ユニクロは11月13日、デザイナーのジル・サンダー(Jil Sander)氏とのコラボレーションライン「+J」を発売する。同コラボは2009年10月1日のパリ・オペラ旗艦店オープンに合わせてスタートし、11年秋冬まで5シーズン継続。今回は9年ぶりの販売となる。サンダー氏以降、同社はパリR&Dセンターを率いるクリストフ・ルメール(Christophe Lemaire)を始め、ジョナサン・アンダーソン(Jonathan Anderson)、アレキサンダー・ワン(Alexander Wang)など、世界のトップデザイナーとの協業を重ねてきた。数々のコラボを担当してきた勝田幸宏ファーストリテイリング執行役員ユニクロR&D統括責任者に、サンダー氏との“再会”について聞いた。
WWD:今回のコラボレーションは約1年前から準備を進めていたと聞いたが、なぜこのタイミングで復活することになったのか。
勝田幸宏ファーストリテイリング執行役員ユニクロR&D統括責任者(以下、勝田):前回のコラボが終了した11年以降も、実は2年に1度くらいの頻度でサンダー氏とは会っていた。3年前に(サンダー氏の出身地)ドイツ・ハンブルクで行われたサンダー氏の展覧会にも足を運んでおり、折々で「またいつか一緒にできたら」という話はしていた。「ユニクロ(UNIQLO)」は先月、ハンブルクに旗艦店をオープンしたが、その出店はコラボ復活のきっかけの一つになっている。出店が決まった時点でサンダー氏に報告し、昨年プロジェクトが動き出した。
09年当時は「ユニクロ」の海外での知名度はまだまだ低かったが、今では店舗数も売上高も海外が国内を上回り、われわれの立ち位置は11年前と大きく変わっている。コロナ禍で残念ながら東京五輪は延期となったが、2020年は世界中のさまざまな人にとってターニングポイントになると思い、ここからもっともっと世界中の皆さんに喜んでもらう服作りをしていきたいと考えた。それが、未来に向かってコラボの第2章を実現しようと決めた背景だ。
WWD:「+J」以降、「ユニクロ」はさまざまなデザイナーと取り組みを重ねてきた。その中でもやはりサンダー氏とのコラボは思い入れが深いのか。
勝田:どのデザイナーと組んでも、毎回毎回目からウロコが落ちるような気づきがある。中でもサンダー氏は、われわれがグローバルな存在になれるかどうかまだ分からない09年のタイミングで一緒に取り組んでくれた相手。上質で長く着られる服を作ろう、それは値段とは関係ない、という考え方に理解を寄せてくれた。当時、サンダー氏と「ユニクロ」の取り合わせには世の中がびっくりしたが、そんな中でコラボすると決めてくれたサンダー氏に僕は感謝と敬意を込めた特別な思いがあるし、それは柳井(正ファーストリテイリング会長兼社長)も同じだと思う。
WWD:サンダー氏を始めとしたデザイナーと取り組むことは、「ユニクロ」の通常ラインにどんな効果をもたらすのか。
勝田:(コラボによって追求されたディテールや仕様などが)通常ラインのデザインに生かされる部分もあるが、一番強く感じるのはチームの学びの部分だ。今回のコラボで言えば、サンダー氏のデザインへの向き合い方や考え方、徹底的に追求する姿勢は無形ではあるが、大きな財産としてチームの中にしっかり残っていく。
2度目のコラボということでお互いに分かっているだろうという気持ちで企画に入ったが、品質、デザイン、仕上げなどさまざまな面で、改めて「さすがだ」「われわれはそこまでは到達していなかった」と感じる部分が多かった。サンダー氏は常に限界を超えてより良いものを作ろうと追求している。だからこそ良い商品ができるんだとチームみなが肌で感じたし、その姿勢を通常ラインにも持っていけば、「ユニクロ」としてやれることはまだまだたくさんある。サンダー氏は「もっともっとできる!」と徹底的に追求していくので、われわれは千本ノックを受けているような気分だった(笑)。大変だったけれど楽しくて、充実感に満ちていた。デザイナーとの取り組みでは、いつもこのように学ばせてもらっている。
WWD:サンダー氏と取り組むことで、具体的にはどういった部分が変わるのか。
勝田:それは企業秘密だが、実はそんなに複雑なことではない。でも、言われてみればそこまでは気が回っていなかったな、という部分だ。一つの工程、一つの考え方が違うだけで、仕上がりがこれほどまで変わるのかと驚かされる。通常ラインの商品と同じ生地屋、同じ縫製工場で生産しているのに、「ああして」「こうして」と言う人が変わるだけで、できあがる素材や商品は全く別のものになる。やはり違いを生むのは人のディレクションであり、どこまでこだわるか、細かく見るか、チェックするかという部分なんだと思う。
WWD:多くのトップデザイナーと取り組む一方で、「ユニクロ」は“ボイス・オブ・カスタマー(以下、VoC)”と呼ぶ、客の声を生かしたモノ作りにも力を入れている。その2つはどう関わりあっているのか。
勝田:デザインすることはアウトプットであり、VoCはインプットだと思っている。お客さまにどういうものが必要とされているか、または必要とされていないかを目の当たりにしていくのがVoCだ。ただ、お客さまから聞いた話をそのまま商品にするというのでは物足りない。声をもとにして、どんなデザインにしていくのかを考える。だから、デザイナーとの取り組みとVoCは別の話というわけではない。お客さまの声は常に聞いていて、その声に対してサンダー氏などの外部デザイナーや社内デザイナーが今できる最高の形を出していく。
WWD:コラボの立ち上げからは11年が経った。この間を振り返って、R&D(リサーチ&デベロップメント)部門としての到達点と課題は何か。
勝田:R&Dにゴールはない。お客さまの要望や需要を理解しながら、いかにアウトプットしていくか。モノを形にしていく作業には、ここまでやればOKという指標がない。今日いいものができたと思っても、次の日にはもっといいものがあるんじゃないかとなる。シンプルなもの一つ一つをよりよくしていくことが、われわれが掲げる“LifeWear”のデザインのあり方。もっともっと上があるんだと追求していく姿勢は、09年当時よりも社内で強くなっていると思う。「+J」の後にもさまざまなデザイナーと知り合っていろいろな経験をしてきたつもりだが、まだまだやるべきこと、勉強することはたくさんある。もっといいデザインを追求していかなければならないという意識が強まっている。
WWD:話題のコラボだけに、今回の「+J」がどれくらい在庫を積んでいるかも気になる。また、コラボはいつまで続くのか。
勝田:どちらも公表はしていない。生産数量については、求めていただける方にはお届けしたいという気持ちと、ニーズを読み間違えて残してはいけないという気持ちの両方がある。ただ、全商品を扱うのは国内では48の店舗とECだが、マスターピースと考える一部の商品は国内全店舗で販売することになっている。それは前回のコラボ時とは異なる点だ。今回は品番もかなり厳選しており、どれ一つとっても完成度は非常に高い。「10年分買っておいたら?」と薦めたくなる商品ばかりだ。