昨年9月11日の、創業者・前澤友作氏の電撃退任から約1年。ZOZOが澤田宏太郎社長兼CEOの下、復調を遂げている。10月29日に発表したZOZOの2020年4〜9月決算は、本業のもうけを示す営業利益が前年同期比50.2%増の199億円になり、過去最高を更新した。新型コロナウイルスの感染拡大が本格化した3月以降、ZOZOは尻上がりに業績を上向かせ、3月に1214円にまで落ち込んだ株価も10月に入って3000円を超え、時価総額で一時は1兆円に手が届きそうな水準にまで戻している。新生ZOZOは、何を変え、何を変えなかったのか。澤田社長に直撃した。
年初の「WWDジャパン」のインタビューで澤田社長は、新たな経営指針として“MORE FASHION”と“FASHION TECH”を打ち出した。その根底として「経営指針の最上位にあったのは、“世の中のスタンダードとは違った、ZOZOの個性的なカルチャーを発信したい”という思いだった。ただ、それを発信するとしても、圧倒的に成長していなければ説得力がない。成長を追い求める上で、行き着いたのがファッションとテックの2つの軸。こんなにファッション好きなやつらが1000人も集まっている会社は、世界を見渡してもない。だからそこを生かしきろう、と。さらにそこにテクノロジーを掛け合わせれば、オリジナリティになり、圧倒的な強みにもなる」。
だが1月31日、前澤氏の引退会見以来、久しぶりに社長として公の場に立った19年4〜12月期決算発表で澤田社長は、猛烈な逆風にさらされる。暖冬と増税、さらには前澤氏の“置き土産”とも言える「ZOZOチャンピオンシップ(PGAツアー)」と「バスキア展」の大出費が重なり、10〜12月の営業利益は前年同期比で42.0%減と、ZOZOにとって歴史的な大幅減益を強いられた。より深刻だったのは、コートなどの単価の高い重衣料の比率が高く、アパレル小売りにとって“稼ぎ時”とも言える冬場にもかかわらず、商品取扱高はわずか0.3%増にとどまり、平均出荷単価(AOV)も同6.3%減の8973円と落ち込んだ。アナリストからは減益の理由となった暖冬への対応や具体的かつ効果的な巻き返し策に質問が集中しただけでなく、ある有力なアナリストからは「これまで暖冬や増税の影響を決して認めてこなかったにもかかわらず、業績悪化の理由にしたことは残念だ」という厳しい指摘も飛んだ。
それでも澤田社長は、アナリストが澤田氏に求めていた短期的な巻き返し策ではなく、メディアの取材でも答えたように、“MORE FASHION”と“FASHION TECH”という経営の新基軸と、高感度ブランドの導入やテクノロジーを活用したリアル店舗支援などの中長期的な成長戦略で答えた。このやり方は、アナリストと株式市場の双方に失望を生んだ。株価は下げ止まらず、3月16日に時価総額は4000億円を割り込んだ。“ZOZOスーツ”やプライベートブランド「ZOZO」、前澤氏の月旅行などの話題を振りまき、ピークだった18年7月の1兆5052億円と比較すると、およそ4分の1にまで落ち込んだのだ。
澤田社長はこう振り返る。「思っていた以上に、社員たちには“MORE FASHION”というコンセプトが響いた。これまでは大量の服を大量に売るということに走りがちで、社員の心の中にも迷いがあったのだと思う。そこに、私たちはファッションを最重視する会社なんだ!と定義したことで、社員の気持ちを一つにまとめられたし、彼ら/彼女らが迷ったときに立ち返るべき指針にもなった。納得感・安心感みたいなものがあったのだと思う。これまで圧倒的なカリスマ性と創造性を持った前澤という人物が社員の心の拠り所にもなっていた。それをコンセプトに置き換える必要もあった」。澤田社長は、短期的な業績低下の批判を受け止める代わりに、社員のモチベーション向上を優先したのだった。
