。2017年にH&Mファウンデーションの「グローバル・チェンジ・アワード(Global Change Awards)」を受賞。今年11月には、H&M傘下のデニムブランド「ウィークデイ(WEEKDAY)」とのコラボアイテムを発売した。共同創業者のウォルデン・ラム(Walden Lam)に話を聞いた。
WWD:アンスパンの取り組みについて教えてほしい。
ウォルデン・ラム=アンスパン共同創業者(以下、ラム):アパレル業界が抱える課題の一つが在庫だ。売れ残った商品や売り場にすら出なかったサンプルなどが大量に廃棄されている現状を解決するためにわれわれは、消費者の確かな需要を基盤に商品を製造する仕組みを作れないかと考えた。そこで僕たちは主に2つのプロジェクトを動かしている。1つは消費者がアプリで体をスキャンして、好みのデザインのジーンズを作ることができるソフトウエアだ。価格は200ドル(約2万円)で、オーダーから2~3週間のうちに届く。2つ目は3Dテクノロジーを活用した織機だ。従来の製造工程では生地の約15%が無駄になっていると言われているが、3Dテクノロジーを活用することで、資源の無駄を最小限に抑えられる。
ラム:最初はアンダーウエアやスイムウエア、スーツなどでも試作品を作っていた。しかし約300人の消費者を対象にアンケートしたところ、75%の人がフィットするジーンズを見つけるのが大変だと回答した。消費者の需要が最も高いうえ、デニムは環境負荷が高いのでこの分野に介入することで大きなインパクトを与えられると考えた。
WWD:開発で難しかったことは?
ラム:アイテムを決定してから3カ月後には香港でポップアップを開いた。僕たちはカスタマイゼーションの技術に集中しすぎてしまって、実際のはき心地や見た目をないがしろにしていたり、バックヨークのないものを作ってしまったりと課題はたくさんあった。
WWD:アドバイザーはいるか?
ラム:実は「リーバイス(LEVI’S)」の元グローバル・ヘッド・デザイナーのジョナサン・チャン(Jonathan Cheung)がアドバイザーとして参加してくれることになった。僕たちのチームのケビン・マーティン(Kevin Martin)がリンクトインでジョナサンにコンタクトしたところから始まって、ジョナサンに「是非、3Dスキャンを体験してみてほしい」と声をかけたら僕たちのサンフランシスコのショールームに来てくれた。僕たちのチームにはデニムのバックグラウンドを持つ人がいない。それなのにデニム界では神のような存在の彼に穿いてもらえることになり、みんなとても緊張した。2週間後にデニムを届けたら、彼はとても気に入ってくれてアドバイザーとして参加してくれるようになった。来年には彼が監修した商品ラインもローンチする予定だ。
WWD:あなた自身が環境問題に興味を持ったきっかけは?
ラム:大学を卒業した頃に、UNが主催する気候サミットに参加した。そこでもう僕たちには時間が残されていないことに気付いた。一方で消費者にサステナビリティを意識しながら買い物をするように説得することは非常に難しい。でも健康に良い食品が美味しかったらみんながそれを食べるように、“環境に良いもの”を“欲しいもの”に作り変えることができれば自然にみんなが環境に良いものを選択するようになると思った。アンスパンではき心地がよく、穿いていると自信が持てるようなジーンズを作ったのはそのためだ。
WWD:オリジナルの織機は実際に使用できる?
ラム:サンフランシスコではすでに稼働しているが、現在試作中だ。来年中にはこの織機で作る商品ラインアップをローンチしたい。
WWD:実際どれくらい売れている?
ラム:18年から本格的な販売を開始し、年間1000本は売れている。僕たちのチームには大きなマーケティングチームはいないので、サステナブルなイノベーターたちのコミュニティーを中心に口コミで広まっているようだ。
WWD:どのような人たちに人気?
ラム:僕たちの顧客には3つのタイプがいる。まずは環境意識の高い人。需要ベースで資源の無駄を最小限にしようというアンスパンのサステナビリティの部分に共感してくれる人。このような人たちから生地や環境負荷についてよく問い合わせがある。2つ目は体型に悩みのある人たちだ。アンスパンはそれぞれのユニークな体型をリスペクトしている。見た目は“ノーマル”な体型に見えても、実はフィット感に課題を持つ人は多い。3つ目は未来のファッションデザインに興味がある人や起業家たちだ。
WWD:今後の目標は?
僕たちの目標は地球上のCO2排出量を最低でも1%削減することだ。より大きなインパクトを生み出すために、他のブランドとも積極的にコラボしていきたいと思っている。