新型コロナで、これまでインバウンドやトラベルリテール需要の大きかった企業は痛手を受けた。特に中国客に期待していた企業の中には、越境ECや一般貿易など、中国客へ新たなアプローチを模索するところも少なくない。そのハードルは低くないが、勝ちパターンはあるのだろうか。
日本企業の中国進出サポートやマーケティングを手掛けるトレンドエクスプレス(トレンドExpress)の濱野智成社長に、今の中国のニーズと消費者動向を取材。その中から見えた3つのポイントを紹介する。
在日中国人から熱意あるUGCを増やす
中国ではインフルエンサーのことをKOL(Key Opinion Leader)と呼ぶ。これに加えて、フォロワー数百〜1万以下で、より消費者に近いKOC(Key Opinion Consumer)もいる。どちらもプロモーションで起用される欠かせない存在だが、KOLを起用するより先に注力すべきはUGC(User Generated Contents)を増やすことだ。
「プロモーションの初期は在日中国人や、在日ソーシャルバイヤー(代購)をターゲットとするべきだ。彼らは日本の商品を中国向けに展開するコンシェルジュのような役割を果たしている。彼らの認知を拡大していかないと、いきなり中国SNSで広告を打っても費用対効果が見合わない。中国の方から『進出してほしい』と思われることが第一優先だ」と濱野社長。在日中国人の理解を深め、熱意のある口コミ(UGC)を投稿してもらうことが重要だ。
これと並行して、公式情報を発信する基地として公式アカウントを設置し、情報を発信する。その次に、流通開拓をしてくれる代理店と共に、いつ公式旗艦店を開くか、KOLを起用するかのタイミングを模索していくことになる。
濱野社長によると、越境ECを開始するタイミングは「おおよその目安として、タオバオで1カ月に1万件ほど検索をされ、またUGCが1000件投稿されている状態(小紅書の場合)」。日本で実績のある商品であれば、中国向けのプロモーションをしていなくてもすでに1000件ほど投稿はあることが多いという。
日本市場におけるブランドステータスより上を狙う
また、濱野社長は「日本の化粧品ブランドで勝ち筋を見つけるとしたら、プレステージカテゴリーを目指す必要がある。低価格帯は中国のローカルブランドが市場を作り飽和しつつあるため、先行優位性が相当ない限り勝っていくのは難しい。新規で参入するブランドは、日本市場で得ているブランドステータスより少し上を狙わなければいけない」と語る。
ブランド価値を高めるには、ブランドのストーリーを伝える施策が重要だ。例えば、ブランドマネージャーや研究者、社長といった“ブランドの中の人”が語るコンテンツも大きな力を持つ。「研究者が話すときに、技術や開発力についての話(How)をしがちだが、なぜその商品を作ろうと思ったのかの話(Why)を掘り下げると、消費者がより共感しやすい情報になる」と濱野社長。
こういった大掛かりなマーケティング手法はプレステージブランドが行うことが多いが、中国では地元の中価格帯ブランド「完美日記(Perfect Diary)」や「花西子(Hua xi zi)」も同様の手法でストーリテリングを行っているという。両ブランドは中国化粧品業界でも注目を集める成功ブランドで、他社よりも高級路線をとっている。
いざ中国進出、旗艦店立ち上げのタイミングは?
こうしたプロセスを経て、公式旗艦店を開くタイミングになる。多くのブランドが選択するのがTモール国際などの越境ECだ。越境ECであればNMPA(中国国家食品薬品監督管理局)に申請することなく販売できる大きなメリットがある。一方で越境ECは消費者とオフラインでの接点は持つことができない。濱野社長は「越境ECのみでブランド規模が成長しない原因に、オフラインでは接点を持てないことがあると考えている」と指摘する。
その欠点を補うのが、トレンドエクスプレスが新たに開始するサービス「意中盒 -SURPRISE BOX-」だ。同社と提携するアプリやカルチャーセンター、ジムなどを利用する、中国本土に住む1500万人の中から企業の狙いに合った人にのみにギフティングを行うサービスで、「リアル店舗のように実際に手に取って使うことで商品の良さを体感してもらいたい」という企業側のニーズに応える。
仕組みとしては越境ECに商品を展示し、ユーザーにそこから商品を購入してもらう。購入費用はサービス側で補てんするため、消費者は無料で商品を試すことができる。また通常の発送とは異なり、ブランドイメージをつくる豪華な箱でラッピングするなどの演出で体験価値を上げるという。
ギフティング後、企業側はユーザーアンケートを取ることができ、その結果から商品の評価されているポイントや消費者像を知ることができ、中国での訴求ポイントの戦略を練る中で活用できる。例えばある男性向け化粧品ブランドは、これまで対象としてこなかった若年の寮生活をしている学生に商品を試してもらい、新たな商機を見つけるとともに「化粧品を使うべき場面がイメージできない」という消費者側の思いを理解するに至ったという。
同社の中国事業を統括する子会社・数慧光(上海)商務諮詢有限公司(Trend Express China)の渡辺健太COO(最高執行責任者)は「単に市場調査をするだけでなく、消費者に商品を気に入ってもらい、リピートしていただく機会にしたいと考えている。また今後は本サービスからUGCを生み出す施策も考えていく」と語った。