【PROFILE】1991年生まれ。広告、CDジャケット、雑誌、カタログの他、映画、サカナクションのPVなどの映像作品も手掛ける。2011年、キヤノン主催の第34回写真新世紀優秀賞を受賞。主な写真集に「Girl」「A REAL UN REAL AGE」などがある
「ギンザ(GINZA)」1月号で、「2015年のファッション」をテーマに83枚の写真を撮り下ろしたのが、24歳のフォトグラファー奥山由之だ。特集を記念して12月22〜24日には「NEW FASHION PHOTOGRAPHY」展を原宿ヴァカントで開催する。来年には大規模な個展をひかえるなど、今注目の若手フォトグラファーだ。現場での感覚に長けており、撮影で「チェキ」や「写ルンです」を使用するなど、独特の写真には定評がある。一方でまわりからは“リサーチも緻密で努力家”との声が多い。そんな奥山由之の考えをひもとくべく、カメラについて、ファッション写真ついて、話を聞いた。
WWDジャパン(以下、WWD):写真を好きになったきっかけは?
奥山由之(以下、奥山):高校生の頃は映像を撮ることが好きで、絵コンテを書くために写真を撮っていました。その頃はデジタル一眼でしたね。本格的に写真を始めたのは大学1年生の頃。散歩が好きで、いろいろなものを撮っていました。映像には音声も時間もあるのに、写真には視角情報しかない。しかし、制約があることで、窮屈さの中に一種の奥深さ、見せすぎない色気のようなものを感じたんです。
WWD:フィルムカメラを使い始めたのはいつ?
奥山:タイに友だちと旅行に行った時に、友だちがフィルムカメラを使っていて。そこで撮らせてもらったのが最初でした。その後、すぐに撮ったものをまとめた写真集「ガール」を作成しました。大学2年生の終わり頃に、はじめてフィルムを使って仕事として撮影をしました。
WWD:フィルムカメラの何に惹かれた?
奥山:タイではじめて撮った写真は失敗だらけでした。でも、時間が経ってもう一度見てみると、意外といいと思う写真があったんです。撮った瞬間はその時の体験が残っていますが、時間が経つと経験抜きにフラットな視点で見ることができる。デジタルなら気に入らない写真はその場ですぐに消せるのに、フィルムはそれができない。おかげでこんな発見ができたんです。また、デジタルで撮った写真は全てを点にして色を数値化できますが、フィルム写真の色は数字では表せない。その場の光やフィルムなどいろいろな物体が介在するので、何が生まれるか分からないんです。予想した適正値ではないところで写真が生まれる面白さ、自分でコントロールできないことに魅力を感じました。
WWD:フィルムとデジタルの違いは何か?
奥山:フィルムとデジタルは別の次元の話だと思っています。テニスと卓球、油絵とクレヨンといったように。デジタルを否定しているわけもないですし、あえてフィルムを使っているわけではないんです。ただ、デジタルを利便性という面だけで捉えることは、意味がないように思います。
WWD:写真を仕事にしようと決意したのはいつか?
奥山:実は、「仕事にしよう!」と決意したことがないんです。大学卒業後に就職をしましたが、どうしても写真が撮りたくて、仕事を辞めました。撮りたいものがたくさんあるから、今がある、という感じです。昔から魅力的な人に対して、表現したものを見てもらいたいという気持ちが強かった。それを実行して、仕事につながって、今があるのかもしれません。
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奥山由之が考える「ファッション写真」とは?
「ギンザ」1月号表紙 Photo by Yoshiyuki Okuyama
WWD:「ギンザ」の特集はどういう思いから生まれた?
奥山:「ファッション写真は、もっと多様性があっていいんじゃないか」という思いです。もちろん、今のファッション写真を否定しているわけではなく、いいものもすでにたくさんあります。でも、さまざまな角度から読者に刺激を与えられるものを、一つのまとまった形として世の中に出したかったんです。
WWD:特集を終えた率直な感想は?
奥山:雑誌が届いた時は、「楽しそうでいいなあ」というのが、第一印象でした(笑)。特集は9月から2カ月以上をかけて、撮影時間250時間、250本のフィルムを使って作りました。そのため、1枚ごとに思い出がたくさんあって、全てが印象深いです。
WWD:この特集の一番の特徴は?
奥山:発想からスタートした、という点です。洋服もロケーションも決めず、発想をもとに洋服を決め、モデルを決め、撮影にのぞみました。そうすると、自分だけでは想像しえなかったスタイリングなどが出てきて、この人の発想でこんなにかわいくなるんだ、と感動しました。その結果、今まで以上に服に対して興味を持てました。
「ギンザ」1月号から、“オシャレな農家”という発想だけをもとにできた写真という Photo by Yoshiyuki Okuyama
WWD:具体的にはどんな発想があったか?
奥山:たとえば、「広瀬すずさんを撮りたい」という人からの発想や、「バッグから水が出てぶつかる様子」という抽象的な発想もありました。考える行為はとても大切で、普段から撮影までに必ず“考える日”を作ります。1日中ファミレスにこもって考えても出てこないこともありますが、不意にひらめくことがあって、そういったところから出た発想でした。他にも「ピンボケでぶれている」という、写真では一見NGなことを実施しようと決めたり、中には予定にはなかった情景で急きょ撮ったものもありました。
WWD:この特集を読んで、何を感じてほしいか?
奥山:雑誌にも写真にも、作り手がいて、読み手がいる。それなのに、すぐに忘れ去られるのは悲しいこと。だから、5年後でも10年後でも記憶に残って、その時に新しい捉え方をしてもらえるような特集を作りたかったんです。見るタイミングによって感じ方は全く違うので、服だけじゃなく、「この時代ってかっこよかったよね」という、全体の空気感を感じてほしいです。
WWD:特集タイトル「これはファッション写真なんだろうか?」という疑問に対して、この特集を終えて、どう感じるか?
奥山:ファッション写真というのは、いろいろな人の手があって、出来上がります。同じモデルでもスタイリストが異なると見え方が全く違います。発想が先であれ、ロケーションが先であれ、最終的に仕上がったものは「この洋服でなければ、この写真・情景を表現できなかった」と思います。携わってくださったみなさまに本当に感謝です。
■イベント情報
イベント名:奥山由之写真展「NEW FASHION PHOTOGRAPHY」
場所:原宿VACANT(東京都渋谷区神宮前3-20-13)
期間:12月22~24日(22日は19時〜20時30分、23、24日12時〜17時30分)
※23、24日にはそれぞれ中島敏子「ギンザ」編集長、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)とトークショーを実施予定