と同時に水面下では、中期的な巻き返しのための手を打っていた。「送料無料のラインをどこに置くかとか、クーポンをどうするとか、そういった小手先の施策ばかりを考えるのはもうやめようよ、と。お客さまに気持ちよく買っていただくためにはどうするのか。外からは見えない地道な改修を積み重ねた。同時にこれまで手を付けてなかった自社倉庫“ZOZOベース”の効率化にも取り組んだ。これまでは、細かい検証と改善の上に成り立つ物流の効率化に対しては、拡張も続いていたし、心のどこかで“そんなことかっこよくない”みたいなところがあったと思う。でも、これが効いた。倉庫から出荷した先の荷造運賃の上昇は止まらないけど、それを上回る成果を挙げ始めている」。
そこに降りかかってきたのが、前代未聞の未曾有の災害である新型コロナ禍だった。4月7日以降、首都圏を中心にリアル店舗を2カ月近い休業に追い込まれたファッションブランドにとって、「ゾゾタウン」を中心にしたネット通販は最盛期を迎えていた春夏物販売の頼みの綱だった。ZOZOにとっては降って湧いたような追い風だった。澤田社長は「振り返ってみれば私自身も、(中長期的な施策は)信じきらないとやりきれない部分はあった。でもコロナで想定以上に速いスピードで業績が戻った。実際にはコロナはファッション消費そのものの需要自体の減少もあった。それでも地道に進めてきた改修が大きく効いた」。
今後の課題はボトムアップ型組織の確立
地道な改修と並行してボトムアップ型の組織への移行は1年を経て、「ようやく神経と神経がつながってきたという感じ」という。「思った以上に時間がかかる。各人のコミュニケーションのとり方とか会議の設定方法とか、そういったものがようやくできて、今はそこに電気がどんどん流れ混んでくる感じ。僕自身には奇をてらったり、クレイジーなことをするケイパビリティはない。でもそれは僕じゃなくていい。夏には、配送のダンボールに開けると花火の音が鳴る企画があった。え?って思ったけど、そんなこと僕は思いをつかないですよ(笑)。でもそれがいい。そういった企画が出てくることが今は最大の楽しみになっている」。
澤田社長にとっては就任から1年が経って、ようやく本格的な船出と言えるだろう。依然、アナリストからの評価は厳しい。小売分野のトップアナリスト一人であるSMBC日興証券の金森都チーフアナリストは投資評価を7月からはSELLに据え置いたままで、現在の株価は割高に見ている。
国内では東コレの冠スポンサーになった楽天が、三木谷浩史会長兼社長の懐刀である松村亮執行役員が陣頭指揮を取り、「楽天ファッション」のテコ入れを進めている。ラグジュアリーブランドの出店も始まっており、これまでは“棲み分け”があったものの、今後はがっぷり四つの戦いを強いられることになる。
海外に目を転じれば、世界最大の市場の一つである海を隔てた隣国の中国を舞台に、ジョゼ・ネヴェス氏が率いるファーフェッチが中国の2大メガEC企業であるアリババとJDドットコムから巨額の資金を引き出し、さらにはリシュモンとケリングという欧州ラグジュアリー3強のうち2強から資金を引っ張るという前代未聞の荒業を成し遂げ、中国市場の攻略に本腰を入れている。国内市場をできるだけ速やかに制圧後に目指すべき中国市場では、日本以上に厳しい戦いが待ち受ける。
ZOZOのリニューアルしたばかりの企業HPで、澤田社長は座右の銘として「火中の栗は拾っとけ」を挙げているが、今後拾うべき栗は1つや2つではない。そんな澤田社長を強力に援護できる、頼もしい社員がどれだけ出てくるのか。今後のZOZOの行方は、そこにかかっていると言えそうだ。
ちなみに就任直後はあえて連絡を絶っていた前澤氏とは、今はたまに連絡を取るようになった。「やり取りはたまにLINEで(前澤氏から)『決算よかったね~』って来て『アザッス』くらいです」。