「WWD ジャパン」は12月1日に、“サステナブルなファッションの未来を共につくる”と題した「WWDジャパン サステナビリティ サミット第1回」を開催する。その第3部では“服の廃棄物問題に対して若手研究者はどんな解決方法を考え未来を見ているのか?”をテーマに、栗野宏文ユナイテッドアローズ上級顧問クリエイティブディレクション担当が、若手研究者たちと対談する。LVMHプライズ設立当初から外部審査員を務め、若手クリエイターの発掘に長く携わってきた同氏は業界が抱えるサステナビリティの課題をどのように見ているのか、話を聞いた。
WWD:ご自身がサステナビリティについて考えるきっかけとなった出来事は?
栗野:サステナビリティという言葉を意識し始めたのはこの10年くらいですが、僕らの世代は光化学スモッグ世代で、小学生の頃から公害や地球環境について考えなければいけないと教えられてきました。1960年代末から70年代には「ホール・アース・カタログ(Whole Earth Catalog)」のようなカウンターカルチャーの中で“エコロジー”という言葉に触れていました。僕自身は常に環境問題に関心がありましたが、ファッション業界がサステナビリティを業界の課題として認識するようになったのは2013年にバングラデシュで起きたラナプラザ事件が大きかったと思います。ヨーロッパはこれからの時代に、サステナブルでなければもうモノを買ってもらう理由がないと考え、先進的に取り組みを開始しました。「もったいない」の精神が根付いている日本では生活者の意識は高いと思いますが、ビジネス面、特にファッション業界は取り組みが遅れていますね。
WWD:なぜ日本のファッション業界は遅れている?
栗野:「新しいものを作って買ってもらわなければ商売にならないよ」とか「エコな素材だけで服は作れないよ」とか「エコ素材はコストが上がってしまう」とか、ネガティブ要素ばかりを考えているのが原因でしょう。しかしそれらは言い訳に過ぎません。日本では世の中で新しいことに挑戦する時にできない理由を先に挙げる傾向がある。でも、それでは世の中は変わらない。例えば、グレタ・トゥーンベリ(Greta Thunberg)さんはたった1人で座り込み運動を始めました。そこからだんだんと賛同者が増え、世界的なうねりになりました。つまり、この問題はやるかやらないかなんです。
ニーズがあれば必ず人は発明する
WWD:ご自身の著書「モード後の世界」(扶桑社)の中では、これからのファッション業界で大切な要素にサステナビリティ、ダイバーシティ、西洋的価値観の行き詰まりをあげていた。
栗野:その3つの要素を乗り越えない限り、お客さまはモノを買ってくれない。それを乗り越えるところにビジネスが生まれると思います。遠い人と話したいと思ったから携帯電話が誕生したようにニーズがあれば必ず人は発明します。廃棄ゼロのパターンメーキングに取り組む川崎和也Synflux(シンフラックス)代表のようにすでに実行に移し始めている人もいます。
WWD:LVMHプライズでもここ数年、サステナビリティに取り組むデザイナーの活躍が目立っている。
栗野:LVMHプライズは第1回から審査員を務め、7年目を迎えました。1回目からサステナビリティをテーマにしている人はいましたが、回を重ねるごとに増えています。7回目はベスト8に残った半分以上がサステナビリティをテーマにしていました。ファッションがサステナビリティに取り組むには「コム デ ギャルソン(COMME DES GARCONS)」のように、服が持っている強さや魅力によって捨てられない服を作るという方法と、僕が注目している日本ブランド「テキスト(TEXT)」のように、環境に配慮したモノ作りを徹底する方法があります。その両方があってこそのファッションですし、LVMHプライズではどちらもありだと思います。しかし、業界の一番大きな流れはサステナビリティなので、LV側も応募者にそこを意識したものを出すように要請しているようです。
WWD:サステナビリティにはさまざまなアプローチがあるということか?
栗野:この問題は“反公害運動”や“環境保護”“エコロジー”など常に言葉を変え取り上げられてきました。現在はSDGs(持続可能な開発目標)としてより包括的な問題を指摘しています。しかし、SDGsとうたえば無駄なものを生み出して良いわけではありません。無駄を作らない、無理に売らない、作りすぎない、廃棄しない、これらを最優先にすべきでしょう。大変なことですが、やればできると思います。ファッションが好きなのであれば、正しく批判と弁護ができなればダメです。モノを生み出すということは、どこかで誰かに迷惑をかけていることも考えなければいけない。
WWD:サステナビリティの取り組みをしている注目ブランドは?
栗野:日本だと先ほど挙げた「テキスト」です。「テキスト」は“Farm-to-Closet(農場からクローゼットへ)”をコンセプトに掲げています。例えば、染色工程の汚染を最小限にすルために茶色と黒のチェックを作るには、茶色と黒のアルパカに会いに行くそうです。もちろん、カーボンフットプリントの観点で言えば負担はあります。けれど、極力環境負荷を軽減させようと努力している。僕はそういう人たちを応援したい。
サステナビリティを流行りにしてはいけない
WWD:宣伝としてのSDGsを使うブランドと、栗野さんが応援したくなるブランドの違いは?
栗野:本人と会って話して、人として信頼できるかどうかに限ります。その人がどこまで挑戦しようとしているのかをヒアリングします。それでもやはり、世の中に無駄なモノを生み出していないか、という視点は大事です。
WWD:サステナビリティは企業活動を前進させるエンジンとなりうるか?
栗野:捉え方次第でしょう。縛りがあると出来ないという人もいるでしょう。しかし、問題解決をすることで人々は進歩してきました。真剣に取り組めば必ず答えはあります。出来るか出来ないかではなく、やるかやらないかです。
WWD:「WWDジャパン サステナビリティ サミット第1回」では、服の廃棄物問題にテクノロジーで解決を試みる若手研究者と対談していただく。彼らに期待することは?
栗野:今のコロナウイルスのワクチンと同じように、それさえできれば解決すると期待するのは間違いです。ウイルスは変異します。では、何が一番大事かというと自己免疫力と抵抗力です。川崎さんのような事業はこれからどんどん業界に適応されていくと思いますが、それだけが解決策ではない。いわゆるモノを作るデザインとテクノロジーがいかに融合するかに注目しています。「もったいない」の精神がDNAに根付いている日本人は、その気になれば環境先進国になれると思います。ただ、サステナビリティを流行りにしてはいけない。電気自動車に乗れば良い、オーガニック素材の服を着れば良い、ではなく暮らしの全てにおいて地球環境と結びついていることをみなが自覚して、努力することが大事です。