ファッション
連載 本明秀文のノットスニーカーライフ

アトモス社長・本明秀文のスニーカーライフ番外編「爆速!シュプリーム買収劇」

 スニーカーにまつわる噂話のあれやこれやを本明社長に聞く「WWDジャパン」本紙連載の番外編。昨晩、「ザ・ノース・フェイス(THE NORTH FACE)」や「ヴァンズ(VANS)」「ティンバーランド(TIMBERLAND)」「イーストパック(EASTPAK)」などを傘下に持つ米VFコーポレーション(VF CORPORATION以下、VF)が「シュプリーム(SUPREME)」を買収すると複数メディアが報じた。買収額は21億ドル(約2163億円)。「シュプリーム」は2017年、巨大投資ファンドのカーライル・グループ(CARLYLE GROUP以下、カーライル)に株式の51%を5億ドル(約515億円)で売却しており、3年で企業価値が約2倍に上がったことになる。早速この買収劇について、本明社長に聞いた。

WWD:VFが「シュプリーム」を2000億円以上で買収するようです。

本明秀文社長(以下、本明):今VFの株式時価総額が3兆円以上。“シュプリーム買収”が報道されていきなり株価が11%も上がっているから、時価総額が3000億円以上も上がった。だから2000億円で買収しても、タダで買っているのと同じだし、むしろ1000億円も利益が出た。VFにとってはいい買い物だよね。(シュプリーム創業者の)ジェームス・ジェビア(James Jebbia)も残るみたいだし。

WWD:2000億円の価値については?

本明:どこまで真実か分からないけど、シュプリームの売上高が5億ドル(約515億円)と書いてあった。EBIT(利息及び税金控除前利益)っていうのがあって、これは経常利益と支払利息から受取利息を引いた利益なんだけど、このEBITが200億円ぐらいなんじゃないかなと。つまり単純に年間200億円の利益が出ていて、その10倍で計算して2000億円。この何倍かってのがブランド価値と一緒で、普通のアパレルだと良くて5倍とか、ダメだと1倍とか。「シュプリーム」もセールを始めちゃったし、カーライル的にもこれ以上企業価値が上がることはないという判断じゃないかな?いいタイミングで売ったと思う。

WWD:当初ジェームスはカーライルに株式の半分を売却したわけですけど、最終的には何%保有していたんでしょうか?

本明:契約内容は分からないけど、ジェームスは追加でカーライルに株式を売却していると思う。(初めの売却から)1年後に追加で5%、2年後にまた5%、3年後にさらに5%とか。売り上げが大きくなったらその時のEBITの何倍で買うよとかそういう契約もある。ファンドもバカじゃないから、初めに全ての株式を買いはしなくて、何%かは持っておいてもらった方が、本人(ジェームス)も売り上げを伸ばそうと頑張るからね。だから「シュプリーム」の生産数も増えた。

WWD:確かに生産数は増えましたね。VFは「シュプリーム」が傘下に欲しかったんでしょうか?

本明:「シュプリーム」「ザ・ノース・フェイス」、ハイプなスニーカーがスニーカーヘッズの3種の神器みたいになっているからVFが好調のように思われているけど、僕は逆に悪いんだと思う。

WWD:下馬評だと「VFが好調だから」と言われていますね。

本明:悪いんじゃない?だって、「ティンバーランド」も「ヴァンズ」も売れていないし、「ザ・ノース・フェイス」もゴールドウイン(日本での生産・運営元)は売れているけど、アメリカではそうでもない。だから自分たちでグローバルの市場をコントロールしたいはず。日本の「ヴァンズ」(ABCマートが商標契約をしており、日本での生産・運営元)の売り上げも欲しいはずだよ。だからまことしやかな話で、日本にVFジャパン(仮)やヴァンズジャパン(仮)が出来るんじゃないかと。そうなるとヴァンズジャパンがABCマートに「ヴァンズ」を卸すことになる。スニーカー市場が大きく変わるね。

WWD:そもそもメーカーが複数のブランドを所有するメリットってなんですか?

本明:例えば2ブランドを1カ所にまとめれば、これまで5人ずつ、10人でやっていたことを6~7人でできるようになるとか、人事面での相乗効果はある。だけど、もっとお金がかかるのは、信用調査だよね。例えば新しくアカウント(取引先)を開設しようとしても信用調査が一番難しい。だから帝国データバンクとかがもうかるわけ。情報をブランド間で共有できた方がシナジー効果は大きい。ナイキ(NIKE)だって、ナイキの傘下に「ジョーダンブランド(JORDAN BRAND)」や「ナイキ SB(NIKE SB)」「NSW」とかがいろいろあって、情報共有している。

WWD:なるほど。ちなみに本明さんがアトモスを売却するとしたらいくらですか?

本明:アトモスは(経営者である)僕の自由度が高いからスピード感もあるし、面白いこともできる。経営のシステムが変わると上手くいかないこともあるから、売却を考えるのはなかなか難しいね。まぁ値段は分からないし、言いたくないけど(笑)。

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