「WWDジャパン」11月9日号は「無印良品」特集です。コロナによる休業明け以降、食品をフックに国内や中国で急回復を見せている「無印良品」を、記者3人で多面的に取材しました。読者2000人以上に聞いた人気商品ランキングや「無印良品」に望む改善点、「無印良品」が地方や郊外で模索する新しい小売業のあり方、「無印良品」の理念の発信者である金井政明・良品計画会長のインタビューなど、盛りだくさんの内容になっています。本紙詳細はこちらから。ここでは、担当記者3人による紙面作りの振り返りや取材こぼれ話を前後編でお届けします。
【座談会参加者】
林芳樹:デスク、ファッション担当記者
五十君花実:ニュースデスク、ファッション担当記者
中村慶二郎:ビューティ担当記者
林芳樹(以下、林):特集お疲れさまでした。まずは最大で計2850人にご協力いただいた(※設問により回答者数が異なる)アンケートから浮かび上がった、「私にとっての『無印良品』の定番といえばコレ!」ランキングを振り返りましょうか。アンケートの取りまとめを担当した中村さんはどんなことが印象に残っていますか。
中村慶二郎(以下、中村):「WWDジャパン」のメールマガジンやホームページ経由で募ったアンケート回答と、インスタグラムやツイッター経由の回答を合算しましたが、メルマガやホームぺージ経由とSNS経由の回答ではランキングに顕著な差がありましたね。メルマガ、ホームぺージ経由では収納用品を推す声が圧倒的だったんですが、若年層が多いSNS経由では収納用品は10位以下。その代わり、化粧水やレトルトカレー、お菓子の3つをあげる声が非常に多かった。年代によって人気商品が違うということですね。また、「『無印良品』に望む改善点」という記述式の設問では、ファッション商品に対する要望が非常に多かったですね。
五十君花実(以下、五十君):「WWDジャパン」はファッション関連職種に就いている読者が多い、ということも多分に関係しているのでしょうが、確かに「ファッションは価格を少し上乗せしてもいいから質を上げてほしい」という声は何件かありましたね。もちろん、「もう少し価格を抑えてほしい」という声もありましたが。
中村:「ユニクロ(UNIQLO)」と比較して、「デザイン性を高めてほしい」「カラー展開をもっと増やしてほしい」といった要望を書いているケースも多かったです。最終的にファッション、ビューティ関連では化粧水がランキング3位に入り、ファッションアイテムは6位の靴下が最高位。5位とは1票差だったので、惜しかったですね。校了日に、このアンケートページを編集部の他のメンバーが見ながら喋っていた内容が僕はすごく象徴的だなと思ったんですが、「俺は『無印良品』の商品なんて1つも持っていないよ」みたいに言っている人でも、深く突っ込んでいくと「あれも『無印良品』だ」「これもそうだった」みたいに気付くケースって多いですよね。
林:確かに今回改めて自分の生活の中の「無印良品」を数えてみたら、忘れていたけど使っていたということがすごく多かった。バスマットとかバスタオルとか。使っているうちに生活に溶け込んでいくから、これが「無印良品」だと自覚しなくなるのかもね。ベーシックで水とか空気みたいな存在。邪魔をせず、主張し過ぎず、生活に溶け込む。そこが「無印良品」の商品の一番のいいところだなと感じたね。
中村:「『無印良品』のどこが好きですか?」というアンケートに対する回答でも、「シンプル」っていう言葉が500回くらい見た気がします。
「取材がいつものように進まない!」
五十君:ではそういったアイテムを一体どのように作っているのかと、ファッションやビューティの開発担当者に取材しました。ファッションの担当者を取材した際に私が驚いたのは、商品企画も理念から入るところ。一般的なウィメンズのアパレルメーカーを取材していると、やっぱりシーズンのトレンドとか今何が売れているかといった話から入ることが多いですし、私自身もそれに慣れている。でも、それとは全く違う企画の立て方をしていることは新鮮でした。マズローの欲求5段階説(アメリカの心理学者アブラハム・マズローが唱えた人間の欲求に関する理論)の話が出てきたときは、「……御社のチームはアパレルの企画をする際にみんなマズローの説のことを考えているんですか!?」と思わず聞いてしまった。これについては、「少なくともマネージャー以上は自問自答していると思いますよ」という回答でした。
林:“MUJIイズム”というか、そういう思想は脈々とあるよね。シャツにしろ化粧水にしろ食品にしろ、あらゆるアイテム1点1点がその思想に合致するか考えられて企画されている気がする。
中村:化粧品部門の担当者の取材でも、正直やり辛いというか、通常とは勝手が違うなと感じた部分もありました(笑)。普段、化粧品の取材をする際は「商品開発にあたってどのようにマーケティングしたか」「どうトレンドを取り入れたか」「それをどう宣伝するか」といったことを聞きますが、今回の取材では「本当に生活に必要なものだから化粧水を開発しました」といった話で、取材がいつものようには進まなかったんですよ。
林:いわゆるマーケティングではない、理念型の商品開発と言えるのかもね。私が印象的だったのは、アパレルの担当者を取材する中で出たヤク(冬のセーターなどに使われる動物性素材)の話。カシミヤは高級素材として認知されていますが、温かさや肌ざわりでカシミヤに劣らないというヤクにフォーカスし、(カシミヤという)名より実を取るという点は、40年前の創業当初に「われ椎茸」を打ち出していたのと共通するなと思った。干しシイタケも、割れていて見た目が悪くても出汁は美味しくとれる。人気の食品「不揃いバウム」も、「ちょっと見た目が悪くても美味しさは変わらない」という考え方でこれらと一緒だよね。
五十君:国内累計ダウンロード数2111万、海外も含めると約5000万という店頭送客のためのアプリ「MUJIパスポート」の担当者の取材でも、理念がまず先にあるんだということを強く感じました。普通それだけのユーザーを抱えているアプリなら、データを分析していかに売り上げにつなげるか、いかに買わせるかという話になると思うんです。でも、そうじゃない。「客をデータとして捉え、データに対してデータで商売するようなことはしません」と。そこはITオリジンの会社とは考え方が180度違う。こうやって「無印良品」らしさは作られ、守られているんだなと思いましたが、同時にそこがECがやや弱いということにもつながっているのかも、とは思いました。
林:自社ECは今年の1月も基幹システム移管のメンテナンスが長引いて休業していたしね。基本的な商品の品切れもECでは珍しくない。
中村:ECの品切れについてはアンケート回答でも指摘が多かったですね。「テレビ番組で取り上げられるとあっという間に品切れになるケースが多い」といった声です。ちなみに今は「発酵ぬかどこ」が幻の商品みたいになっていますよ。店頭もECも出たらすぐに売り切れてしまうケースが多く、なかなか売っていないという声をツイッターなどで見かけます。
林:そのように自然と話題になるケースは多いのに、「無印良品」自身は広告を仕掛けないという点も特徴だよね。今秋は何年ぶりかにテレビCMを制作していたけど、それもあくまでイメージ広告みたいな雰囲気で、何か1つの商品をアピールするという内容ではない。「無印良品」は取り扱い品目が7500もあって、デジタル機器と薬以外はほとんどある。これだけ品数が多いからこそ、「発酵ぬかどこ」「コオロギせんべい」「バターチキンカレー」「二重ガーゼパジャマ」など、いつも何かしら話題になるネタがある。それが強み。服だけ、化粧品だけの店ではやっぱりこうはいかないから。